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5.thunder storm.―1


 龍二が手を話すと、インターフォンが鳴る音が家の中から微かに聞こえてきた。これでインターフォンが壊れていて、誰も出てこなかったなんていう間抜けな展開にはならないだろう。数秒待つと応答があった。

『今いきます』

 宮古の声だった。インターフォン越しの声だったからか、少し声色が低く思えた。いや、あれだけの出来事があった後だ。生で肉声を聞いてもきっと今抱いたイメージ通りだろう。明るく振舞おうという方が無理な話しである。

 五秒程して、宮古が玄関から出てきた。スウェット姿で、メイクもしてなかったが、相変わらず整った容姿が栄えていた。だがやはり、表情は重く、目は伏せがちである。そのすぐ背後に、霧男の姿も見えた。

「龍二……よかった。生きてたんだ……」

 そう呟く宮古だが、その小さな声は霧男の声にかき消された。

「二人共、入ってくれ」

 霧男はそういうと家の中へと戻っていった。宮古も続く。当然、龍二とシオンも続くしかなかったのだった。




 龍二達二人はリビングへと通された。外観からは気づかなかったが、この居住部分はそれなりに広かった。リビングも一二畳程あり、極普通の一般家庭といった雰囲気が漂っていた。

 が、龍二はそこを疑問に思った。霧男が仲介業をやめ、この一般の世界に戻ろうとしたのだとしても、仲介者として生きていた時点で稼ぎに稼いだ金があるはずだ。この家庭でも十二分な生活空間ではあるが、もっと良いくらしもできるだろう、と。

 道中でシオンから昨日の話しを龍二は聞いていた。人づてに聞いた事だから確信は持てなかった。だが、やはり疑問はあった。どうして、宮古は仲介業を始めたのか、という事だ。父親が仲介業をしていれば間違いなく金で困る事はない。仲介業は需要が供給に追いついていないのだ。一度初めてしまえば、死ぬ覚悟さえ持っていれいくらでも稼ぐ事が出来る。なのに、何故。それに、霧男が気付いていたか、気付いていなかったかは別として、宮古は霧男にその事実を隠していたと言う。一体何故なのか。

 食卓の席に四人が付く。当然、龍二が先導して話しを始めた。

「正直に全部答えてもらう。でなければ俺は、俺達は礼、……それに霧男さん。あんたらを守れない」

 龍二の意思は決まっていた。『守る』。仕事ではない。ただ、自分がそうしたいと思ったからが故の選択だった。

 その龍二の『守る』発現に宮古一家はどうやら驚いたようだ。二人共目を丸く見開いて、動きを一瞬止めた。

「守ってくれるというのか? 巻き込んでしまったというのに……」

 霧男が表情を伏せ、言う。

「俺がそうしたいんだからそうするまでだ。金も取らない。守ってやる。だから、」

 龍二の態度は冷たかったかもしれない。だが、時には厳しく、必要な事を実行するためにそう当たらなければならない場合もある。龍二はわかっている。わかっていた。

「全て訊かせてもらう。礼。お前がどうして仲介者をやってたのかって所も全部な。関係ない話しじゃない。俺が全部って言ったんだ。俺の質問には全部答えてもらう」

 龍二の鋭利な視線が宮古の涙を浮かべている目に突き刺さった。が、宮古は決して視線を逸らさなかった。涙のせいで歪んだ視界に、確実に龍二を捉えて、彼女は深く頷いてはいと答えた。

 龍二の横のシオンはとにかく辺りを警戒していた。警戒する理由はないが、彼女の癖でもあった。ナンバーという傭兵軍隊のような団体にいたのだ。複数の実働役での動き方のマニュアルもあったのかもしれない。そしてシオンは、辺りを警戒しながらも、龍二のその態度に関心していた。こんな若い子が、ここまで的確に、心を殺して動けるものなのか、と思っていた。

 そんなシオンの考えを知らない龍二は、自分のペースで淡々と話しを進めて行く。

「じゃあ礼。仲介業を始めた理由を」

「うん。わかった」

 ちらり、と隣の父親を見てから、「私が仲介業を始めたのは……、」

 だが、その言葉を霧男が止めた。

「待ってくれ。その件については私から話そう」

 龍二もシオンもやはりな、と思った。僅かに顔を上げて霧男を見上げた宮古の様子を見ると、宮古自身もその事実に気づいていたかの様に見えた。昨日のあの後、自身で話しをしたのかもしれないが。

