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第三十五話 飲み友達

ある時慶臥が訪ねてきた。


 第三十五話 飲み友達




 夜の季節に入り、太陽が地平線に沈んだ頃、慶臥(けいが)が翔鬼を訪ねて大天狗邸に来た。



挿絵(By みてみん)



 小天狗から連絡を受けて、対応したのは白鈴だった。


「ごめんね、翔鬼は寝てるわ」


 翔鬼はあの宴会以来、ずっと眠りについている。 夜の季節の間は眠り続けるだろうとぬらりひょんが言っていた。 人間というのはそういうものだと。

 まだ夜の季節になって間もないので、暫くは起きてこないだろう。


 人間以外にも長期間眠ったり、冬眠したりする妖怪や動物もいるため、それほど不審がられる事はない。




 もちろん詳しくは話せないが寝ていることを話すと、明らかに慶臥は残念そうに肩を落とす。


「そうですか···翔鬼殿と知り合いになれたので酒でも飲みに誘おうか思ったのですが···残念です···そうだ!···せっかくですから白鈴さん。 俺と飲みに行きませんか?」

「あら! いいわね 行きましょう」




 慶臥のお勧めの大通りを少し外れたところにある酒処(さけどころ)に入る。 よく見ると酒の模様の看板があるのだが、分かりにくい。 要するにわざと馴染みの客にしか分からないようにしているらしい。


 その店はそれぞれの席が個室のようになっていて他の席とは少し離れているので、周りに話しを聞かれる心配はなく周りの騒音も(ほとん)ど聞こえず、とても落ち着いた店だ。



 慶臥は馴染みのようで、顔を見ただけで席に案内された。 



「よく来るの?」

「まぁ···ここが一番落ち着きますから」


 白鈴が慶臥の落ち着いた端正な顔を見つめるので、思わず慶臥は視線を外す。 


「ねぇ···」

「な···なんでしょう?」

「敬語は()めてくれない?」


 慶臥えっ?と、少し戸惑っている。


「でも、お(かしら)と同格の方ですから」

「じゃぁ、堂刹の前では敬語で···という事でどう? 私、嫌いなの。 よそよそしいでしょ? 敬語って。 ねっ?」


 慶臥は少し考えていたが、可愛い顔で見つめてくる白鈴に懇願されて(あきら)めたようだ。


「分かりました······わかった。 では普通に話させてもらう」

「うん。 その方がいいわ」


 白鈴は満足そうに頷いた。



 何も言っていないのに、酒とつまみが出てきた。 酒もつまみもなかなか美味い。 慶臥が馴染みになるのがわかる。



 慶臥は目の前に置かれた酒をグイと飲み干す。


「ところで白鈴さんの住まいはこの辺りじゃないだろう? 今まで見かけなかったからな。 どこに住んでいるんだ?」


「東の国の西の方よ」

「西といえば···白虎の領土か?」 


 慶臥はなぜか嫌そうな顔をした。


「そうよ。 どうして?」

「大丈夫なのか?」

「何が?」


 白鈴は可愛い顔で上目遣いに聞く。 慶臥の嫌そうな顔は気になるが、自分の事を知ってくれていることがなぜか嬉しい。


「いや···白虎って四神で唯一の女性なくせに凶暴で乱暴者だと聞いたぞ」


 白鈴は思わず拳が出そうになるのを押さえた。 自分が白虎だという事を知らないのだから仕方がないのだろうが、翔鬼相手なら確実に殴っている。 


 しかしそんな悪評が出回っているとは思ってもみなかった。


「私は白虎()()とは懇意(こんい)にさせて頂いているけど、決してそんな方ではないわよ。 思慮深くてお優しい方だわ」

「そうなのか?···懇意にしている白鈴がそう言うならそうなんだろうな···白虎は武術に長けていると聞くから、そのせいで尾ひれがついて悪い噂だけが広がったのかもしれないな」


 慶臥って思ったより素直でいい人だわ、と見直した。



「そういえば、腰巾着(おに)達は一緒じゃないの?」


 前に慶臥が連れた鬼達に襲われた。 もちろん返り討ちにしたが、その時も鬼だけで10人近くいたはずだ。 その時以外にも何度か慶臥の周りにたむろしている鬼達を見かけたことがある。


 慶臥はフッと自嘲気味に笑う。


「奴らは他の鬼神の子分たちだ。 他の四天王寺達が石になって俺しかいなくなったからゴマすりに付きまとっていたんだ。 もちろん俺の手下もいるが、俺が付きまとわれるのが嫌な事を知っているので、金魚の糞のようにはついてこないだけだ」


 鬼神なのに強い事を鼻に掛けない所も気に入った。 もちろん容姿も申し分ない。 鬼神というのはみんながみんな、酒呑童子を筆頭に恐ろしく美しく、ガキの翔鬼に比べると大人の色気を感じる。


「気に入ったわ! 飲みましょう!」



 ◇◇◇◇◇◇◇◇



 それから二人は頻繁に会うようになった。

 

 ある時、いつもの酒処が閉まっていたので白鈴が部屋に招いた。


 自分の家ではないが、誰も気にしない。 清宗坊も今はいないが、決して文句は言わないだろう。

 使用人達が手厚く()()してくれ、酒やつまみも豪勢だ。 その辺の酒場より断然いいし誰にも話しを聞かれる心配もなく、周りで騒ぐ者もいない。



「静かでいいなぁ」


 慶臥は部屋の外に視線を移す。



「慶臥はどこに住んでいるの?」

「もちろんお頭の所で世話になっている。 常に鬼どもが騒いでいるので、こんな静かな所は落ち着くなぁ」


 慶臥は大きく開け放たれた窓から見える半円の月や、降ってくるように明るく夜空を照らす星と、それらに照らされている手入れの行き届いた美しい庭を見てしみじみと言う。


 慶臥は他の鬼達とは一味違う。 物静かで落ち着いている。 あの鬼達と一緒にいると疲れるだろうと察しが付く。


「またここで飲みましょう」

「しかし(あるじ)がいない家に頻繁に来てもいいものだろうか···」


 そういう良識の有るところも気に入った。


「清宗坊に家は私の家よ。 彼が反対する事も無いから心配いらないわ」

「それは有難い。 ところで、翔鬼殿と白狼殿はまだ起きてこないのか?」


「彼らの事はいいじゃない。 飲みましょう」

「そうだな」





 それ以来慶臥は頻繁に白鈴を訪れるようになり、3回に1回は大天狗邸で会った。









二人はちょっといい感じ??

(///ω///)♪

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