第五十五話 目覚めない翔鬼
茨木童子に心臓を貫かれ瀕死の状態の翔鬼!
傷薬を塗るが傷がふさがらない!!
第五十五話 目覚めない翔鬼
「「翔鬼!!」」
茨木童子の気配が遠のいてから、白鈴と白狼はやっと翔鬼の元に駆け寄った。
翔鬼を覆っている瓦礫をどけて白癒羽が大急ぎで薬を塗るが、なぜか傷口が塞がらない。
「おかしいわ!! 傷が治らないの!! こんな事は初めてよ!!」
何度も塗り直すのだが、一向に傷口は塞がらないし血も止まらない。
すると、今までどこかに隠れていた妖怪達が顔を出し、翔鬼達を覗き込む。
「殺されたのか?」
「茨木童子様を怒らせたみたいだな」
「あれはもうダメだ」
「俺の店が無事で良かった」
周りで好きな事を言っている。
「ダメだ! 場所を移そう」
白狼が抱き上げて飛んでいき、白鈴も後を追った。
出口近くで与作と合流し、町を出た直ぐ先の森の中にある川の近くに翔鬼を下した。
白癒羽が翔鬼の服を脱がせて薬を塗ろうとした時、傷口の中からチビ敬が出てきた。
「あっ! チビ敬さん!」
「あの刀には毒が塗られていたようだ。 解毒をしたのでもう薬が効くはずだ。 急いで塗り直してやれ」
「はい!」
白癒羽が急いで薬を塗ると、今度は傷口が塞がっていった。
しかし、完全に傷口が塞がったにも関わらず、翔鬼の意識が戻らない。
「おい! チビ敬! 翔鬼が起きてこないぞ! ちゃんと毒が抜けてないんじゃないのか?!」
チビ敬が悪いのではない事は分かっているのだが気持ちの行き場所がなく、思わず白狼が怒鳴る。
「あの毒は猛毒だ。 もし三本角だったなら即死だっただろう。 それに刀を使って体の中に直接毒を入れられたんだ。 体に吸収された毒まで完全に解毒するには時間がかかる」
「時間はかかるが大丈夫なんだな?!!」
「俺を信じろ」
やっと白狼は体の力を抜いた。 そして体が熱を帯びていて震えている翔鬼を体と尾で包み込むようにしてピッタリと横に伏せた。
チビ敬が与作に飛び移る。
「お前、竹筒を持っていたな」
「あ···はい」
与作は竹筒を差し出した。
「開けろ」
竹筒の栓を開けると、その中にチビ敬が入っていく。
「チビ敬さん?」
白鈴も興味津々でその竹筒に見入る。
そのうちチビ敬が出てきた。
「中の水を解毒剤に変えた。 ついでに栄養価も上げておいたので翔鬼に飲ませろ」
「承知しました」
与作が飲まそうとしたが、こぼれて上手くいかない。
「もったいないなぁ! こぼすなよ!」
チビ敬に怒られて与作は焦って余計に上手くいかない。
すると私に貸しなさいと白鈴が取り上げた。 そしてその竹筒の解毒剤を自分の口に含むと、直接翔鬼の口に流し込んだ。
「それでいい。 半刻ごとに飲ませろ」
そう言うと翔鬼の髪の中に入っていった。
◇◇◇◇◇◇◇◇
竹筒の解毒剤を飲ませ終わっても翔鬼は目覚めない。
太陽が天中高く昇って昼の季節に入っても目覚める気配がない。
いつまでも森の中にいるわけにもいかないので、一度京の条町まで戻り、町の長に戻った二人の鬼神の所で世話になる事になった。
キズも癒え、熱も下がってただ眠っているように見える翔鬼はいつまでたっても目覚めない。
その翔鬼の横から白狼は片時も離れる事はなかった。
◇◇◇◇◇◇◇◇
ふと目が覚めて顔を上げた。
外から聞こえてくるジージーとうるさいほどのセミの鳴き声が耳の中で鳴り響く。 窓の外からの夕焼けの真っ赤な日差しで部屋の中の全てが赤く染まっていた。
「宿題をしながら寝ちゃったんだ···あっ! シロの散歩に行かなくっちゃ。 シロ、散歩に行くよ!」
キッチンのテーブルの下が夏の暑い日のシロの定位置だ。 シロは飛び起きると嬉しそうに尻尾をブンブン振りながら僕の所に駆けてきて早く!早く!と周りをグルグルと回る。
首輪とリードを付けて散歩に出かけた。
もう夕方だというのに、茹だるように暑い。
いつものように白いガードレールの所で海を見る。
「アッチ!」
ガードレールで焼き肉ができるのではないかと思うほど熱かった。
崖の下の先に見えるW字の海岸線に夕焼けの赤い光が反射してキレイだ。
「夏休み中にもう一度海に行きたいな」
右側を見上げると壮大な富士山の裾に夕焼けの真っ赤な太陽が半分埋っている。
なぜか富士山を見て胸がチクンと痛んだ。
「いつまでも暑いなぁ···シロは毛皮を着ているから暑いだろう」
「これが思ったより暑くはないんだ、 それより今はシロではなく白狼と呼べよ翔鬼」
えっ?!と愛犬を見ると、翼がついた白い狼が隣にいた。
···そうだった···白狼だった···
「いい加減に起きなさいよ!」
白鈴が足を蹴ってきた。
相変わらず顔は可愛いのに乱暴なんだから!
