第五十二話 偽酒呑童子
黄鬼の情報があった!!
第五十二話 偽酒呑童子
町の入り口でたむろしている鬼達がいたので、話しを聞いてみる。
「聞きたい事があるのだが···」翔鬼の四本角を見ると鬼達は大人しく話しを聞いてくれた。
石魂刀や勾玉については知らないが、黄鬼についての情報があった。
「もしかしてあいつの事じゃないのか?」
「あぁ、あの腐滅病の奴」
与作が驚いて聞き返す。
「黄鬼が腐滅病だったのですか?!」
何だこいつは的な顔で見るが、素直に答えてくれた。
「明らかに腐滅病にかかっている黄鬼が長を訪ねてきたんだ。 もちろん直ぐにこの町から追い出されたけどな」
「どこに行ったのか分かりませんか?!」
鬼達は顔を見合わせて首を振る。 明らかに与作は落胆した。
「そうですか···ありがとうございました」
「黄鬼も腐滅病にかかっていたのなら、生きてはいないかもしれないわね···残念だけど」
白鈴の言い分に翔鬼は反対する。 ただの能天気と思われるかもしれないが、希望は持っておいた方がいいと思ったのだ。
「この町に来た事が分かっただけでも儲けものだぞ。 次の町に行ったかもしれないし、そこで何かの情報が得られるかもしれないだろう?
それに奇跡的に生きているかもしれないし、与作が探している紫焔ではないかもしれないのだから」
与作は頷き、白鈴は何かを言いたそうだったが口を開く事はなかった。
「とにかくもう少し聞いて回ろう」
◇◇◇◇◇◇◇◇
町中に入っても、聞こえてくるのは重い税の話しだ。
ここでは一日(人間界で一年の時間)に一度、三割の税を長に払わなければならない。 もし金で払えなければ労働で払わされる。
京の条町は木工や土木に関する仕事が多いらしい。 そのため、力の強くて器用な鬼をよく見かける。
そして税の代わりの労働とは、今では一番危険な結界の外での仕事だ。
木の伐採に行くか、他の町や村へ荷物を運ぶか、請け負った仕事をするために出張に行くのだそうだ。
そして土木関係の元締めも長がしているらしい。
しかし、元々裕福な町ではなさそうなのに、そのうえ税を取られて、みんなは疲弊しているように見える。
そして、その税を町に還元されているようには見えなかった。
「まさかこの町の長は人間って事はないよな。 税金のことを知っているのも変だと思わないか?」
「私が以前に訪れた時は強い鬼が統治していると聞きました。 その前は二人の鬼神がこの町を治めていたそうですが強い鬼に取って代わったと···しかしその時は税の話などありませんでしたが、まさか人間を妖怪達が放っておくとは思えません」
「そうだよな···あっ!! 飴屋だ! 白狼、行こう!」
翔鬼は飴屋に走って行った。
「この肉味の飴が美味いんだ。 与作も食べてみろよ」
無邪気にはしゃぐ翔鬼を白鈴は見つめる。
こうして見ると翔鬼はまだ子供だが、最近はそれを思わせなくなってきている。
長い間変化していると、その姿の妖怪の気質に影響を受けると言われている。
翔鬼も本来の鬼神の影響を受けてきていて、落ち着いていて聡明な鬼になってきているのだろう。
「そうよね···私も猫娘の影響を受けて、女らしくなってきているものね」
一人で良いように考えて納得している白鈴だった。
◇◇◇◇◇◇◇◇
街中で情報を集めていると、通りの向こうから鬼の集団が近付いてくる。 先頭に鬼神がいるのだが、前にもこういう場面に出くわした覚えがある。
···まさか攻撃してこないよな···
鬼達の心を読むと、やはり翔鬼達を探していた。
それもお目当ては······白鈴と白狼??
