第五十三話 餓鬼
偽酒呑童子の姿がボヤけてきて、本当の姿を現した!!
第五十三話 餓鬼
話しているうちに少しずつ御香の効き目が切れてきたのか、偽酒吞童子の姿がぼやけてきた。
「この世界で欲しい物があれば力で奪うか金で買うかだろう? ワシは欲しい物は必ず手に入れる。 金ならいくらでもあるぞ」
何も気付かず話し続けているが、偽酒呑童子はサイズがどんどん小さくなってきて、恐ろしいほどの美形だった顔と鍛え抜かれて均整がとれた美しい体が崩れてきた。 そしてみるみる腹が出て、手足の筋肉がなくなり骨が浮き出てくる。
『何だ? この気味の悪い妖怪は?』
《餓鬼 なかでもこの餓鬼は多財餓鬼。 財と色を際限なく欲し、常に飢えと渇きに苦しみ、どんなに贅沢できても満ち足りる事はない下級の鬼》
「ところで、お前はどうして酒吞童子のふりをしているんだ?」
餓鬼はビクンとしてやっと自分の姿が元に戻っている事に気が付いた。 御香の効き目が無くなった事にやっと気が付いたのだ。
ソファーの端に小さくなり、ガタガタと震えながら逃げ道を探して頻りに目を動かしている。
「わわわわ···ややややや···もももも!!申し訳ありません!!」
ソファーから飛び降りて地面に額をこすりつけるようにして土下座をする。
「どういう事か説明してもらおうか」
「は···はい···」
有無を言わさず切れ捨てられると思っていたのに、弁明の余地を与えられて逆に戸惑っている。
「初めからお話ししてもよろしいでしょうか?」
「そう言っている」
「ありがとうございます」
もう一度頭を擦り付けてから話しだした。
「あの時はまだ幽鬼がウロウロしていなくて自由に外を歩く事が出来ていた時期です。
ワシが外を歩いているとき、森の中で人間に出会いました。[敦史]という名前の男は、初めはとても怯えていましたが、ワシに敵意が無いと分かると打ち解けてくれました」
···やはり人間が···
「しばらくの間、洞窟を住処にして暮らしていたのですが、ある時、敦史が鬼神になっていたのです」
「鬼神に?!」
餓鬼は、いやいやと両手を振る。
「本当に鬼神になったのではなく、三本の角が付いていたのです···ではなくて、三本の角を付けてきたのです。 匂いも人間とは少し違う変わったいい匂いに変わっていましたが、これは御香という物だと言っていました。 鬼神にしては小柄だったのですが、これは個性だと言い張って通すから大丈夫だと自信を持っていました。
まぁ、これなら人間とはバレないだろうという事で、二人で町に入ったのです。
敦史は話が上手いうえに色んなことを知っていて、直ぐに人気者になりました。 特に彼が作る傷薬は良く効くので評判になるほどでした。
そうしているうちにこの町の長をしている二人の鬼神とも仲良くなり、どうやって説得したのかは分かりませんが、ワシも一緒に彼らの屋敷に住まわせてもらう事になったのです」
「この屋敷の事か?」
そうですと言って話しを続ける。
「敦史は妖界の薬草に深く興味を持ち、ずっと研究をしていました。
そんな時に長の二人の鬼神に酒呑童子様がこの町にいらっしゃると急に言い出したのです。
お察しの通り敦史は幻術草の御香で酒吞童子になりすまし、自分自身は『酒呑童子様の命を受けて色んな町に行く事になったのでほとんどこの町にはいられなくなった』と話していました」
「人間が酒吞童子に成り済ましていたのか」
「はい···とてもうまくいきました。 そうして言葉巧みに町の統治権を自分の物にし、税を納めさせる代わりに町の整備をし、命令系統を整え、法という決まりを沢山作り、この町は豊かに潤って行きました」
「あながち悪い奴じゃなかったんだな」
