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3.the new arrival and intruder.―19


 そんな龍二はさて、と続ける。

「全部話せよ。今までの事。あと、killer cell。ミクの事もな」

 真剣な目つきだった。龍二が真剣になる事はそう少なくもないが、これはまた珍しい光景である。

 そんな龍二の態度を察したか、それとも最初からそのつもりでいたか、説明の責任自体は感じていたのか、浩二はフンとわざとらしく鼻で笑って、答えた。

「どうせ予測はついてるんだろ?」

「当然、だが真実は当人の口から聞きたい」

「おーけーおーけー」

 意外にも浩二は素直に二度頷いて、話しだした。

「俺とお母さんは二人、まぁ、今更だが、神代家って名の売れた殺し屋やってた。苗字のせいもあってか神に代わる力を持った殺し屋なんて言われてそりゃあ目立ったよ。で、まぁ、お前って息子がいて、殺し屋のくせに子供作るのかともなって。……お前がもうちょっと大きくなりゃ分かるとは思うが、息子ができりゃそりゃ守りたくもなるってもんだ」

 小っ恥ずかしいのか、それともただ清聴してるつもりなのか、龍二は黙って話を聞き続けた。

「お前に殺しの事を打ち明け、教えたのが中学の卒業式以降だったな。そこから大凡一年、お前に訓練を積ませた。どうしてか、ってそりゃあ、お前が自分の身を自分で守るために、だ」

「そりゃあ、なんとなく分かる」

「お前が訓練を積む少し前からな、お前の命を狙う殺し屋ってのは相当いたんだよ」

「マジで?」

「マジでな」

 この事実は、どうやら龍二には知らされていなかったようだ。

「まぁ、俺とお母さんが守ってたからな。お前にまで到達した殺し屋は一人もいない。だが、な」そこで、浩二の声色が変わった。それを察して龍二も眉を顰め、神妙な雰囲気を漂わせる。「日和ちゃん。と、その家族。円さんと旦那さんな。この家族が、龍二と仲がイイって狙われた事があった」

「ッ、」

 マジか、と小さく苛立ちを漏らす龍二。いつの時代になっても、世代が変わろうとも、ルールを逸脱し、無視し、己の得だけを考え他人を巻き込む人間もいるという事実の現れだった。顕著に現れすぎるその現実に過去の事であってもつい苛立ちを感じる龍二だった。

「当然、俺たちは阻止したがな。だが、そこでやっと気付いた。ただ迎え撃つだけじゃ、周りを巻き込む事になるってな。お前もそういう経験をしてはいるだろうが」

「…………、」

「だから、俺とお母さんは二人で協会に向かった。『俺たちは殺しの世界から消えるから息子、他人を巻き込むな』ってな。そこからは早かったぞ。俺達は協会の殺し屋に殺された事にして、息子であるお前は訓練もつんでない状態で親戚に引き取られたって設定を作り上げて情報を拡散してもらった。だから俺達が去った後、お前の下に襲撃はなかったんだ。今はある様だが……」

「うるせぇよ」

 カメレオンの名前が浩二の口から出かかっているように思えて、龍二は先に言葉で遮っておいた。だが、浩二の口からは予想外の言葉が漏れる。


「ナンバーとライカンが、お前を狙ってるぞ。龍二。挙句さっきの『俺のクローン』、協会連中もな」


「は? なんで? ナンバーは分かるが、なんでライカンと協会まで?」

 龍二は眉端を釣り上げて首を傾げた。龍二には本当に理解出来なかった。ナンバーの事はシオンの事が絡んでいる、と簡単に推測できたが、ライカンと協会には本当に理解が出来なかった。ライカンは聞き覚えがある。カメレオンの一件があった際に、龍二に襲撃をかけてきた男の所属組織が確かそうだった。だが、そのライカンが龍二を殺しに掛かる理由は、当然あるはある。神代家というだけで狙われる理由がある。だが、それ以外の理由は見つからなかった。

「シオンちゃん……だったか? あの子とミクちゃんが関係するのは当然。そのナンバーがライカンをどうにかして煽ったらしいな。詳細は知らない。協会は……まぁ俺のせいだ」

「お前のせいかよ!?」

 龍二が大音声を上げると浩二はいたずらに笑った。

「おう、そうだ。話は本筋に戻るが、俺と母さんは協会に話を持ちかけた際、条件を出された。それが、『二人の毛髪と唾液のDNAサンプル』を譲る、という事」

「こりゃまた不思議な条件で」

「俺も母さんも疑ったさ。だが、姿を消すってのはまずあっての事だからな。大きく動けなかったんだ。で、やっと掴んだ情報から出てきたのが、『killer cell計画』。俺も初めて知った時は驚愕したさ。クローンだの何だのってアホかってな。まぁ、でも事実なんだ。あの男、それにミク。俺はこの二人を含めた俺達のクローンを殺すためにまた動き始めた」

「ミクを殺す?」

「いや、殺さない」

「意味分からないな」

 訝しげに首を傾げる龍二に浩二は意味不明な笑を浮かべて続けた。

「俺がミクを殺しに行ったその時が、シオンがミクを見つけた日だ」

 浩二のその言葉で龍二はシオンから聞いた話を思い出す。誰かが、龍二に助けを求めろとシオンに声を掛けたのだ、と。考えればすぐにわかった。その声の主が、浩二だったのだ、と。

 あぁ、なるほど、わかってきた、と呟く龍二。視線が何処か遠くを泳いではいるが、本当に理解はしていた。

「でな、俺が動けばそりゃ目立つ。龍二、お前も姿を一度消したみたいだが、また動き初めてるからな。神代家だ、そりゃ目立つ。と、なれば協定は破られたも同然。いや、破った、か? まぁ、どっちでもいい。つまり、何が言いたいか、というとな……」

 浩二は不敵な笑みを崩さないまま、

「俺がこうやって出てきた事も含めて、分かるだろ? そろそろ野良だの協会所属だの、面倒な事をぶっつぶす時が来たんだ」

「…………、」

 どうにも直接的な表現でなく、比喩表現というか、ごまかしの言葉の説明のようだったが、龍二はすぐに理解した。単刀直入に言えば、協会に攻撃をふっかけるぞ、という事だと。

 だが、それよりも、『まずは』と、龍二は問う。


「で、母さんはどーなったんだよ?」

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