近寄ってくる鬼神は白鈴と白狼に視線を向け、翔鬼の四本目の角を凝視してから目の前で立ち止まった。
「四本角の鬼神殿、皆様を御招待するように長から言われて来ました。 是非屋敷に御越し下さい」
丁寧に頭を下げてきた。
『どうする? 長とやらの目当ては俺じゃなくて白鈴と白狼のようだが···』
みんなに聞いてみた。
『俺は翔鬼についていく』と、白狼。 与作も頷く。
『私と白狼に? 何の用かしら? 行ってみてもいいわよ』
『俺も人間みたいに税金を取る奴を見てみたいから、行ってみようか』
四人の話し合いは一瞬で決まった。
「分かった、連れて行ってくれ」
「こちらです」
◇◇◇◇◇◇◇◇
連れて行かれた屋敷は、ぬらりひょん邸のように、結界では囲んでいない造りで見たままの広さだ。 しかしぬらりひょん邸と同じくらい広くて立派な建物が並んでいる。
一際派手な建物の中に連れて行かれた。 やけに頑丈な扉を開くと、また扉がある。
扉を潜るたびに何か独特な匂いが強くなっていく。
その先にもまた扉があり、その先の四枚目の扉を開いた中が目的の部屋のようだ。
30畳ほどの広い最後の部屋は少し霞んでいるほどの御香が沢山焚いてある。
そしてその部屋の中にそいつはいた。
その部屋の壁一面に本や帳簿が並べられていて、人間界で見るような大きなソファーとテーブルまで置いてある。
お父さんが使っていた書斎を思い出した。
しかし、本やノートがあるという事は妖界にも文字があるのだという事だ。
初めて知った。
その部屋のソファーに胡坐をかいている男がいる。
女鬼二人、猫娘二人、もう一人は···翔鬼達を見て首が伸びてきた···そう、ろくろ首だ。
そして驚く事に五人の美女を周りに侍らせているのは五本角の鬼、酒呑童子だった!!
『どういうことなの? こんな所に酒呑童子がいるなんて?』
白鈴が慌てて話してきたが、その前にチビ敬が翔鬼の耳元で囁いていた。
「翔鬼、これは幻術草の香だ。 目の前にいる者の本当の姿は見ているのとは違う者だ。 香を中和してくる」
チビ敬はピョンと飛んでいなくなった。 その事を四人に伝え、黙っているように言う。
「これは四本角の鬼神どの、よく来たな。 そこに座ってくれ」
翔鬼と白鈴がソファーに座った。
「何かを聞いて回っていると聞いたが?」
「石魂刀について何か知らないか?」
石魂刀······とつぶやいていたが知らないなぁという。
「では体に勾玉が付いた者を知らないか?」
「その白翼狼のようにか?···それも残念ながら···」
「そうか···実は酒呑童子···様に折り入って話しがある。 他の者達は席を外してくれないか?」
翔鬼は女鬼達に目で出て行けと示した。 女鬼達も酒呑童子の顔を見てから立ち上がる。
出て行きながら『いい男だわ』『酒呑童子様といい勝負ね』『若くていい男···』
五人とも翔鬼に視線で媚を売りながら部屋から出て行った。
その時チビ敬が戻ってきた。
「直ぐに香の効きめが切れる」
翔鬼は頷く。
「それで話とは何だ?」
偽酒呑童子がソファーの上に胡坐をかいたままで聞いてきた。
「久しぶりだな」
「へっ?···」
翔鬼に言われて明らかに眼が泳いでいる。
「おい、俺を忘れたのか?」
「いやぁ~~、最近物忘れが···お主の名前はなんと言ったっけ?」
「堂刹」
「そうそう! 堂刹だったな。 久しいの!」
翔鬼はフフフと笑う。
「ところで、税金って酒呑童子様が考えたのか? 金を絞れ取れるいい考えだな」
「ま···まぁな。 それより堂刹、お前の付き人の猫娘と白翼狼をワシに売ってくれないか?」
「?!! 売る?」
予想もしなかった話しに四人は驚きを隠せない。 白鈴が飛び掛かっていきそうなのを急いで止めた。
「その華のように美しい猫娘と、彫刻のように端正な白翼狼が欲しいのだ。 幾らなら売ってくれる?」
「売り買いするような物じゃ無いだろう?」
そう話しているうちに少しずつ香の効き目が切れてきたのか、偽酒吞童子の姿がぼやけてきた。
酒呑童子ではない? では、誰が化けているの?
(;゜0゜)




