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第二十四話 土蜘蛛

土蜘蛛がいるという場所に行くが、様子がおかしい!


 第二十四話 土蜘蛛(つちぐも)



 町の北側に向かう。


 土蜘蛛がいるという場所は、北東にある江の坂洞窟からはすぐだそうだが、飛んでいけばすぐなのに歩いて行く。 そういえば空を飛んでいる妖怪はほとんどいない。 理由があるのか聞いてみた。


「よく気が付いたわね。 妖界には暗黙の作法というのがあって、緊急の時以外は屋根より上を飛ばないの。 特に理由なんて無いと思うわ。 あえて言うなら結界の上限がそれほど高くないという事と、体の大きな妖怪が道を歩くと邪魔なんで、そういう子達の通り道が屋根の上なの」


 そういえば、たまに大きい妖怪が屋根の上にいるのを見る事がある。 そういう理由だったのか。



 こちらも特に急いでいるわけではない。 町を見物しながらゆっくりと歩いた。


 たまに「大蛇(おろち)」や「幽鬼」という言葉が聞こえてくる。 それと「酒呑童子(しゅてんどうじ)」や「四天王」の事についても話しが聞こえた。


 どうやら四天王とは四人の鬼神で、大蛇退治(おろちたいじ)に出かけて、戻ってきたのは慶臥(けいが)だけだったようだ。 噂では残る3人は石にされたらしいという事だ。


···四天王が一人になったという事か。 機会があれば3人を石から戻してあげよう···いや待て···お静さんが嫌な奴らって言っていたから妖怪の不良集団みたいなものかな? それなら慶臥(けいが)一人だけでも面倒だから、他の連中は放っておいた方がいいかもしれないのか?···




 集落を抜けて山の(ふもと)に来た。 江の坂洞窟の入り口とは目と鼻の先だ。


「この辺りにいるのか?」

「そのはずなんだけど···」


 翔鬼は【気】を探してみた。 土蜘蛛の【気】は知らないが、この辺りに【気】があればそいつのものだろう。


 遠くに見つけた。 赤く燃え上がるような【気】で、心を視てみると考えている事は支離滅裂だ。


『どうして?!』『なぜよりによって!!』『返せ!』『こいつだけは!』『よくも我が子を!』『誰にも渡さない!!』



 もしかして誰かに子供を取られて(われ)を失っているのか?



「あそこにいる!」

「ほんとうね。 気が立っているようだから気をつけてね」


 山の麓の鬱蒼(うっそう)と茂った森の入り口辺りに小山のような大きな妖怪がいた。


「デカい!」


 4~5mはある巨大な蜘蛛なのだが頭部は虎で、真っ赤な【気】が燃え上がるように放ち、8個ある瞳は真っ赤に光っている。 



挿絵(By みてみん)



 近付くと横にいる白狼に向かって何かが飛んできた。 2m四方の真っ白の布のような物だ。 白狼は慌てて避ける。


「気をつけろ! 翔鬼! 蜘蛛の糸だ!」

「えっ?! 蜘蛛の糸? わっ!!」


 白狼に気を取られていた時に、翔鬼に向かって飛んできた蜘蛛の糸が命中して、後ろの木に貼り付けられた。


「しまった!!」

『申し訳ありません! 油断していました』


 翔斬刀が焦って謝る。



「バカねっ!」


 白鈴と白狼、清宗坊は飛んでくる糸を避けながら飛んでいる。 土蜘蛛も周りの木を利用して、体に似合わぬ速さで追ってくる。


厳之丞(げんのじょう)!! 正気になれ!! 私だ!! 清宗坊だ!!」


 清宗坊の知り合いのようだが、完全に正気を失っていて誰だか分からないようだ。


「困ったわ! 殺す事もできないし、どうしましょう!」


 右へ左へ逃げながら戸惑っていると、白狼が近付いてきた。


「白鈴! 白癒羽(はくゆう)が足くらいなら切り落としても付けることができると、わっ!!」


 話しに気を取られて白狼が蜘蛛の糸に捕らえられて木に縫い付けられた。


「分かったわ!! 清宗坊!! 足なら切り落としても大丈夫よ!!」

「承知!」


 白鈴は足元をすり抜けると同時に右前足を切り落とす。 同時に清宗坊が左前足も切り落とすと、土蜘蛛はズズン!と前のめりに倒れたが、すぐに残りの足で立ち上がり清宗坊を糸で捕らえた。


