第二十八話 ぬらりひょん邸
さっそく清宗坊の勾玉に配気した。
後は、白鈴とぬらりひょんだ。
第二十八話 ぬらりひょん邸
家に戻って、さっそく清宗坊を呼んだ。
「ちょっと勾玉を出してくれ」
清宗坊は何も聞かずに袖を捲り上げる。
緑の勾玉に触れて「我が力を分け与える···【配気】!」と唱えた。
「うおぉぉぉ···」
清宗坊からなんとも言えない声が漏れる。
「翔鬼様、これは?」
「これで幽鬼に攻撃を受けても石にならない。 妖気が溜まって力が現われたんだ」
「それは! おめでとうござりまする。 そして、ありがとうござりまする」
普段からあまり表情を出さない清宗坊がとても嬉しそうに笑っている顔を始めて見た。
喜んでくれて翔鬼も嬉しい。
「ところで白鈴はどこだ?」
家に戻って来た時に呼んだが返事がなかった。
「ぬらりひょん様の邸宅においでです。 東の町にあるのですが、結界を張っておられないので、ここの結界から出ると、お話ができるはずでござりまする」
「わかった。 行ってくる」
玄関の結界を出るなり、ぬらりひょんに話しかけてみた。
『ぬらりひょん、会いたいのだが家にいるのか?』
『これは翔鬼殿、ワシは家におります』
『白鈴もいるか?』
『いらっしゃいますぞ』
『今から行く。 東の町のどこだ?』
『東町に入れば直ぐに分ると思いまする。 屋根の上に〈見越し入道〉がおりますゆえ』
「見越し入道?」
《見越し入道 巨大な姿の三つ目の坊さんの姿をした男版ろくろ首》
説明だけ聞いてもよく分からない。
「行けば分かるだろう」
東の町に向けて白狼と歩き出した。
この町は広い。 結界の中に造られているというのに山も空も見えているせいもあるのだろうが、とても広く感じる。
この町の端から端まで歩くと、人間世界の時間でだいたい2時間ほどかかる大きな町だ。
ただ、この辺りではこの町が一番広いらしく、店の数も他の町に比べると、段違いに多いそうだ。
しかし結界で造られた町の数はそれほど多くないだろう。
そう考えると、妖界は人間の世界に比べると笑えるほど規模が小さくて人口(?)も少ないのがわかる。
しかし翔鬼にとってはそんな事は気にもならず、新しい町に行くだけで心が弾んでいた。
以前、東町に行った時には、ほとんど住宅や倉庫ばかりの町で面白くないからと直ぐに引き返したのだが、今回はそのまま歩き続ける。
暫く行くと、屋根の上に何かデカいのがいる。
「見越し入道がいるっていってたな。 あれがそうか。 ハハハハハ、これは分かりやすい」
屋根の上に大きな頭が浮かんでいるように見える。 まるでグー○ルマップのマーカーみたいに見えて分かりやすすぎておかしかった。
ぬらりひょん邸に近づくと、門の上から見越し入道の顔がニョキっと出てきた。
「翔鬼様でございましょうか?」
「俺が翔鬼だ」
「御待ち致しておりました。 どうぞお入りください」
見越し入道の頭が引っ込んだ途端、大きな門がギギギと内側に開いた。 見越し入道が空けたのかと思ったら、母屋の屋根の上から見越し入道がこちらを見下ろしている。
門を開けたのは小鬼だった。
数人の小鬼が待ち受けていて一斉に頭を下げた。 ここの小鬼はみんな小綺麗な着物を来ている。 清宗坊の家の小鬼も街中の小鬼に比べるとちゃんとした着物を着ているが、ここの小鬼ほどではない。
「いらっしゃいませ。 ご案内いたします」
一人が前に出てきたので彼についていく。
