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5.thunder storm.―5


 ぎこちない笑みとピースを掲げる龍二と、それにぴったり寄り添い、最高の笑みを浮かべる宮古が写っていた。その他にも数枚写真があるが、どれも大した変わりは見えなかった。やはり龍二はこういう事が苦手である。そんな写真を見て、思わず龍二は苦笑を浮かべた。ダメだな、俺と呟く。

「あはは、龍二硬すぎ」

 と、宮古が笑う。反論は出来なかった。

「どうにも苦手でな。こういうのとか、そもそも写真とか」

「そうなんだ。っていうか付き合ってた頃もこういう事全くしなかったよね」

「そうだな。というかまず、何もしてねぇっての」

「あはは、そうだね」

 切り分けたプリクラをしまって、宮古は辺りを見回して、

「ちょっと回ってみる?」




    47




 龍二は疲れた、と今日何度目かわからないげんなりとした表情を見せた。宮古とあちこち回って、疲れていた。疲弊していた。だが、心地よい疲弊でもあった。

 晩御飯を終え、風呂も終えて龍二は自室に戻った。宮古には泊まって行けと言ってある。丁度春風の部屋が開いている。そこを使えと指示を出した。もう日は沈み、帰るとしても帰路は暗い。送っていく事も考えたが、面倒だという本心と、極力一緒にいて守ってやるという本心がぶつかってそういう結果となった。

 電気を消し、ベッドに仰向けに寝転がる。静かだった。自然とまぶたを下ろして更なる暗闇に潜り込む。クーラーの冷気で部屋は冷えていた。が、何かをかぶることはなかった。右腕を、後頭部に回して枕と頭の間に潜り込ませて頭を高くした。

 視界を失うと考え事をしてしまう。今まで、普通の高校生では味わえない経験をしてきた。日本の顔を殺したし、殺し屋を数多く相手に、殺してきた。この前ついに一般人までも殺した。不思議な気持ちだった。

 人を殺す事をかたくなに否定する人間は、殺しの世界では絶対に理解できない。むしろ殺しは人間の本能だ、と思っている人間が多い。それを漫画や小説、それに勝手に作り上げられたマナーや常識、法律。それらのせいで否定させられている人間が多い。だが、実際、人々に殺しが可能な環境を与えたらどうなるだろうか。そこから先は、考えずとも想像はついた。既に人を殺している龍二だからこそ、確実に推測出来た。

 龍二は殺しを楽しんでいるわけではない。――というのが建前なのではないかと、思っていた。金はある。守るという理由もある。でも殺す理由は。

 が、それを考える理由がなかった。殺し屋の中には殺しを楽しむがためにそうなっている人間もいる。一応法外ではるが、協会という名に守られた状態で殺しが出来る。それこそいつ、警察なんぞのちっぽけな存在に邪魔されるかわからない快楽殺人鬼になるよりは効率が良い。仮に、龍二が殺人衝動を抑えるための快楽を求めていたとしても、多くの殺し屋の一人、として考えれば問題はない。

 俺は、これから先、どうなるんだろうかと龍二はふと思った。

 龍二はただの殺し屋ではない。世界一、殺し屋と相対する事のある殺し屋だろう。命を常に狙われる殺し屋だ。故に、彼は殺しの世界から抜け出せない。自分が抜け出しても、周りが足を引っ張って来る。それに結局、龍二は足を突っ込む。

 そして、俺は何がしたいのか、と思い始める。

 日常に戻りたい、戻りたい、とそうしてきた。が、自信のわがままで周りを巻き込みながらも殺しの世界と日常の世界を交えさせてきた。わがままでもいいと思ってきた。思っている。悪気はあるが、悪いとは思っていなかった。

 考え事をしていると、扉が開く音が聞こえてきた。龍二が片目を開けて扉を見てみると、長身の影があった。廊下の燈の逆光で姿をはっきりと見る事は出来なかったが、すぐに宮古だとわかった。

 上体を起こして、――その際にやはり左腕が使えないもどかしさを感じた――どうしたのか、と訊く。

 宮古はそのままゆっくりと歩いてきて、「ちょっとお話」龍二の横に座るように、ベッドに腰を下ろした。

 近いな、と龍二は思ったが、敢えて何も言わないでおいた。

「お話?」

「そう、お話」

「何か聞きたい事でもあんのか?」

 昼間あれだけ一緒にいて、まだ何か話す事があるのか、というつまらない人間のような対応を見せる龍二。そんな態度にも、宮古は笑って接する。

「そうツンツンしなさんな」

「してねーよ」

「オネムな所起こしちゃって機嫌が悪いのかなー?」

 そう言って笑った宮古は龍二の頭をわしわしと撫でる。撫でるというよりは髪型を滅茶苦茶にする、という表現の方が近いのだろうか。龍二も何も言わず、ただされるがままになっていた。危険がないとわかっている事と、眠気が襲ってきているから、だろうか。こんな大人しい龍二も見る事が出来るモノだ。

「うるせーな。機嫌悪くなんえねーよ」

 頭を振り回されながら、龍二は言う。その声で、眠いんだな、と宮古は推測した。

 手を話すと、龍二の髪が風に吹かれているかの如く変な方を向いていたが、気にせず、宮古は話し出す。

「で、春風さんが龍二の今の彼女なの?」

「突然だな。ちげぇよ」

「そうなんだ。じゃあ日和ちゃん?」

「いや、待て。そもそも前提がおかしい。俺に彼女はいねぇよ」

「そうなんだ」

 突然何を聞くんだ、と龍二は眉を顰める、と、

「じゃあ、構わないねー」

 宮古はそう言って、突如として、龍二を押し倒した。どさり、と柔らかいベッドの上に龍二は仰向けに倒れ込んだ。左腕が使えないからと言って、痛みが背中に走るような事はなかった。その上に、すかさず宮古が乗り、龍二の顔のすぐ目の前に、その整いすぎた顔を近づける。少しでも動けば互いの鼻の頭がぶつかりそうだった。

 突然の出来事に龍二は驚きを隠せない、目を丸くして、だが、すぐに細めて視線をどこか斜め下に投げ出した。電気がついていないために本人ですらも気づけなかったが、羞恥心から頬が真っ赤に染まっていた。

 そんな龍二とは対照的に、宮古は妖艶な笑みを浮かべて、彼を見下ろしていた。そして、顔を一度離し、上体を起こして龍二に馬乗りの状態になって、

「じゃあさ、私とイチャイチャしても問題ないわけだ」

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