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3.the new arrival and intruder.―21


「それにしても、浩二さん生きててよかったね」

 春風は言う。

「まぁ、あれだけバケモノだとか伝説だとか言われてた殺し屋だしな……。協会ごときに殺されるとも考えづらかったし、生きてても不思議ではないな」

 龍二は素っ気なくそう返す。本当にそう思っていた。死んだ、とされていたからそう思っていただけであって、生きてどこかに身を隠していても不思議ではないなともまた、思っていたのだった。

「それにしてもすごい人でしたね。私を救い出してくれた時も、あの場にいたナンバーのメンバーを倒したのも浩二さんなのでしょう? 一人であの面倒な場所で、本当に、人間の業とは思えないです」

 シオンは感服した様に言う。あの声の主が浩二だと知って、シオンは納得していた。父親であれば自身の鍛え抜いた息子に託してもおかしくはないだろうな、と思ったのだ、

「…………、」

 そんなことより、龍二はkiller cell計画とミクの関係について、本人に話すかどうか悩んでいた。春風には話すつもりでいる。それにもう聞いていたかもしれない。シオンにも、まだ話すかどうか悩んでいた。シオンとの仲はまだ浅い。彼女に伝えた際、どう出るか、どう考えるか、ミクに勝手に伝えやしないか、と行動予測が出来ない。それについては、春風と相談してみるか、と考える。





「ミクちゃんが、ねぇ」

 アトリエにて龍二と春風が二人。龍二はミクとkiller cell計画について鼻したのだった。当然、浩二がどうして顔を出してきたのかも、である。聞いた春風は「なるほどね」とでも言わんばかりに唸る。武器の事についてはまだ全てを把握できたはずではないが、それ以外の事について何かが見えてきた、と思った。

「って事はミクちゃんは龍二のお母さんって事なんだね?」

「まぁ、間違ってないけど違うぞ」

 ミクは恐らく、であるが龍二の母親、美羽のクローンだろう。と、なれば春風の言う事は間違いではないが、細胞単位で同じ存在であろうが立場が、立ち位置が違うだろ、と龍二は否定した。実際に、あの幼女が自身の母親だというのは面倒な状況を招きそうである。

「で、私の知らない間に龍二の事を襲ってた男が、浩二さんのクローンだったってわけ?」

 春風は言いながら、したり顔で龍二を見る。一人で何してるんですか、と視線で訴えていた。

「しかも結構危なかったんでしょ? 浩二さん来なかったら死んでたかもしれないって?」

 ニヤニヤと笑いながら、春風は続けた。からかっている様で、だが何処か怒っているようにも見える表情。春風のその表情から彼女の真意を見抜けない龍二は僅かに困惑しながらも頷く。「すまなかったな」

「いいんだよ。別に、言わなくても」

 春風のこの言葉で龍二はやっと「あぁ、怒ってるな」と確信した。だが、怒っている理由まではわからなかった。だがまた、女の子の怒る理由はわからないという考えも龍二にはあった。とりあえず面倒な事を避けよう。つまり、気を逆なでしないようにしようとは構えておく。

「な、なんだよ……」

 威勢のない声で龍二は訊く。聞いてしまうのが早い、という事はどんな状況でも変わりない。

「死んだらどうするつもりだったの?」

 突然、がらりと雰囲気が変わった。つい先ほどまで、表面上だけでも明るかったはずの雰囲気は一瞬にしてどん底にまで叩き落とされた。春風の表情はまだ、笑っている。だが、笑っていない。

 春風は龍二に恩を感じていて、こういう場面でも怒るような考えは持っていない。本人も自覚しているし、龍二もそうだと察していた。だが今、彼女は龍二の対して、怒っている。

「考えてなかった」

 龍二は正直に答えた。戦闘で手を抜いたつもりはない。最初から、手を抜く戦闘なんて有り得ない。暗殺にせよ、殺し屋どうしの衝突にせよ、龍二はそんな事はしない。だが、相手をおびき出しているその道中、負けるという考えがなかったのも事実だった。だから龍二はこう答えた。

「そうだよね。龍二強いしすごいからね」

 春風は一息置いて、言う。

「でもさ、龍二がいなくなったら悲しむ人もいるんだよ? それに、今なんて、私も、シオンも、ミクも、皆が龍二に頼って生きてるんだよ。龍二はお金の事で困らせないように、なんて何かしら手を打ってるような気はするけどさ、それじゃだめなんだよ。結局は、龍二がいないと。龍二が私達を、何を考えてかは知らないけど集めたんだからさ。今で四人。ミクは殺しの世界とは無関係の存在だと見ても三人。立派に殺し屋だしね。一部の間じゃ私達は神代勢力なんて言われてもいるんだよ? 小さいけどさ、勢力の一番上が抜けたら終わりだよね。蛇は頭を潰せば死ぬっていうしさ」

「…………、」

 珍しく話にまとまりがない春風。だが、龍二は黙ってそれを聞き続けた。何が言いたいのか、そう思ってはいたが、春風の口から漏れるのをただ待った。


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