「マズいわね!」


 白鈴は糸から逃げる一方になってしまった。


 その時、糸から逃れてきた翔鬼が凄い勢いで飛んできて、後ろ脚を3本同時に切り落とした。


「翔鬼?! あなたどうやって?!」

「それは後! あと3本!!」


 翔鬼は土蜘蛛が吐く糸の隙間を潜り抜けながら近づき、バランスを崩して動きが鈍くなってきた土蜘蛛の残る足も切り落とした。


 しかしそれでも斬られて短くなった足を動かしながら必死で糸を吐いてくる。


 翔鬼は後ろから土蜘蛛の首根っこにデン!と馬乗りになり、頭を押さえて耳元でささやいた。


「大丈夫だ。 落ち着け、俺たちはお前の子供を奪ったりしない」


 少し動きが鈍くなってきて、土蜘蛛の【気】も落ち着いてくる。


「安心しろ、大丈夫だ···大丈夫だ···」


 翔鬼が優しく(ささや)き続けると、真っ赤に燃えるようだった【気】が、柔らかい黄色になり、瞳の色も同じ赤色ではあるが、落ち着いた赤色になった。


「正気を取り戻したか?」

「あ······」


 土蜘蛛は周りを見回す。


「今から足を元に戻してやるから、大人しくしていろよ」

「わ···わかりました」


 翔鬼は土蜘蛛から降りて白狼を助け、白鈴は清宗坊に(から)みついていた糸を()がしてから疑問に思っていた事を聞きに翔鬼の所に走ってきた。


「あなた、どうやって土蜘蛛の糸から逃れることが出来たの?」

「勝手に溶けた。 ほら···」


 今、白狼からはぎ取って手に握っていた糸を見せると、ゆっくりと手のひらで解けていく。


「なに?! こんな事、初めて見るわ! 蜘蛛の糸が溶けるなんて」

「へぇ~~普通は溶けないのか···って、そりゃそうか」


 白鈴と清宗坊は珍しそうに溶けていく糸に見入っていた。


「白鈴、 ぼ~っとしていないで早く土蜘蛛の足を」

「そうだったわね」


 3人で切り落とした足を持ち上げて支え、白癒羽が薬で付けていく。


 改めて白癒羽の薬の治癒の力に感心した。



 ◇◇◇◇◇◇◇◇



「さて···」


 8本ともの足が元通りになり、驚きながら足を動かして具合を見ている土蜘蛛の厳之丞(げんのじょう)の前に立った。


 先に話しを切り出したのは厳之丞(げんのじょう)だ。


「本当にすみませんでした。 清宗坊もすまなかったな」

「何があったのだ?」


 清宗坊の問いに直ぐに答えず、翔鬼達を見回す。


「清宗坊、この御方達は?」

「翔鬼様、白鈴様、白狼様で、お前に用事があってここまで来た。 聞きたいことがある。」


「そうですか···その前に少しお待ちを。 敬之丞(たかのじょう)!」


 厳之丞(げんのじょう)が後ろに向かって名を呼ぶと、ゴソゴソと草むらから小さな土蜘蛛が出てきた。

 厳之丞(げんのじょう)そっくりのミニチュア版で1mもない。 これが子供(分身)だろう



厳之丞(げんのじょう)、無事に生まれていたのか」

「それが···珍しい事に2人も生まれたのだ。 俺はとても喜んだ。 こんなに嬉しいものかと思うほど歓喜した。

 しかし、突然2体の幽鬼に襲われて、目の前で影之丞(かげのじょう)が石にされたのだ。 もう一人生まれた俺の子供(分身)だ。

 幽鬼はどうにか糸で捕らえ、その間にこの町に逃げてきたところまでは覚えているのだが、怒りで我を忘れてしまっていたようだ」


 それを聞いて 翔鬼が口を挟む。


「石にされた? ここの近くか?」

「江の坂洞窟の外、南に少し行ったところです」

「もしかして敬之丞(たかのじょう)は場所を知っているか?」


 翔鬼は小さい土蜘蛛に聞く。 厳之丞(げんのじょう)を見た後だからかもしれないが、ミニチュアで可愛い。 それも生まれたばかりと聞いている。 可愛らしい子供の返答を期待したが···


「もちろん知っているがそれがどうした?」


「······」


 答えたのは敬之丞(たかのじょう)だ。 生まれたばかりなのにオッサンのような話し方で少し驚いた。



「何を呆けているのだ? 知っていると言っている」

「あ···あぁそうか。 俺は石になった者を元に戻す力を授かっている。 その石になった影之丞(かげのじょう)を元に戻してやろう」


 それを聞いて喜んだのは厳之丞だ。


「本当ですか?! 翔鬼様! それは有難い。 敬之丞(たかのじょう)、お供しなさい」

厳之丞(げんのじょう)が行けばいいだろう?」


 敬之丞はめんどくさそうに言う。



···こいつ、親の事を呼び捨てか? 何か生意気な野郎だ···



「俺達は飛んでいくので、敬之丞(たかのじょう)サイズがいいんだ」

()()()ってなんだ?」


「お前くらいチビの方が、都合がいいって言っているんだよ」

「チビって言うな!」



···めんどくさい奴!···




「白狼と敬之丞(たかのじょう)を連れて行ってくる。 白鈴たちは待っていてくれ」

「あなた達だけで大丈夫?」


 敬之丞(たかのじょう)はクククと笑う。


「猫娘に心配されてやんの。 いてっ!!」


 厳之丞(げんのじょう)がゴツンと敬之丞(たかのじょう)の頭を殴った。



「翔鬼様、申し訳ありません。 こいつと影之丞(かげのじょう)をよろしくお願いいたします」




···厳之丞(げんのじょう)が殴っていなかったら、俺が殴るところだった···

 






土蜘蛛のミニチュアサイズの敬の丞は、生意気すぎて、ムカつく!!

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