3.the new arrival and intruder.―12
いくら長い夏休みだと言っても時間は限られている。龍二はそういう類のことは気にしない
タイプの人間だが、それを良しとしない人間もまたいるのだ。
「せっかくだし何かしよう」
そういうのは当然日和。
「お前いつもそれ言ってるよな」
と返すのは当然龍二。
「だって最後の夏休みだよ? 今のウチに出来ることをしておきたいじゃん」
「そうだな……」
龍二は助けを求める様に視線をさまよわせて――ミクへと向けた。突然のアイコンタクトにキョトンとするミク。ミクもまた助けを求める様に視線をシオンへと振った。
「そうだね。ミクはなにかしたいことある?」
シオンは察したようでミクにそう振る。
ミクを連れ出した立場ということもあってか、シオンは彼女の保護者のような立場に立っていた。当然龍二達とも仲良く過ごしてはいるが、ミクの中ではシオンのことを特別視しているようだった。彼女には身寄りもないようだ。もしかしたらシオンのことを母親か姉と、身内の様に見ているのかもしれない。
「特にないよ? ゆっくりしてるのも好き」
ミクは特別感情も込めずにそう言った。年に似合わない気遣いはしていないと見える。
らしいよ、とシオンが苦笑しながら付け加える。すると、龍二と日和が互いを見合った。どうする? と言った感じで二人は黙ったまますぐに食事に戻った。ミクがそういうなら、といった感じだろうか。
「まぁ、ゆっくりしてるのがイイって。俺、そんなやる気に満ちあふれた人間じゃないし」
龍二は咀嚼しながらそんな事を呟くように言う。それに反応したのは春風だった。
「アハハ。龍二らしいかも。でも今のうちにやらなきゃいけない事もあるし、私は昼には出かけるね」
「何処に行くんだ?」
何の他意もなく龍二が疑問を吐く。
「前原君達くるんでしょ? 今のうちにイロイロ『作っておこうと思って』」
どうやら春風はそのパーティとやらのためにお菓子なり何なりの準備をしておくつもりらしい。平が喜ぶな、と龍二は心中で吐いて、
「じゃあ俺も付いてくわ。皆はどうする?」
一応ながら、シオン達の安全が確保されたわけではない。だから、龍二は問うた。龍二もこの場を離れるとなれば、シオン達にはこの家で大人しくしていてもらわなければならない。
「ミクは行きたい?」
シオンが聞くと、ミクは数秒の間を開けてから頷いた。
「じゃあ私も」
「私も」
シオンに続いて日和も頷いた。
「じゃあ飯くってゆっくりして、昼には行こうか」
龍二の提案に全員が頷いた。
十分もかからないうちに全員の食事が終わった。が、それぞれがなにかをするわけでもなく(日和とシオン、春風は片付けをしているが)いつもどおりの光景が流れていた。
龍二とミクはソファーに腰を落ち着かせ、テレビを見ていた。テレビの横の庭に繋がる大きな窓から差し込む朝の日が眩しくてテレビが見づらくなるため、カーテンはしめていた。
テレビには朝の安いバラエティ番組が映し出されている。最近出てきたばかりの芸人がアナウンサーと談笑している。時折なにかしらのコーナーをして、どこか遠くを映し出している。芸人がゲストと歩き回り、飲食店に入っての繰り返しのコーナーである。
「これ見てて楽しいか?」
と、龍二はミクに気を使って問う。画面を指差すが、龍二の視線はテレビ画面から外れてはいない。龍二なりの気使いだった。ミクぐらいの年頃の女の子が何を楽しいと思えるのか、龍二が分かるはずもないが、分からないなりに気を使ったのだ。
するとミクは黙ったまま、一度隣の龍二を見上げ、すぐにテレビ画面へと視線を戻して答える。
「分からない」
その素直すぎる言葉に龍二は一度ミクに視線を下ろした。どういう意味が込められた『分からない』なのか。考えるが、龍二こそわからなかった。そのため龍二は視線をテレビ画面へと戻して、
「どうする?」
「見てよう」
「じゃあ見てよう」
その番組を見続ける事にした。
芸人がカツ丼を食べている。妙に量の多いカツ丼だった。くらっている芸人もそれなりの体型をしているし、そういう番組なのかもしれない。
「うまそうだな」
「朝御飯食べたばっかりだよね?」
「そうだなぁ」
「でも美味しそう」
「そうだな」
「あんたらなんか面白いわね」
ミクと龍二の会話に片付けを終えた日和が突っ込む。シオンも春風も終えたようで、続々と集まってくる。が、ソファーに五人は座れないため、春風と日和は慣れた様に食卓のテーブルセットへと腰を落ち着かせ、シオンがミクの隣に来る。龍二とシオンに挟まれたミク。妙な光景だった。
ふと、龍二が思い出した様に言い出した。
「そうだ。ミクとシオンの日用品もついでだし買おう。春風と日和に見てもらってさ」
日和にもミクとシオンは暫く龍二の家に住む、という話はしてある。
春風も日和もそうだね、と快く頷いた。だが、シオンもミクも少し困惑したような表情をしている。ミクの分まで代表して、シオンが申し訳なさそうに問う。
「いいんですか?」
「当然」
龍二が今更断ったり、金についてどうこう言うはずがなかった。そういう面では春風も同様だ。春風もシオンの気持ちを察して何か意味ありげに頷いていた。龍二はそこが緩いんだよね、とでも言わんばかりの頷きっぷりだった。
「つーか春風もだけど気にしすぎなんだよ。日和くらい図々しくていいんだぞ?」
「どういう意味よそれ?」




