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第三十六話 枕返し

白狼の様子がおかしい!!


 第三十六話 枕返し




――― ···き ―――


「ん? 誰か呼んだか?」


 翔鬼は目を開けた。 


「ここはどこだ?」


 周りは真っ暗で何も見えない。 


――― ···ぅき ―――


「まただ。 誰かいるのか?」



 遠くの方に何か白い物が見えた。 クルクル回り、ピョンピョン跳ねながら少しずつ近付いてくる。


「踊っているのか?」


 近付くにつれ、踊っているのではなく、誰かと戦っているのだという事が分かった。


「だれだ?!」


――― ···ょうき ―――


「白狼か? 白狼!!」


――― 翔鬼! ―――



 何者かと戦っていたのは白狼だった。 しかし、その白狼には白癒羽(はくゆう)(翼)が付いておらず、勾玉や青い模様もないただの白い狼だった。


「白狼!! 俺はここだ!! 白狼!!」


――― 翔鬼···助けてくれ···翔鬼! ―――





「白狼!!」


 翔鬼はガバッと起き上がった。 横を見ると白狼が丸まって寝ている。 それを見て翔鬼は胸を()で下ろす。


「···夢か···」



 周りを見ると少し暗くなっている。 しかし明かりがいるほどではなく、太陽が沈んだばかりで電気をつけようかどうしようかと悩む程度の暗さだ。


「堂刹の所から帰ってすぐに寝てしまったみたいだな。 凄くよく寝た気分だが、あまり時間は経っていなさそうだけど···」


 久しぶりに魂手箱(たまてばこ)を開けて、枕元に転がしてあった慶臥に貰った赤い瓢箪を中に入れて、代わりに携帯を取り出して電源を入れる。


 眩しいほど明るい液晶画面に浮かび上がった数字は[4:02]を示している。


「4時?! 夜中の4時? 夜中というよりもう直ぐ朝じゃないのか?」


 居間の窓から外を見ると、太陽のような明るい半円の月に、LEDライトが散りばめられているような沢山の星が目に入る。


「わぁ···夜なのにこんなに明るいのか···」


 そういえば赤郎丸の洞窟の中でも十分に明るかった。


 要するに鬼神の目だからだ。 妖怪が夜だから見えないといって懐中電灯を持ち歩くわけにはいかない。 妖怪の目には暗い夜がこう見えているのだ。


 これなら照明もいらない。 逆に照明があると明るすぎて見えにくいだろうと思える。



「面白い! 妖怪には昼も夜もないのか」


 奥で寝ている白狼に声をかける。


「白狼! 町に行くぞ! 夜中だというのに明るくて面白い!」


 珍しく白狼が起きてこない。 犬の時は自分が起きた時には夜中でも直ぐに起きてきたのに、妖怪になると眠りが深いのか?


