3.the new arrival and intruder.―13
見ると不満げにむくれる日和の姿。腕を組んでそっぽを向いて、となんともあざとい、わざとらしい起こり方だった。対して龍二は笑いながら、
「いい意味で言ってんだよ。俺は皆に日和くらい打ち解けてもらいたいってんだ」
と、視線を春風へと流した。その意味深な視線を真正面から受け止めた春風は微笑ましげに苦笑しながら、そうだね、とこれまた意味深な返事で返した。
暫くして、五人は出かける準備へと入る。今、二階の空いた二部屋はシオンとミク、そして春風の部屋としている。ちなみにだが龍二の部屋は既に修復済みだ。めんどくさがりの龍二に変わって春風が業者を調べて依頼を発注した。業者の仕事は早く、龍二の財政力もあって龍二の部屋はあっという間に元通りだ。ゲームのデータ以外は、だが。
それぞれが着替え、準備を終えると全員が外に出た。一応に辺りを警戒するが、嫌な気配はない。安心はできないが通常通りに出かける事は出来るだろう。
今回はタクシーは呼ばず、五人で歩いて進む。今回の目的は衣類と食材、日常品だ。いつもの商店街でも十分に目的を達成する事が出来るだろう。
五人が歩いていると妙な光景になっていた。男一人の逆紅一点という事もそうだが、小さな女の子に高校生程度の男一人と女三人。その光景もまた異常だった。が、珍しいだけであって珍妙ではないだろう。見ればシオンとミクは親子や姉妹に見えなくもない。知り合い同士で形勢されたグループだとでも思われるだろう。
シオンとミク以外の人間からすれば通学路だ。気づけばあっという間に商店街へと到着。夏休みだという事で普段以上の人混みが出来ていた。喧騒が個々に浮き上がっているような、適度な人混みである。人混みが苦手な龍二からすればあまり良い光景ではないが、夏休みという名目がそれを当然としているため、龍二も文句も垂れず――、
「うわ、だるいな」
文句は、吐き出した。
「ほんと、龍二は人混み嫌いだね」
くすくすとおかしそうに笑いながら春風が言う。
「ホントに変な人だよね、龍二って」
ミクがそんな事をボソリと呟くものだから、龍二と日和は驚愕して目を見開いた。
五人は適当に進む。昼を過ぎているがまだ食事を取る気分ではなかった。とにもかくにも買い物が先だ、と五人はまず、ブティックへと向かった。食材は当然後だ。
「うわ、入りづら」
ブティックの目の前へと着くと龍二はあからさまに嫌そうな声色で漏らした。女性向けのブティックだ。男の龍二はその存在を知らなかった程に興味がなく、寄り付く事もない。いざ入ろうとなると、その必要性のなさから思わず躊躇してしまう。
そんな事は龍二が不満げに漏らさなくても女性陣一同はわかっていて、
「じゃあ私と龍二は食材買いに行こうか。手分けした方が楽だろうし」
春風が率先してそんな事を提案してくれる。
「あぁ、そうするか」
龍二も乗り気で、そう決まる。
シオン、ミク、日和はそのままブティックへと入っていった。金は日和に預けてある。そして龍二達は珍しく二人で少し大きな、様々な食材がうっているスーパーへと向かった。
「今更だけどさ、ありがとね」
歩きながら、不意に春風はそんな事を呟く様に言った。突然のその言葉に龍二は眉を顰める。
「そういうのはなしだろ。言わなくてもさ」
「ううん。そうやって聞いてくれないから、さ。言っときたいの」
「…………、」
「それに、二人っきりになってこうやって外を歩く機会なんて最近なかったし」
「そりゃあ、そうだな。家で二人になる事は少しだけどあったが」
「家にいてもお互いアトリエにいたり自室にいたりで忙しかったりするしね」
「そうだな」
当たり前のようで、珍しい雰囲気、光景だった。龍二がウルフから春風を引き抜いてから一ヶ月と少し。共に生活をし、学校生活をし、と一ヶ月程度の期間でも一緒にいた時間は長い。
春風の作った御飯を何度食べたかも覚えていない。
正直な所、もう遺品云々で彼女を縛っているのは嫌だった。だから、龍二は言う。
「つーか、さ。もうお前は責任だの恩だの感じなくていいのよ。遺品の事はついででいいんだよ。仕事、って考えてくれ。お前はもう家族みたいなモンだしさ。遺品の事を終わらせるまではーって気にするのはもういいんだ。俺はお前の飯食ってるだけで満たされてるし、幸せだし」
と、龍二がそんな事をすんなりと言ってしまうモノだから、
「……え、」
ぽかんと間抜けに口を開き、目を見開き、頬を朱色に染めて固まってしまう春風。白い肌のせいかその頬の色はやたらと目立って見えた。
龍二からすれば今の春風は急に足を止めた状態。なんだよ、と振り返る龍二の表情は面倒そうで、眉を顰めていて固い。自分が吐いた言葉に大した意味を込めたつもりはないらしい。
だが、年頃の女子、春風からすれば大いに意味のある言葉だった。
「あ、あはは……。そんな事言われたら照れちゃうなぁ……」
「本当の事だっての。お前の飯なり菓子なり、本当にうまいし。飲み物も」
「そういう事ばっかり言って! 惚れるぞ!」
大慌てでそんな事を大音声で言うモノだから、周囲の視線が一瞬にして二人に集まった。
「お、おい。何でかい声出してんだよ!?」
流石の龍二も今の状況には焦り出したようで、あたふたとしながら春風に言う。
「ご、ごめん……」
視線を集めたのも一瞬。あっという間に視線はまたそれぞれの向かう方へと散ってゆく。
少しだけ気まずい中、なんとか会話を成り立たせながら二人はスーパーへと向かった。そして数分もしないうちに二人は目的のスーパーへと到着した。
この商店街の中では一番に大きなスーパーだ。このスーパーが出来たせいで暖簾を下ろした店も少なくはないが、それだけ便利な場所だという事だ。春風の今回の目的であるお菓子の素材もコーナーがあり、商品数も多い。
二人は足を進める。入口でカートと籠を取り、龍二がそれを押しながら進む。