横にいた大天狗は握り締めた両手の拳を太腿につけ、深く頭を下げてきた。
「誠にありがとうございました。 必要な時はいつでも拙者の名を呼んで下され。 いついかなる時にも馳せ参じます」
大天狗は白狼並みに俺を慕ってくれていて、とても感謝だな。
「俺の実力を見せてやるから楽しみにしておけよ!」
まだ小さい土蜘蛛のくせに生意気な言葉使いの敬之丞だが、彼の分身のチビ敬には何度も救われた。 なかなかの実力だという事は認める。
「遠い遠い昔の事じゃった。 突如巨大な妖気を持つ者がこの妖界に生まれたのじゃ。 その妖怪の名は八岐大蛇」
ぬらりひょんは昔話しを聞かせるように話す。
そうだ八岐大蛇を俺が倒すようにと言われているんだ。 俺に巨大な妖怪を倒す事なんてできるのだろうか?
そう思っていたら白鈴の怒ったような言葉が飛び込んできた。
「今まで何人の妖怪を助けてきたと思っているの!! 少しは自覚を持ちなさい! それに貴方一人で戦えなんて言っていないでしょ!!
一緒に戦うために妖界でも一二を競う強者ばかりが集まっているのよ。
今までも貴方には驚かされる事ばかりだったわ。
貴方は強い。 貴方は優しい。 そして貴方は強運を持っているわ。 きっと大丈夫よ。
だから今は先の事より、これからしないといけない事をしましょう」
白鈴は俺をおだててくれるけど······いってっ!!···急に頭に痛みが走った。
···何だろう···経験したことがある痛みのような···
「こんなに気持ちのいい遠出は初めてかもしれん、ハハハハハ!」
恐ろしく美形の五本角の酒呑童子が楽しそうに大笑いしている。 しかしその顔が急に邪悪になり刀を向けてきた。
「こんなに簡単に終わるとは拍子抜けだな、じゃあな」
うわぁぁぁぁぁぁぁ! 左胸を激しい痛みが襲う。
「茨木童子!!···ダメだ! 勝てない!···奴を前に何も出来なかった。 動く事さえできなかった。 茨木童子にさえ勝てないのに···」
「心配ない。 翔鬼はもう茨木童子より強くなったのだから···」
目の前に黄金の龍が現われた。 角が四本あり、手には金色の珠を持つとても美しい巨大な龍だ。
「お前は誰だ?」
「私はギン」
「えっ?」
知っているギンは大きめのヘビに手足が生えたのような可愛い龍だ。 言われてみればこの【気】は確かにギンの物だ。 だが、ギンの【気】が[1]だとすると、この龍の【気】は[100]になるほどの強い【気】なのだ。
「どうなっているんだ? 姿も【気】もずいぶん違うんだけど···」
「翔鬼に合わせて私も進化をしたからな」
「進化?···俺が?···また?···」
「そうだ。 だから強くなった」
「茨木童子より?」
「多分片手···いや、指一本で勝てる」
「···そんなに?···ところでその珠は何だ?」
ギンの手にある金色のガラス玉のようなキレイな珠を指差す。
「勾玉を持つ者達とこの珠で繋ぐことが出来るようになった。 結界の中でも思念通話ができるだろう。 それと勾玉を持つ者達は今頃、妖気を強化されているはずだ」
「妖気の強化? なんだそれ」
「目覚めればわかる。 みんなが待っているから早く目覚めてやれ」
進化?!
起きた後が楽しみ!(*⌒∇⌒*)




