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5.thunder storm.―3

「龍二も将来何か店でも持ってみれば?」

 そんな龍二の心中を知らない宮古だが、偶然にもそんな事を聞いた。

「そうだな。金はあるし、この業界から抜け出せる事が出来るなら、悪くないかもしれないな」

 あはは、とお菓子を飲み込んでから、笑う龍二に対して、今度は宮古が質問を投げかけた。

「で、龍二はさ、何してたのさ。私も殺しの世界にはいたからね。知ってるよ。突然業界から足を洗った神代龍二。そもそも、神代家が滅んだはずなのに、ポンと出てきてすぐに姿を消した神代龍二ってね」

「あぁ、そこら辺の話しは本当に面倒なんだが……」

 と、龍二は語りだす。

 神代家、龍二の両親が自身を守るために死んだ事になった事、killer cell計画、そして、今までの事。更に、龍二の両親が消えてからの龍二の行動についても語った。

「俺は当時、どうして親父達が消えたのか知らなかったからな。本当に死んだのかとも思ったしよ。だから、金が必要だと思った。実際は親父は生きていて、金の心配の必要もなかったみたいだが……、俺は知らなかったし、家も守りたいと思った。だから動いた。だが、殺しの世界から離れたいって気持ちもあった。親父に訓練をつまされて、殺しの仕事も始めて、で、親父達が消えて、俺も一旦はそのタイミングで殺しの業界から抜け出そうと思った。俺は日常が好きだからな。だが、無理だった。だから大金を得ようと働いた。普通の仕事もそうだが、」

 そこで、宮古が口を挟んだ。

「推測だけど、あの首脳暗殺ってのも龍二の仕業なんでしょ?」

 言われて、龍二は大して驚く事もなく、頷いた。

「そうだ。俺が殺した」

 そして龍二は語りだす。宮古には隠す必要はないだろう、と。




    45




 雨が降っていた。小雨とも言えない程度の振り方で、外出には傘なりカッパなりが必要な程度の雨だった。雨がコンクリートの床を打つ音が雑音となって浸透していた。こんな日は殺しがしやすい。音がかき消されれば、その分動きやすいからだ。

 そんな雨が降りしきるこの日、日本、総理大臣の靖国やすくに首相はとある高校の体育館で、講演をするとの事だった。高校は全国的に有名な高校で、そこで靖国首相が講演するという事は、テレビ等のメディアで取り上げられ、全国的に知られていた。

 故に、高額だった。

 正直言って、日本の警戒は緩い。それは、誰もが殺し屋が仕掛けてくるとは思っていなかったからだ。殺し屋の存在自体はこの国の人間であっても、一部の人間は把握している。だが、その連中も、殺し屋が首脳を殺す理由はないと思っていた。だから、日本の警備は徹底したとは言えない程度のモノになっていた。そんじょそこらのヤクザや海外系マフィアが手を出して来た程度ならば容易く防げるが、本物の殺し屋の相手の仕方を分かっていない。

 故に、そこそこの技術を持っていれば、首相を殺す事等容易い。

 問題があるとすれば、殺せば全国的にその事実を知らしめてしまうという事。最悪、協会のカバーも受けられないという事、そして、殺しの世界で名を馳せてしまう可能性があるという事。

 そんな依頼を神代龍二は受けた。仲介人なしの、電話越しの暗号付きの依頼だった。が、龍二も相手を把握するつもりがないため、相手が誰なのかは知らなかった。首相を殺せという依頼。時間の指定、場所の指定が大まかにだったが指定してあった。公演中、その場所で、という詳細。それと、報酬金額の話し。金が必要だと思っていた龍二にはぴったりだった。金額はこの世のモノとは思えない程に膨大で、前金で半額が入金される。暗殺成功後に、残りが振込まれる。半額でも十二分と言える程の金額だった。何にせよ、龍二にしか出来ない依頼でもあった。

 龍二はボルトアクション式のスナイパーライフルを分解して突っ込んであるハードケースを片手で持ち、空いた手で傘を持って道を歩いていた。舞台となる高校付近だ。首相が来るという事で人も多く、人混みも出来ていた。龍二はその人混みに極力溶け込みながら、歩を進めた。

 疑っているわけではないが、この依頼自体が、ポンと姿を現した神代家、龍二の存在を知った、知ってしまった人間による罠の可能性だってあった。龍二を殺せば先に振り込まれた前金だって回収は難しくないだろう。そこいら中に傘の天井が出来上がっているから、狙撃をされる心配は少ないと思えた。

 ハードケースが目立つため、尾行にだけ注意を払いながら、龍二は進んだ。

 地面に落ちた雨が跳ねてズボンの裾が濡れて僅かに重くなったが、気にはならなかった。

 龍二は人混みから抜け出し、歩みの速度を一定に保ったまま、先を急いだ。龍二が持ち歩いている狙撃銃の射程距離は大凡一八○○メートル。美羽の手が加えられた武器で、龍二は二○○○メートルでもヒットさせる自信があった。

 事前にもらっていた情報と地図、そして下見で選定した高校から二キロ弱離れた位置にあるとる会社のビルへと向かった。

 龍二が表から入った所で上に登れるはずもない。そのため龍二は会社の裏手に周り、ハードケースを肩がけの紐を付けて背負い、パイプを使ってよじ登り始めた。雨で滑るが、龍二の手にはめた黒い手袋が滑り止めの役割を持っているのか、龍二はサクサクと登り始めた。十数分を要して、龍二は雨の中一二階程のビルの屋上へとたどり着いた。

 傘はビルを登る際に邪魔となるので捨てた。龍二はビルの、あらかじめ選定しておいた場所へと移動して、そこでハードケースを開けた。その中には、この時のために小さな折りたたみ傘が入っていて、龍二はまずそれを取り出してハードケースの中身を守る様に開いて、置いた。そして、雨から守られたその空間の中で龍二は狙撃銃を組み立てる。

 暫くして組み終わると、セッティングをし、銃の上に傘を広げたまま、龍二は塗れた床に寝そべって構えた。光学式のスコープを覗き込むと、確かに舞台の高校の体育館が見えた。そして、十字線の中心はその体育館の舞台の上を捉えていた。完璧だった。そもそも、たかが高校の体育館が狙撃手に狙われ場合、等考えているはずがないのだ。このような場所は探したら後三箇所は見つかっただろう。

 龍二は一度スコープから目を話して腕時計に目をやる。目標が講演を始めるまで、後二○分程の猶予があった。

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