「はい。 聡明でワシなんかにも優しくしてくれるいい人でした。
しかし、ちょっとした油断から幻術草の御香の届かない場所に角を付けずに出てしまい、殺されてしまいました」
「それでお前が酒吞童子を継いだという事か」
「はい···彼から幻術草の御香の作り方と使い方を教えてもらっていたので···へへへ···」
「それは良かったな。 何もしなくても金が入ってきて、美形の酒吞童子になって美女を侍らせて···」
「いやいやまだまだ······ひっ!」
白鈴の高圧的な【気】を感じて身をすくませる。
「もう十分だろう? 妖界には税はいらないから廃止にしろ」
「そんな!! ひっ!」
刀に手をかけて脅す。
「わ···わかりました」
「そして二人の鬼神に統治権を返せ」
今度は半分刀を抜いて見せた。
「わ···わかりました」
「うん···そして二度と幻術草の御香で酒吞童子に化けるな。 幻術草の御香の匂いは覚えた。
今度その匂いを嗅いだ時には即効斬る」
「わ···わかりました」
「あ···一度だけ許す。 今すぐ酒吞童子に化けて税の事と統治権の事を俺の前で鬼神達に話せ」
餓鬼は泣きそうな顔で···いや、涙を流しながら幻術草の御香を焚き、鬼神達を呼んで翔鬼に言われた通りに話した。
そして、自分は他の町に行くから後は任せたと別れを言わせてから、今ある幻術草の御香を全て処分させ、結局名前も聞かないまま、町の中に消えていった。
◇◇◇◇◇◇◇◇
京の条町を後にした。
いつも途中で休憩がてらに武術訓練をするのだが、最近は白狼が後ろ足で立ち上がり、前足で武器を持って戦う練習をしている。
武器を口にくわえたままだとどうしても死角ができ、動きも制限されると言うと、白鈴にやってみるように勧められたのだ。
妖怪の前足で箸が持てるくらいなのだから刀を持つくらいは何でもない。
猫又の時の白鈴のように後ろ足で立つのだが、思ったより抵抗なく動けるそうだ。
というよりどう見ても骨格が変わっているように見えるが、指の形も変わる位だから、体も変化するのだろう。
···妖怪は何でもありかよ···
後ろ足で立ち上がると、翔鬼より頭二つ分ほど高くなる。 普段は四つん這いになっているので気が付かなかったが、白狼ってデカかったんだ。
今は白鈴と訓練している。 元々の運動能力が高いからかなかなか動きが良く、翼を上手く使って切れのいい動きに拍車がかかっているようだ。
翔鬼は与作と並んで二人の訓練を見ながら柔らかい草の上に座っていた。
朝の季節も終わる日が近付いてきて、太陽の位置が高くなってきた。
真夏なのだが、春のような暖かさだ。
「気持ちいいなぁ···」
翔鬼は草の上に寝転がる。
『翔鬼殿! 俺の心が視えるか?』
突然誰かの心が飛び込んできた。 普段は心を読まないように閉じているのだが、無理やりネジ込んできたのだ。
『誰だ!』
翔鬼は飛び起きて思わず思念通話をするが、当然通じない。 思念通話で話してきたわけではないからだ。
しかし、聞き覚えのある声った。
周りを見回し気配を探るが、見つからない。 与作がどうしたのですかと心配そうに見上げてくる。
『翔鬼殿、俺の心が視えているようだな。 よく聞いてくれ。 大の阪町では[茨木童子]が翔鬼殿を殺そうと待ち受けている。 五本角の凶悪な鬼だ。 貴方には決して勝ち目はない。 大の阪町には近づくな。
それと茨木童子と酒吞童子はどちらも八岐大蛇から生まれ出た。 酒呑童子にも注意しろ······そして···すまなかった』
それだけ言うとプツンと切れた。
「慶臥!」
もう一度注意して周りの気配を探るが、慶臥の気配を見つける事は出来なかった。
慶臥がなぜ?!