 一度の深呼吸が響いた。そして、霧男が低い声を吐く。

「ウチの家計のためだ。礼が働いてくれたのは」

「母親が見当たらない事と関係が?」

 龍二の詮索。霧男は頷いた。

「そうだ。君は一度あってるだろうから見てくれだけは知ってるだろう。が、あの人は、……結論から言えば、金をもって逃げた。挙句、私の名を使って殺しの世界に逃げ込もうとして殺された。細かい所でどういう動きがあったのか知らないが、その結果で私もあの業界では仕事ができなくなった。命を狙われる、という事はなかったが……。金と仕事を同時に失ったのだ。貯蓄もなければ当然、この金が流通し続ける世界では生活ができない。……娘もいるしな。かと言って、新しい仕事を探す事も叶わない。業界では干され、今更一般の世界を巻き込む事も出来ない。そんな時だ。礼が察したのだろう」

 その言葉には宮古が続いた。

「そう。私も気付いてね。その頃には仲介業とか殺しの世界について一応知ってたから、一気に大金を稼いで、って考えたら自然とそうしてた。危険なのは当然わかってたけど」

「なるほど。そこまででいい」

 龍二が会話を止めた。

(春風が見覚えがあるって言ってたのも殺しの世界で、なのかもしれないな)

 龍二は次のフェーズに話しを進める。

「推測だが、礼のその仲介業で、何かがあって、今回の事が起きたってんだな?」

 その質問に、宮古は素直に頷いた。「うん。でも、一旦落ち着いてたから、もう仕掛けてこないって思ってたの……」

「話してみろ」

「うん。私は仕事……仲介業をしながら、どうしてお父さんが急に仕事ができなくなってしまったのか調べたの。当然、名前はその業界様に変えてたから、お父さんとの繋がりはバレないで調べを進める事が出来た。で、お父さんがお母さんに逃げられたって事を知った。じゃあ、お母さんが持って逃げた金はどこに行ったのか? って考えた。そして、調べを進めて行くと『昭和』って人にたどり着いた」

「協会のナンバーツーですね」

 シオンが言った。その存在自体は龍二も知っているようで、頷いた。続いて宮古も頷く。

「そう。よりによって協会の幹部だった。でも、悔しくて。生活を奪われかけた事もだし、お父さんが稼いだお金を取られた事も悔しくて、悔しくて。取り返そうと思った」

「そのせいで目を付けられた、と」

 龍二の推測に宮古は頷いた。

「そう。でも協会に立てつけば殺し屋よりも立場の弱い仲介人なんてすぐに潰されちゃうってわかってた」

 そうだ、仲介人の存在自体は殺しの業界に置いていても、その力は殺し屋よりも遥かに弱い。協会という殺し屋をまとめる存在からすれば、更に下に位置してしまうような、いわば警察と警備員のような権力関係だ。

「だから、私は、仲介人って立場を使って、昭和から直接じゃなくて、間接的にお金を取り返そうと思ったの。だから私は名前を売って努力した。活動範囲を広げた、頻度も上げた。そうして、協会に近い『クロコダイル』っていう組織の常連となった」

「クロコダイルって言えば、少数精鋭で有名な実力派団体ですね。協会所属の中でも断トツで力を持ってる団体」

 シオンが言う。龍二はその存在を知っているのか、黙って頷いた。

 宮古が続ける。

「クロコダイルはその力あってか、どうやら昭和から依頼を受けての仕事を結構していたみたい。だから、その仕事の仲介人になれば、間接的で、相手には何のダメージもないけど、形だけは昭和からお金を取り戻せるって思って私はそこに力を注いだ」

「でも、気づかれたってわけか」

 龍二の推測はどこまでも外れなかった。返事は当然、頷きで返される。

「そう。私が宮古霧男、お父さんの娘だってどうしてか昭和は気付いた。昭和がその事実に気付いた事に早く気づけたから良かった。私は予定に組み込んでた仕事も全部投げ出して、逃げ出した」

「おーけー。わかった。さっきの話しから推測して、暫くは攻撃を仕掛けられてたが、なんとか逃げてて、その内攻撃も止んで、もう大丈夫だと思って俺達の誘いを受けて、昨日の事件、って事か」

「そう。……本当に、ごめんなさい」

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