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3.the new arrival and intruder.―5


 龍二の警戒度が一瞬にして高まった。今までの経験から、変な事を突如として口走る人間程ろくな人間でないと知っているからだ。それに、この前のカメレオンの一件もある。油断は命取りだ。完全に殺し屋として身を隠して生きている殺し屋ならまだ人と触れ合う事も最低限にしてまだマシだろうが、龍二は一般社会にもその身を置いている殺し屋だ。本来ならば好ましくない立ち位置だが、本人が望んでいるのだからしょうがない。

「……何を?」

 龍二は威嚇の意味を込めて目を細めて睨みながら女に訊いた。その際少女には視線をやらなかったのは龍二なりの僅かな優しさかもしれない。

「私達を、です」

 女は強く頷きながら答えた。

「質問を変えよう。何から、だ」

 龍二は僅かに焦っていた。家の中には日和もいる。春風が制してくれてはいるが、いつ何があって出てきてしまうかも分からない。それに、今から龍二と春風、日和とで出かけるところだ。それがこの目の前の怪しさ万点の人物に注視にさせられてしまうのではないか、という焦りもあった。学生らしい焦燥だ。

「ナンバーから」

「ナンバー?」

 女の口から漏れた聞きなれない言葉に龍二は首を傾げ、更に訝り、女に向ける視線を怪訝なモノにした。

 そんな龍二に、女はすぐに答えて返す。

「協会所属の殺し屋団体」

「…………、」

 龍二は銃を握る手に力を込めた。すぐに銃口を突きつけなかったのは、少女がいる事、そして、相手が動かないがためだ。

 女はその口から殺しの世界を吐き出しながらも攻撃の色を全く見せない。それどころか、殺してくれと言わんばかりに隙だらけだ。だから、龍二はまだ動かない。相手が動きを見せてからでも対処が出来ると踏んだからだ。

「そっちの女の子は?」

 龍二は敢えて話を進めた。攻撃がない、という事は何らかの裏の意図か、それなりの何かがあるはずだ。何を企んでいるのかはまだ分からない。だが、それを詮索する権利くらいはあるはずだ。

「名前は分からない。でも、この子が追われてる理由」

 女の声に導かれる様に龍二の視線が少女に降りる。白という印象が強い黒髪の女の子。歳は一○代前半くらいだろうか。小学生高学年と見えた。少女は視線こそ動かして龍二と重ねたりするが、声は発さない。喋る気がないのか、怯えているのか、喋る事ができないのか。

 何にしても、不思議だった。視線を重ねれば吸い込まれてしまうかと思う程の目力と雰囲気があった。それに、初めて会ったとは思えないような親近感も感じた。妹のような年齢と守りたくもなる薄弱さが感じ取れるからだろうか。

「……はぁ」

 嘆息。龍二は気になってしまった。

 少し待っていろと二人に言い、龍二は扉を一度閉めてリビングへと戻る。どうだったの、と春風と日和が僅かに期待の目を開いて龍二を迎えた。そんな二人に龍二は財布か十数万円を取り出して日和へと渡して、「これで足りるだろ。悪いけど俺は行けなくなった。似合うのを選んでやってくれよ」そう言って、そそくさと玄関へと戻っていった。そんな龍二に不満をぶつける日和だったが、龍二は無視して玄関へと戻ってしまった。

 何かあったんだ、と不安げな瞳で春風は出て行った龍二の背中を見送ったが、助けを求められないという事は、無理についていっても邪魔になるかな、と頭を振って、日和を連れて外に出る事を急いだ。

「待たせたな。上がってくれ。二人とも、だ」

 玄関へと戻った龍二は女と少女を自宅へと上げた。リビングにはまだ日和と春風がいる。存在を知られて質問攻めにあうのは面倒だ、と龍二は一度二人を二階へと上げた。が、自分の部屋はカメレオンとの戦いの際の手榴弾の爆発のせいで滅茶苦茶だ。人を接待出来るような場所ではない。二階にある残りの二部屋も入れない事はないだろうが、質素で椅子もない。どうするか、と龍二が考え始めたその時、一階から玄関が締まる音がした。春風達が出て行った音だろう。

 龍二と女と少女はリビングへと降りる。そして、いつものテーブルセットで三人は落ち着いた。席は当然、龍二の前に女、その隣に少女である。

 龍二が適当に用意した冷たい飲み物が目の前にあるが、女も少女も手をつけようとはしなかった。

「で、何がどうなって、俺のところに来ようと思ったのか、訊かせてもらおうか……」

 早速、と龍二が切り出した。すると女が頷き、顔を隠していたモノを全て取り払った。信頼をわずかでも得るためだろう。そうして露わになった女の顔。毛先が尖った黒のショートカット、小さな顔だった。目は大きく、目尻が鋭く、お姉さん、な雰囲気を醸し出す顔だったが、どこか弱さが見え隠れしていた。身長もそう高くはないため、龍二から見れば友達の姉、のようだった。

「まず、私はシオンっていいます」

 と、女――シオンは名乗ってから、今までにあった事を話始めた。推測の混じった話で十数分程はその話に費やされた。

「なるほどね……」

 話を訊いた龍二は腕を組んで難しそうに唸った。

「その声の主が気になるが……、まぁ、なんだ。仕事の依頼って事でいいんだな?」

 龍二は顔を上げ、視線を確かにシオンへと向けてそう言った。するとシオンは一瞬困惑したような表情を見せたが、すぐに頷いて返した。仕事の依頼、という考えがなかったのだ。だが、すぐにそうだと気付いて頷いた。

「そう。私達を殺し屋の手から守ってほしい」

「護衛って、警備員の仕事だろ」不満げにそう言うが、「まぁ、いいけどな」とすぐに龍二は笑って返した。そして、仕事話をする。

「報酬は? 仕事なら当然もらうぞ」

 龍二のその言葉にシオンは押し黙り、一瞬沈黙を流す。仕事、という概念で先ほどまで考えていなかったのだ。報酬、といわれてすぐに答えが出てこないのも当然だろう。だが、仕事に報酬はつきものだ。シオンは必死に考えてすぐに言葉にする。

「依頼料を聞きたいかな」

「金は余る程あるっての」

「……欲しい物でもあるんですか?」

「特にねぇよ」

「…………、」

 龍二のわがままで意地悪な返しにシオンは再度押し黙った。そして、また必死に頭を回転させて龍二の望む答えを探し出すが、見つかるはずもなかった。殺し屋とて職業だ。仕事をこなして金を手に入れるという一連の流れがある。金がいらないとなると、何を望むのか当人の希望が聞けなければ仕方がない。

 必死に頭を回転させているシオンに意地悪な笑みを浮かべながら、龍二が先に口を開いた。

「意地悪を言って悪かったな。だが、本当に金はいらない。代わりに……」

「代わりに?」

「シオンはナンバーの殺し屋だったんだろ? 俺の仲間になれ」

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