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4.we cry down.―20

 そんな春風の表情、心中には日和も気づいているようだった。彼女もやはり、『殺しの世界』の人間なのだろう。普段の様子からは全く想像のできない凛々しい様子に周りの連中も思わず面食らってしまっていた。特に礼二は驚いているようで、ずっと間抜けに口を開けて呆然としていた。もしかすると話しも耳に入っていないかもしれない。それ程、驚いているようだった。

「私は、っていうか、私の家族も龍二の家族と同じで殺し屋稼業なんだよ。ただ、ウチの場合は全員が『後援役』。実働役はいない。あと、皆はわからないだろうけど、ウチは神代家と同じで野良ね。で、桃ちゃんは気づいていると思うけど、私は美羽さんから『神代家の武器』の技術と知識を預かってる」

「やっぱりね……」

 春風はそう呟いて頷いた。武器の事については今は関係ない。わかった、と言って、次に宮古に視線をやる。そして、問う。

「で、礼ちゃんは?」

 皆の視線が宮古に集まる。と、宮古も覚悟したように、嘆息してから吐き出した。

「皆。巻き込んでごめん。今日のは本当に、私のせいなの……」

「どういう事なんだ?」

 飯島が首を傾げる。皆もその先を聞きたくて仕方がないようだった。ぐずぐず鼻を鳴らしたまま、宮古は語りだした。

「私のお父さんがさ、どうしてあの年で急に店なんか始めたんだって思ってる人もいると思うんだけど。それなんだよね。お父さんさ、ずっと今まで別の仕事していたの。でね、まぁ、予想通り、殺し屋関係の仕事だったの。私はずっと知らなかったけどね。で、何をしてたかっていうと……、」

「仲介人でしょ」

 日和が言った。宮古は一瞬固まったが、すぐに頷いて返した。

「うん。そう。仲介人」

 そうだ。殺しの世界に存在する所謂『職種』は、何も実働役と後援役による『殺し屋』だけではない。当然、組織があれば内勤者という立場も存在するし、仲介人という職業も存在する。

 仲介人とは、殺しの依頼をする依頼者と、仕事をする殺し屋を直接繋げず、その間のクッションとなる人物だ。依頼者は何もその身を裏の世界に置くだけの人間ではない。表の世界で名を馳せる人間がそうなる場合も当然ある。そう依頼者は、何かあった場合、暴走し、逆に殺し屋を『消そう』とまでしてくる場合もある。そういうトラブルを防止するための存在が、仲介人だ。仲介人なしで仕事を通す事当然ある。最近の例で言えばシオンの一件がそうだ。シオンだったから良いものの、相手がもし、馬鹿な考えを起こす人間だった場合、依頼料を稼ぎにするために、等の理由で殺し屋を始末しようとまでする場合もある。つまり、互いに顔を見せない状態程、安心できるやりとりはないのだ。つまり仲介者は、依頼者、殺し屋どちらとも直接的な接点を持つ事となる唯一の存在となる場合が多い。

 それは、危険を負うという事。危険の代理人、それが仲介者だ。

「なるほどね……、で、礼ちゃん。アナタも仲介者だよね」

 春風が言った。何かと知っている様子の日和もここまでは考えなかったのか、知らなかったのか、目を見開いて驚いていた。まさか、といった表情だ。が、そのまさかを裏切るように、宮古は頷いた。

「そう。知った経緯は省くけど、お父さんがそういう仕事をしてるって知ってから、お父さんに内緒で始めたの。手探りだったから大変だったけど、お金はよかったからさ」

「なんで親父さんには内緒にしたんだ? やるにしても、聞いて教えて貰えば早かっただろうに」

 平の問いに宮古は無理矢理作った笑みを浮かべて答える。

「龍二みたいにさ、命を狙われる可能性があって、とかイロイロ事情があるならまだしも、私は全くそういうのがなかったからね。考えてみて。自分の息子娘をそういう危険な世界に進んで導こうと思う?」

 そうだな、と平は考えを改めて深くうなづいた。春風、日和、そして宮古はともかく、今日殺しの世界について知らされたばかりの人間ではまだまだ理解の及ばない所もあるのだろう。

「でね、今回のこの件が私のせいだっていうのは……」

 宮古が確信に迫ろうとした時だった。

 リビング内の空気が僅かに振動した。その原因に最初に気付いたのは春風だった。春風は即座に締めていたカーテンを開けた。と、同時、『二発目の銃弾』が窓にぶつかった。

 思わず春風はきゃあと短い悲鳴を上げて一歩後退した。窓が恐ろしい程に強力な防弾ガラスだったからよかったが、弾は確実に春風の額を捉えていた。

 すぐにカーテンを締め、春風は全て戸締りしてある事を記憶をたどって確認する。帰宅した際に念を押して全ての窓、扉の鍵を閉めた事を思い出して、とりあえず皆に声を駆ける。

「大丈夫。敵が入ってくる事はないから」

 そうはいうが、不安は拭えなかった。おかしい、とはあの公園での狙撃の時点で思っていた。暗視系の道具を持っていない様子だというのに、薄暗いあの場を狙って狙撃してきた事。いくら広く、見通しがよいとはいえ、それは理解に苦しむ。挙句、動いている相手に弾を当てる事は苦手なのか、それとも単純に普通の腕のスナイパーだったのかはわからないが、その程度の腕しかないのに、やはりあの悪い環境を狙うのはおかしい。そして、今、龍二の家は設計上、ベランダがまず外から、見えないようになっている。リビングへと通じる大きな窓もそうだ。それに、ここらで龍二の家の中を覗ける程の高さの建物はない。だが、相手は撃ってきた。二発目のは偶然だったとしても、一発目が威嚇だったとしても。

 そこで、気付いた。しまった、と春風は思った。龍二が負傷した最初の現場は薄暗く、顔も判別しづらかっただろう。宮古はその長身があるから分かるだろうが。だが、今、春風はカーテンを開けてしまった。見られる心配はない、と踏んでいたためそれなりに広げてしまった。

 仮に相手が、どうにかして龍二の家の中を見れる位置にいるとしたら。顔を、確認させてしまったという事だ。

(チッ……しまった。龍二が帰ってくるのは正直いつになるかわからないし、恐らく今日中って事はないよね……。家に入れるとは思えないけど、最悪の事を考えて置くに越したことはないか)

「どうする?」

 日和が眉を顰めて問う。日和は龍二の家の構造の事も知っているようだ。無駄にぐだぐだと質問をする様子はなかった。

「アトリエに逃げよう。流石に相手も昼間、一般人を襲うなんて事はしないはず。アトリエで朝まで待って、礼二君達には家に帰ってもらって、日常に戻ってもらう」

 春風は礼二達に目をやって、どうにか作った笑顔を向けて言う。が、当然不安はあった。礼二達一般人にはその笑顔の虚偽は見破られはしなかったが、春風には気づかれていた。

 敵が入ってくる可能性も捨てきれない。龍二がいない中、戦えるのは自身とシオンだけという事。そして、一般人を巻き込んだ相手が、昼間だからどうこうと理由を付けて襲ってこないとは限らない。様々な事実や推測が春風の思考を止めようとしていた。

 ともかく、と春風はアトリエへの扉を解放し、全員を中に移動させた。最後に春風もアトリエの中へと入る。

(……私が、なんとかしないと……)

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