第三十三話 招待
酒呑童子から招待を受けた
第三十三話 招待
それからも石になった者を助けたり、武術訓練に励んだりしていたのだが、清宗坊からの連絡もなく、ぬらりひょんが調べさせている西の国の報告もなく、時だけが過ぎていった。
ぬらりひょん邸に翔鬼と白鈴、白狼が遊びに来ている。
「そろそろ夜の季節ね」
[夜の季節=人間時間で17時頃から23時頃]
白鈴はお茶をすすりながら外を見てしみじみと言う。
結界内というのに太陽などの景色は外と同じだそうだ。 だから結界内という事に関わらず雨の時には霧のような雨も降るそうだ。
原理はよく分からないが、ぬらりひょんが教えてくれる事によると、あの結界を潜った地点でUターンして戻っているらしい。 ようするに並行して存在する別の世界という事だが、たしかパラレルワールドというのではなかったか?
そう考える翔鬼自体もパラレルワールドが何なのかよく分かっていない。 見ていたアニメで同じような事を見た気がするのでそうなのだろうと思っただけだ。
しかし、この町の結界以前にこの妖界がパラレルワールドそのものだろう。
自分の理解を超える不思議な世界だと思いながらも、最近は石になった者を戻すか訓練に明け暮れて過ごしている。
ただそうやって過ごしているのだが、このままでいいのかと思った。
「なぁ、清宗坊にばかり任せていないで俺も石魂刀と勾玉を持つ者を探しに西の国に行ってみてはどうだろうか?」
翔鬼は少し傾いてきた太陽に目をやりながら呟く。
「ふむ···それもいいかもしれんが、もう少しだけ待ってもらえんじゃろうか? あちらから何か報告があるまで。 闇雲に動いても見つかるものでもないと思うのじゃ」
「そうよ。 清宗坊もぬらちゃんも、この妖界をよく知っている人達に頼んで動いてもらっているのだから、もう少し待ちましょう」
「そうか···とりあえず報告を待とうか」
「ふむ。 まだ一日〈人間時間で1年〉も経ってはおらんのじゃから焦る必要はないじゃろう」
「それもそうか···そうだな」
その時「ぬらりひょん様」と、小鬼が部屋の外から声をかけてきた。
「なんじゃ?」
「酒呑童子様の使いと申すものが来ております」
それを聞いて翔鬼達も立ち上がる。
「俺達も帰るわ」
「そうね、ぬらちゃん。また来るわ」
ぬらりひょんと一緒に玄関まで行くと、二人の青鬼が立っていた。
ぬらりひょんと翔鬼達を見て頭を下げる。
「翔鬼様方もおいででしたか。 ちょうどよかったです。 酒呑童子様がぬらりひょん様と翔鬼様、白鈴様、白狼様を先日の御礼として食事に招待致したいとの事。 お受けしていただけますでしょうか」
みんなで顔を見合わせる。 御礼をしてくれるのどと考えてもいなかった。 あの時に礼だと言って大きめの金が入って袋をそれぞれに渡されている。
「前にお礼をもらったのに、そのうえ食事にまで招待してもらっていいのだろうか?」
いいんじゃない?と、白鈴。
「お嫌でなければお受けした方がよいじゃろうな。 御断りするのは逆に失礼に当たるのじゃ」
「そんなものか? じゃぁ受けるか」
ぬらりひょんは「ふむ」と頷く。
「御聞きか? 我ら酒呑童子殿の御招待をお受けいたしまする」
青鬼たちは顔を見合わせてホッとした顔をした。
··· もしかして俺たちが断ったら、こいつらは堂刹に殴られるのかな? ···
「それはいつお邪魔すればよいのじゃ?」
「今すぐご案内いたします」
「今?」
「なんともせっかちな御方じゃのう」
そう言ってヒョッヒョッと笑う。
「皆さんがいらっしゃった事も承諾してくださった事も本当に感謝します。 ここだけの話しですが、お頭はあのような性格の御方ですので本当に助かりました」
一人の青鬼が小声で囁いてきた。
··· やっぱり ···
◇◇◇◇◇◇◇◇
酒呑童子邸は町の中程にあるらしい。
そんなデカい家があったかなぁ? と思っていたら神社のようなデカい山門が現われた。
そういえばここに来たことがある。 門だけがデンと在り、横には塀がなくて裏側にも何もなかった。
··· そうか、結界の入り口になっていたんだ ···
翔鬼は一人で納得した。
翔鬼達を見て大きな門がゆっくりと開いていく。
「あれ?」
「いかがなされた?」
翔鬼がつい声を出したので、ぬらりひょんが見上げてくる。
「あ···あぁ···清宗坊の家の結界の向こう側はただ真っ暗だったのに、薄っすらと結界内が見えるような気がする」
ぬらりひょんはヒョッヒョッと笑った。
「随分妖気が溜まってきたようじゃのう。 妖気(力)が強い者には見えるのじゃよ。 もっと妖気が溜まればもっとはっきりと見えるようになるじゃろう。
多分、清宗坊殿の家の結界の中も見えていたと思いますぞ。 毎回の事なのでお気に留めておられなかったと思いますがの」
「ふ~~ん···そんなものなのか」
話しをしながら門をくぐったのだが、顔を上げて驚いた。
とても広いのは予想していたが、予想に反していたのは建物がとてもカラフルなのだ。
大天狗邸やぬらりひょん邸は白と黒の落ち着いた雰囲気の建物なのだが、ここは白黒だけでなく、赤、青、黄、緑の壁にカラフルな絵が描かれており、それに金色の装飾が施されていて、遊園地のお城のようにキレイだった。
「わぁ···キレイだ···」
「ありがとうございます」
翔鬼の本気の感動に青鬼が嬉しそうに礼を言う。 白鈴も同じように感じたのかキョロキョロしていた。
「翔鬼様ならお分かりだと思いますが、俺たちは自分の体の色に誇りを持っています」
··· いや ··· 分からないけど ···
「いつの頃からか、自分の色の建物をキレイに見せようと競って絵を描くようになり、今のようになったのです」
その中でただ一つ絵が描かれていない大きな建物あがった。 黒い建物に金で装飾されているのだが、なかなか趣味が良くてかっこいい。
「あの黒い建物は?」
「酒呑童子様の御屋敷です」
「どおりで···」
その黒い建物に中に入る。
案内された部屋は、シンと静まり返っているので誰もいないのかと思ったのだが、襖を開けると広い部屋に100人近くの鬼達がすでに膳を前に座っていて驚いた。
そしてその部屋の前側が一段高くなっていて、真ん中に堂刹とその右側に四人衆の楓儀、柊斗、阮奏、そして末席に慶臥が座っていて、堂刹の左側の膳の前の座布団が4つ空いていた。
翔鬼達を見て堂刹が手を挙げる。
「翔鬼殿! こっちだ!」
100人の鬼が一斉に振り返った。
··· おっと ···
鬼達の家はカラフルだったのですね( ´∀` )b