中に入り、左の廊下を曲がった時に結界を潜る感触があった。 長い廊下には左右に幾つもの廊下が伸びているのだが、それぞれの廊下の曲がり角は柱一本分しか離れていない。
案内してくれる小鬼に連れられ、真ん中あたりの廊下を曲がると、再び結界を潜る感触があり、目の前の襖の前で止まり小鬼が膝を付く。
「御連れしました」と、声をかけて襖を開けるとぬらりひょんと白鈴が座っていた。
20畳ほどの広い部屋で室内には派手な装飾はないが、開け放たれた窓から見える中庭は、大天狗邸に負けず劣らず素晴らしくキレイで、それだけで一枚の絵画の様だった。
ぬらりひょんと白鈴の前に二枚の座布団が敷かれていて、ぬらりひょんは翔鬼達をその座布団に座るように促す。
「翔鬼殿。 いかかがなされた?」
相かわらず湯飲みを手にしたままで翔鬼に笑顔を向けた。
「ちょっと勾玉を出してくれ。 俺の【気】を分ける」
ぬらりひょんは首をかしげながら左腕の赤い勾玉を出し、翔鬼は勾玉に触れる。
「我が力を分け与える···【配気】!」
「おぉぉぉ···」
ぬらりひょんからも声が漏れた。
「おれは···?」
「これで幽鬼から攻撃を受けても石にならないはずだ」
「それはまことですか! ありがたい」
「私も! 私も!」
珍しく無邪気に興奮している白鈴が可愛らしい。 髪をかき上げ襟足を差し出す仕草には、ちょっとドキッとした。
「い···行くぞ」
首の後ろにある白い勾玉に触れ「我が力を分け与える···【配気】!」と唱える。
「あぁ···あぁぁぁ······」
やけに色っぽい声が漏れた。 この術はとても気持ちがいいようだが、自分では体験できないのが残念で仕方がない。
「凄いわ···とても優しくて温かい【気】が全身の隅々まで流れてくるの。 全ての神経、全ての穴道(気の通り道)が翔鬼の気に覆われていくのが分かるのよ」
白鈴は先程の感触を思い出してウットリしていたが、ハッと我に返る。
「本当にこれで石にならいの?」
「うん。 白狼で実験済みだからだいじょうぶだ」
「ありがとう。 これで手を繋がなくても大丈夫ね」
···そうか···ちょっと残念···
「そうそう! そういえば、ここに来る時、鬼達に襲われたわ。 鬼神も1人いたのよ」
「あいつら! 女なら誰でもいいのか?」
「どういう意味よ!! 失礼ね! 鬼神は襲ってこなかったので、鬼達だけならは弱くて問題なかったのだけど···」
「そいつら、前にお静さんに絡んでいた奴等と同じだと思うのだが、さっきも俺をどこかに連れて行こうとして絡んできたので返り討ちにしてやった!」
「まぁ、凄いわ! 鬼神に勝てたの?」
「···翔斬刀が···」
白鈴がそうだと思ったわと鼻で笑う。 ちょっと悔しい。
ぬらりひょんもヒョッヒョッと笑う。
「その鬼達は酒呑童子の一味で、鬼神は四人衆の一人、慶臥。 残る三人は石にされたという噂じゃ。 慶臥は四人衆の中でも新参者で他の三人から見下されていたようじゃが、三人がいなくなった今は、我物顔で歩いているようじゃな」
「ところでなんで俺を連れて行こうとしたんだろう?」
「もしかしたら翔鬼殿の能力のためかもしれませんぞ」
「俺の能力? あぁ、石になった者を元に戻す?」
「私を捕まえて貴方をおびき出すつもりだったのかしら?」
「ハハハ、鬼達もとんだ災難だったな」
「私の心配をしなさいよ!」
「大丈夫だったか?!」
翔鬼は思いっきり心配そうな顔をしてみせる。
「殴るわよ」
ハハハハハ!と、一頻り笑ってから、ぬらりひょん邸を後にした。
配気は、気持ちいいみたいですね( ´∀` )b




