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3.the new arrival and intruder.―15

 だとすれば、『聞いてしまう』のが一番早いだろう。何事にも、分からなければ経験者や知識者に問うのが一番早いのである。

「まぁ、なんだ。またわかったら教えてくれ」

「はいよー」

 と、挨拶を交わした所で春風は再びアトリエの中へと戻ろうとする。が、それを龍二は止めた。

「おい」

「何?」

 突然かけられた声にきょとんと反応する春風。呼び止められた理由は分からないようで、本当に不思議そうにしている。

 龍二は時計を見て、

「もう遅いし、明日にしとけよ」

 自室に戻ってゆっくり休んでな。と語尾に付け加える。

 だが春風は微笑んで、

「いいの。夏休みだから学校もないしさ。遺品の事も私が調べたいから調べてるだけだから。心配しないで。龍二は休んでていいよ」

「…………、」

 龍二は複雑な心境を現すかのような面持ちで腕を組み、頷いたまま押し黙った。言っても春風は休まないだろう。だが、無理もさせたくない。そんな矛盾が龍二の中で暴れていた。

「まぁ、そう言うなら止めないけど……。無理はすんなよ。俺は部屋戻るけど暫くは起きてるから。何かあったら来いよな」

「うん。ありがと。じゃあ、おやすみなさい」

「おう、おやすみ」

 と、そこで二人は別れる。龍二がリビングを出ると同時にアトリエへと通じる床の扉が締まる音が聞こえた。そのまま龍二は階段を上がり、自室へと戻る。二階の廊下にてシオン達の部屋の前を通るが、もう床についたのか明かりもついてないようで、物音一つも聞こえなかった。

 自室へと戻った龍二。

 つい最近壁紙から何から一新したばかりの自室だ。まだ慣れていないのか、龍二はこの部屋に入るたび違和感を感じていた。家具も新しく購入したが、配置は買い換える前のそれと大して変わっていない。

 龍二は勉強机の役を果たす事務机に腰を落ち着かせる。ふぅ、とため息。気疲れだった。昼間日和のいたずらな質問を受けたせいで、春風と目を合わせて平常心を保つのも大変だった。変に意識しているつもりもするつもりもないのだが、そう思えば思うほどはまってしまい、その状況から今もなお抜け出せない状態だった。

 疲れたなぁ、なんて小声で漏らして、背もたれに体重を預ける――と、たった今、窓に手を伸ばしたお隣さんと目があった。軽い会釈をすると、窓が開いて、日和が軽快な身のこなしで龍二の部屋へと飛び込んでくる。

 よっ、と床に静かに着地すると、慣れた手つきで振り返らずに窓を締め、椅子の背もたれに全体重預けてだらけている龍二の顔を上から覗き込んだ。

「何してるの?」

「何も」

 そう言って龍二は倒れそうな態勢から戻る。

「で、何しに来た?」

「何って、いつもどおりですよ」

 そう言って日和は買い換えたばかりの真っ黒なゲーム機を指差す。その横にはBDのソフトも綺麗に並べられている。数は五○程か。その全ても今回新たに買い直し、買い加えたモノである。

 日和の指が差す方向に龍二の視線は流れる。

「あぁ、ゲームね。どうぞどうぞ」

「さんきゅ」

 そう言って日和は龍二の後ろを通ってゲーム機の前まで行き、起動し、適当なソフトを選んで本体へと投入した。日和が選んだのは今回の買い加えで新たに買ってきたゲームで、可愛い女のキャラクターが音楽に合わせて踊り、その音楽を上手く操作していくという、いわゆる音ゲーという奴だった。

 ゲームをしながら、日和は不意に呟く。

「龍二にしちゃ珍しいね。こういうゲーム」

「そうだな。普段はアクションばっかりだし」

「私もこれやりたかったから嬉しいけどね」

 自分で買えよ、と龍二は言わない。日和自身買う気も金もあるが、敢えて買っていない。二人は口にはしないが、この時間を、二人共、長く続けて来た事で気に入り、日常と化している。今更やめるのは抵抗があるくらいだった。

 一プレイ目を終わらせた所で、日和は椅子の上でただ眠そうにぼうっとしていた龍二に問う。

「眠い?」

「いや。ただ、待機中っていうか……特に何もする事ねぇ状態だから、ぼーっとしちゃってさ」

「そう。……でさ、」

「ん?」

 急に、日和の声色が変わった。当然そこには龍二も気づくが、大した事ではないだろう、と普段どおりの反応で返す。

 日和はゲームをしながら、答える。

「ずっと気になってたんだけど……、シオンさんって本当に日本人?」

「…………、」

 ほら、大した事なかった。と龍二は心中で嘆息した。が、言われて見て気付いた。見た目だけは確かに日本人にも見えるが、外国人にも見える。ハーフやクウォーターと言われても謙遜ない程綺麗な顔立ちで、整い過ぎている。そして詮索はしない、と本名も知らない。そもそも龍二は、シオンという名前が仕事上の名だと確信すら持っていなかった。気にしない性格が故の事で、特別問題もないだろうが、いざ言われたら龍二も気になってしまった。

「知らないな……、明日聞いてみるわ」

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