 その時、さっき見た夢を思い出した。 白狼が助けを求めていた。嫌な予感がして慌てて駆け寄る。


「おい!! 白狼!!」


 揺り起こすが目を覚まさない。 しかも呼吸が荒くて苦しそうだ。


 感情を読む『ここはどこだ···誰かいないのか?···どうなっているのだ···くそぉ! クッ!痛い!』と、負の言葉ばかりが視える。 


 これはただ事ではなかった。 只の夢を見ているにしてはおかしい。 目を開けない白狼に何かあったとしか思えなかった。

 すぐ横に座って膝の上に白狼の頭を乗せて震える手で撫でながら白鈴を呼んだ。


『白鈴!! 部屋にいるか?!』

『あら、やっとお目覚め?』

『それより白狼が変だ! 来てくれ!』


 白鈴が駆け込んできた。


「どうしたの?」

「見てくれ、いくら揺すっても起きないし、呼吸も普通じゃない」


 感情の事も話す。


「深い眠りにしては少し変ね······あなた、ぬらちゃんと名寄せの制約をしていたわよね」


 翔鬼は何度も首を縦に振った。


「直ぐにぬらちゃんを呼び寄せて」


 翔鬼は膝に白狼の頭を乗せたまま、ぬらりひょんを思い浮かべて唱える。


「我が名との制約によりぬらりひょんの名を持つ者、姿を現せ!」


 すると、一点から黒い煙が出てきて形を成してきて、湯飲みを手に持ったままのぬらりひょんが正座をした姿のまま現れた。


「おっと······どうしたのじゃ?」


 周りを見回した後、湯飲みを置いた。


「助けてくれ! 白狼が変なんだ!」


 翔鬼は苦しそうに喘ぐ(あえぐ)白狼の頭を震える手で撫で続け、泣きそうになっている。


「ふむ······これは···」


 ぬらりひょんが白狼の横に座り直して手をかざし、何やら口の中で呪文を唱えた。


「やはり···」

「なんだ? 何があったんだ?!」

「これは〈枕返(まくらがえ)し〉の仕業じゃのう」


「枕返し? 何なんだ、それは? 病気か? 治るのか?」

「ふむ···ワシにはムリやが···少し待っておれ」


 そう言うと、フッと消えた。


「どこに行ったんだ? どうなるんだ?」


 翔鬼のすがるような目を見て白鈴が横に座り、優しく背中をさする。


「大丈夫。 ぬらちゃんが必ず何とかしてくれるから、少し待ちましょう」


 翔鬼はグッと唇を噛み、永遠と思える時間を待った。




 実際にはそう長い時間ではなかったのだが、翔鬼にとってはとても長い間待ち続けると、ぬらりひょんが見た事のない妖怪を連れてやっと現れた。


 白狼の半分くらいの大きさで、前半分はズングリした熊のようだが、頭部は鼻が長く牙があるところは象のようで、虎のような後ろ脚に牛のような尻尾が付いている。



挿絵(By みてみん)



「彼は(ばく)夢夢(むむ)。 夢食(ゆめく)いじゃ」

「夢食い?」


「ひむ。 言葉の通り夢を食うのじゃが、今すぐ白狼の夢を食ったら中にいる白狼まで食ってしまう」

「夢の中の白狼を食ったらどうなるんだ?」

「ただの夢ならなんともないが、今は枕返しで魂が夢の中に閉じ込められているので、夢の中で死ぬと現実の白狼も死んでしまう」


「どうすればいい?」

「白狼を夢の中から救い出すと同時に夢を食う。 その夢が残っていると、また眠った時に同じ夢に閉じ込められてしまう事があるでのう」


「だからどうやって助け出すんだ」

「ふむ···白狼の夢の中に入って助け出すのじゃ。 その道標(みちしるべ)はこの夢夢がしてくれまする」


 夢夢はヒョコンと頭を下げる。 長い鼻がブルンと揺れた。


「必要な場所へは道標(みちしるべ)として白い糸が教えてくれるようにしてあります。 行きたい場所を念じれば糸が 現われます。 それを探してください。 とても細く見つけるのが困難ですが鬼神様なら可能だと思います。 ただし、夢の中では(じゅつ)が使えませんのでお気を付けを···」


「わかった」


「では白狼様とどこかを接した状態で隣に寝て下さい」


 翔鬼は白狼の頭を乗せていた足を引き抜き、代わりに白狼の頭の下に腕を差し込んで腕枕にしてから横になった。



「先ほどぬらりひょん様が(おっしゃ)っていましたが、この夢の中で命を落とすと二度と戻って来る事ができません。

 よろしいですか···この夢の中で翔鬼様が亡くなれば夢の中で消滅してしまいます。 また、白狼様が亡くなっても翔鬼様と共に消滅してしまうのでお気御付けください。 では目を閉じてください。 まいります。

 御武運を···」

 



 翔鬼は目を閉じた。





翔鬼は白狼の夢の中に入っていきました!

(|| ゜Д゜)

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