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3.the new arrival and intruder.―17


 その時に顔は確認した。適当な駅付属のデパートにでも売ってそうな黒いメッシュキャップを眼深かにかぶって全貌は確認できなかったが、どこかでみた事があるような、特徴のない顔立ちの男だと判断できた。服装も普通。極普通。どこにでもいそうな決して目立つ事のない、学生の私服といった雰囲気の服装。身長体重ともに龍二とほぼ同じ。行動からして殺し屋だろう。若い、殺し屋だった。

 龍二の空間ごと吹き飛ばしてしまうかと思う程の裏拳が男の頬に叩き込まれる。だが、男は恐ろしく早い判断と行動で左手を伸ばし、それを弾いた。

(こいつ……強いッ!!)

 一瞬の判断。判断力、反応から動きに繋げるまでの速さ。そして先ほどの気配の瞬間移動。龍二は直感で感じ取った。今まで相手をしてきた中で、一番に強い殺し屋だ、と。

 そんな相手に手を抜けば、こちらが殺されてしまう。武器は少ない。念の為に持ち合わせていた拳銃一丁と折りたたみナイフと言われても仕方がないような小さなナイフが一本。武器での戦いに持ち込めば押し負けてしまうような状態。できればこのまま接近戦をこなしたいところだ。

 龍二は武器を取り出す事を諦めた。だが、相手を引き離さない事に集中する。いかに相手との距離を保ち、相手の持つ武器を落とさせるか。

 裏拳をはじかれたが、態勢を崩す程の弾かれ方はしなかった。そのまま左手で相手の首めがけて手を伸ばす。が、それは容易く避けられてしまう。

 そこに、腕を伸ばしたその腕の下から、ずっ、と侵入するかの如く伸びてくる銃口。その銃口は確かに龍二の顎を捉えていて――発砲。

 恐ろしく早い発砲。トリガーを引いたのかどうかさえ疑わしい程の判断力、行動力。龍二でなかったら、確実に顔を吹き飛ばされていただろう。

「ッ、」

 直感とも言える判断で顔を引いていた龍二のすぐ目の前を、『二発』の銃弾が通り過ぎた。

 まさかの連続発砲。一発放つのも難しいようなこの一瞬で、相手は早打ちのようなテクニックを見せつけてきたのだ。

 確実に、殺しに来てる。それも、正面からだ。

(こいつ……カメレオンの比じゃねぇ!!)

 カメレオンは無駄とも思える理解も及ばないような下準備をして、理解の出来ない襲撃をしてきた。彼女は自分の実力に絶対的な自身を得ていて、遊ぶような、彼女なりの襲撃をしてきた。だが、今の相手は違う。まずセンスが恐ろしく高い。龍二、神代家の存在がこれだけ目立っていなかったら、確実にそのポジションに立っていただろう、という程の殺し屋としてのセンス。そして、技術を確実に発揮出来るような本番強さ。そして、冷静さ。判断力。

 今までその殺し屋としての実力を誇ってきた龍二だが、今、その実力を揺るがされている。相手は、互角か、それ以上か。

(ナンバーの殺し屋か……!? ナンバーは人数が多い。こんなバケモノが一人いてもおかしくないが……)

 ないが、違う、と龍二は思った。協会に所属をしている殺し屋ではない、率直にそう思った。

 龍二の攻撃は続く。連撃を叩き込み、相手にペースを取らせないようにする連撃だ。だが、どうしてか、相手はそんな隙がないはずの龍二の攻撃の『隙』をついて攻撃を叩き込んでくる。それも、多くは銃での攻撃。龍二も相手の攻撃を避けるが、当たり前の様に間一髪だった。銃弾との距離は紙一重の差だった。

 今まで、こんな相手と戦った事はなかった。

 再度、龍二の拳を避けたと同時の攻撃、相手は攻撃を仕掛けてくる。ほぼ同時だった。攻撃と攻撃のタイミングが重なり始めていた。まだ、相手の速度は上がっていたという事。

 追いつけない。龍二は嫌でもそう感じてしまっていた。

(早めにケリをつけないと……マズイな)

 マズイ、とは思ったが、それは負けるな、という事。相手のセンスは、いや、実力は、龍二を上回っていた。

 ――だが、龍二が上回っているモノもまだ、あった。

 まず第一に地の利だ。こんな珍しい場所に相手が来た事があるものか。それどころか、龍二はここについ最近来たばかりで、相手をここに導いたのも龍二だ。

 そして第二に、実践経験。龍二は殺し屋でありながら神代家という名前が売れてしまっているが故、殺し屋を相手にする事が多い。そのため、ただの殺し屋であるよりも実践経験が――あるはず、なのだが。

(こいつ、対人慣れしてる――)

 相手は実践経験豊富な様だ。

 いや、違う。

 戦っているから気付ける。相手はもしかしたら、殺し屋ではないかもしれない、と。殺し屋だから、と考えていたから今の今まで気づく事が出来なかった。相手はもしかしたら、殺し屋ではなく、戦士なのではないか、と。

 人間を殺すための、人間と戦うための、戦士。

 攻防を続けていると、いずれ相手の手に握られていた銃の銃弾は切れた。すると、相手はあっさりとsの手から銃を捨てて、両方の拳で龍二に立ち向かってくる。

 そこからは、早かった。龍二の攻撃回数は減った。減っている事も自覚していた。このままでは相手にペースを取られてしまう、と焦っていた。

 その焦りを付くように、龍二の足元は掬われた。言葉通りだ。龍二の足に相手の理解を越えた動きからの足払い(フットスウィープ)が的確に叩き込まれる。

 一瞬、宙に浮く龍二の身体。足が地についていなければ態勢を立て直す事も出来やしない。そこに、相手からの攻撃。正拳突きか。真っ直ぐ、銃弾が放たれるのと似たような一撃が、一瞬のみ浮いた龍二の水月を穿つかの如く叩き込まれた。

 漫画のような光景だった。浮いた龍二はその拳の威力に叩かれ、二メートル程吹き飛んで土の地面に落ち、落ちてからもまた、同じだけ転がってやっと静止した。体中土塗れだった。が、気にしている余裕はない。龍二は武器に余裕がない。接近戦で終わらせる事を望んでいた。だが、今、たった今、距離を取られた。

「くそっ!」

 すぐに立ち上がる龍二だが、十二分に出来た隙をこれだけの相手が見逃すはずがなかった。

 表情を上げたと同時、それを待っていたかの如く、銃口が龍二の額にぶつかった。サイレンサー付きの二度目に見る銃だ。相手の手にするその銃が、まさか弾切れなはずはあるまい。

 死んだ。そう、理解した。

 今まで連戦連勝。負けなしどころか重傷になる事もなかった龍二が、初めて体験した感覚だった。全てが終わるその瞬間。

 あれだけの能力がある相手が、引き金を引く事に躊躇いを持つはずがない。龍二を殺すために来たのだ。殺すために、殺す。殺せるとわかったらその瞬間に殺す。




 ――一発の銃声が轟いた。

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