第四十九話 変身術
青鬼は慶臥が変身したのか?
第四十九話 変身術
「慶臥の仕業とは違うのだろうか? それとも俺達が知らない青鬼がいるのか···」
翔鬼が呟いた。 てっきり慶臥と思っていたのに···違うならそれはそれで良かった。
みんなが黙っている中、堂刹がおもむろに話しだす。
「余には出来ないのだが、鬼神の中には変身術ができる者がいる。 そして慶臥もできるという事を聞いた事があった気がするのだ」
「変身術? 違う姿になれるのか?」
「私も聞いた事があるわ。 鬼神の中にそういう者がいるって」
「変身術か···ん?···できそうな気がする···えっと···」
すると、翔鬼の姿が一瞬ぼやけたかと思うと青鬼の姿が現われた?!
「「翔鬼?!!」」
白鈴と白狼が驚いて声を上げる。
「もしかして俺、できてる?」
翔鬼は立ち上がって自分の姿や手足を眺める。 これは面白い。
「もういっちょ!」
再びぼやけたかと思うと、今度は2メートルサイズの与作の姿に変わった。
「ひぇ~~!! 翔鬼様ぁ!」
与作が後ろにひっくり返った。
「あ···サイズは変えられないのか···同じくらいの大きさの妖怪にしか変身できないみたいだな」
元の姿に戻る。
···鏡を見たかった···
「わぁ···本当に変身術ってできるものなのね」
「余もここまで完全なのは始めて見るぞ。 着物まで変わるとは···しかし匂いや気配までは変わらんから、鋭い者にはバレるだろう」
「じゃあ、中の津村に来た青鬼がもしも慶臥なら、俺達に合っていればバレていたって事か?」
「恐らく」
「どちらにしても、もうこの近くにはいないだろうから確かめようがないわね」
「とにかく今回は土蜘蛛のチビ敬と言ったか···お前に感謝だな。 本体と連絡は取れるのか?」
ピョンと翔鬼の肩に飛び降りてきたチビ敬に堂刹は顔を寄せる。
「敬之丞とは同じ体だから、俺の考えている事は奴にも分かっている」
「そうか。 とにかく礼を言う」
チビ敬は「いいって事よ」と言って、サッサと翔鬼の髪の中に戻って行った。
「柄にもなくこいつ、照れてるぞ、ハハハハハ」
翔鬼が笑うと、髪の中から「るせぇ!」と声が聞こえた。
ハハハハハと、ひと笑いしてから出発する事にした。
◇◇◇◇◇◇◇◇
中の津村を出る時に、村人全員が見送りに来てくれた。
代表して清大が前に出る。
「今回は何から何までお世話になったうえに、ご迷惑をおかけしたにも関わらず寛大な御心で不問にしていただき、感謝しかございません。 ありがとうございました!!」
清大の号令で全員が頭を下げた。
「貧しい村ですので大した御礼は出来ませんが、お受け取り下さい」
5人の代表者が翔鬼達一人一人の前に巾着袋が乗った盆を捧げ持つ。
「いやいや、俺も回復するまでの長い間世話になったのに、こんなことをしてもらう必要はないぞ。 気持ちだけ貰っておく」
『勝手に断ってしまったが、よかったか?』
全員に聞くと、もちろんと返事が来た。
すると堂刹が手を挙げる。
「知っていると思うが余は江の坂町を統べている。 幽鬼が跋扈しているにも関わらず、勇敢にも江の坂町まで物資を運んでくれている事に感謝している。 いつの日か皆が安心して表を歩けるように奴らを殲滅してみせるが、もう暫く危険な中の運搬をお願いしたい。 この通りだ」
堂刹が頭を下げた。 きっと三大鬼神がこれを見たら卒倒しているだろう。 村人たちも天下の酒呑童子に頭を下げられアワアワしている。
「心打たれるお言葉をありがとうございます。 この中の津村はいつでも皆様を歓迎いたします。 またの御越しを心よりお待ちいたしております」
また村人一同が頭を下げたのを合図に、翔鬼達も動き出した。
「みんな! ありがとう!」
◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇
結界を出ると堂刹が名残惜しそうだ。 一緒に行きたくて仕方がない様子だ。
「余も一緒でなくても大丈夫か? 人数が多い方が楽しいだろう?」
「楽しいとかの問題じゃないし。 それに堂刹は江の坂町にいないとダメだろう? 中の津村の村人を助ける間だけの約束だったのだから、早く戻らないと三バ···風儀達が心配するぞ」
堂刹はガックリと肩を落とす。
···分かりやすい奴···
「何かあったら遠慮せずに必ず余を名寄せしろよ。 いつ呼ばれてもいいように風儀達を仕込んでおくからな。 時々結界の外に出て思念通話するから、ちゃんと返事をしろよ。 それから···」
「じゃぁな!」
長引きそうなので最後まで聞かずに、翔鬼達は歩き出した。
「い···行くのか? 気をつけて行ってこいよ···じゃ···じゃあな···」
「何かあった時には呼ぶからたのむぞ」
翔鬼が振り返ってそう言うと、堂刹はパッと顔が明るくなった。 やっぱり分かりやすい···
「おう!! 遠慮せずに必ず呼べよ! じゃあな!」
翔鬼達は北に、堂刹は南へと別々の方向に向かって飛んでいった。
◇◇◇◇◇◇◇◇
「また失敗しました。 申し訳ありません」
慶臥は富士の山の火口の底の壁際ギリギリの場所にひれ伏した。
そこには巨大な妖怪の八岐大蛇が八個の頭をクネクネと揺らし、お互いの頭を前後させながら順に慶臥の様子を見る。 一つの頭の大きさだけで慶臥の倍以上はあるだろう。
赤い瞳の頭は口から炎が漏れ出ていて、青い瞳の頭の口からは水が滴り、緑の瞳の頭の周りには風が渦巻いている。
白い瞳の頭の口周りは凍って氷柱が下がり、茶色の瞳の頭は岩でできているようだ。
紫の瞳の頭の口元からは毒から漏れる異臭が放たれ黒い瞳の頭の周りには黒雲がまとわりつき、黄の瞳の頭の角の周りはバチバチと火花が散っている。
それぞれの属性があるようだ。
そして頭だけでなく長くクネクネとうごめく八本の尻尾が自分の巨大な体を嘗め回すように動いていた。
そしてそれぞれの属性の頭を持つ巨大な体にはその体躯を支えるだけの巨大な足がついているのだが、足元はこの洞窟の地面に張り付いている。
八岐大蛇は回復のために地中から富士の山の気を吸い取っているのだが、完治して無理やり足を抜いた時にはこの山は噴火する可能性が高いらしい。
「また失敗しただと?!」
「これだけ失敗するのはよっぽど運がいいのか、お前がわざと失敗しているかだな」
「こいつにワザと失敗するような度胸はないさ」
「裏切ればその命を返してもらうだけだからな」
「大丈夫だ、次もある」
「しかし奴が直ぐに動かないから朝になってしまった」
「大丈夫だ。 結界札を渡しているから問題ない」
「西の国には奴もいるから、焦る必要はないさ」
八つの頭が地鳴りのような腹の底まで響く声で話している。
そして八岐大蛇が掃き出す炎や火花で、時折巨大な姿を暗い洞窟の壁に映し出していた。
親玉の八岐大蛇が登場した!!
( ̄□||||!!




