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2.get back the taste.―22

 カメレオンの膝蹴りが龍二の腹の止血剤で塞がれた風穴に叩き込まれる。短い悲鳴が龍二の口から漏れ、龍二の全身の力が一瞬抜ける。その瞬間を狙ってカメレオンは龍二を一瞬手放し、右の拳を彼の左頬に叩き込む。

「ぐうっ、」

 龍二はダイレクトにその攻撃を受け、顔を吹き飛ばされたあの様な感覚に陥り、僅かによろめいた。すぐに態勢を立て直そうとするが、カメレオンの左拳が龍二の右頬に叩き込まれ、龍二は再びよろめいた。

 カメレオンのラッシュに龍二は対応しきれなかった。傷跡がズキズキと痛み、龍二の体を支配し、意識を飛ばそうとしていた。だが、龍二もまだ諦めるわけにはいかない。幸いながら致命傷はない。早いうちに、形勢を立て直さなければならない。

 そして龍二はやっと、立て直す。続いて入ってきたカメレオンの拳を腕をふるって弾いた。パリィされたカメレオンは僅かに後ろによろける。その間に龍二は自身を奮い立たせ、意識を明瞭なモノへと変換させる。

 そのまま、龍二はカメレオンに飛び込んだ。カメレオンがそうした様に、だ。

 即座に態勢を立て直していたカメレオンは龍二を受け止めるが、無我夢中で飛び込んできた龍二の勢いを殺しきれなかった。

 先ほどとは全く逆の立場。龍二がカメレオンの上に馬乗りになり、一瞬だけだが時間が止まった。

 が、そんな一瞬は一瞬よりも早く過ぎ去る。

 龍二は無言のまま、カメレオンを見下ろした。怒りに満ち溢れ、だが、その裏に恐怖が僅かに残された表情を見て取れた。

 甘い。龍二は無機質な表情の下にその感情を隠した。殺し屋が恐怖等感じて仕事になるはずがあるモノか、と吐き出してやるように――龍二は右手をカメレオンの細い首元に伸ばした。

「ぐぁ、」

 龍二の右手が彼女の首を鷲掴みにする。カメレオンの表情が一瞬にして裏と表と入れ替わった瞬間だった。

 恐ろしい程の力だった。本当に目の前の彼は人間なのかと疑う様な握力がカメレオンの首をへし折ろうとまでしていた。当然カメレオンは両手で首に伸ばされた龍二の右手を引き剥がそうと抵抗する。だが、龍二の腕は両手でかかっても、全く微動だにせず、カメレオンの首を絞め続けたのだ。

「ぐっ、あぁあああああああああ……」

 カメレオンはもがく。もがいて、あがいて、苦しんで、だが、まだ負けるわけにはいかないと抵抗する。

 見上げれば、悪魔かと疑う様な、龍二の無機質すぎて恐ろしい表情が見えた。これ以上は、その表情を見たくないとカメレオンは直感で思った。そして僅かに視線を下げると、服の上からでも開いた風穴から見える止血剤を塗った跡を発見する。

 呼吸は封じられ、長くは持たないとカメレオンだって気づいている。だから、この状況から即座に脱出しなければならないという事もわかっていた。だから、右手は龍二の右手に抵抗したまま、左手を彼の傷跡に伸ばそうとした。だが、それは、龍二の左手に手首を掴まれ、阻まれてしまった。

「がっ、はっ……。あぁ、ああああああ……あぁあああああ、」

 カメレオンの薄い唇と唇の隙間から毒々しい吐息が漏れる。もうそろそろ、限界だという事だろう。だが、龍二は手を緩める事はなかった。彼女の伸ばした左手すら、自身の左手で思いっきり、引きちぎるかの如く引っ張る。引っ張る事自体に大したダメージはないが、その御蔭でカメレオンはより動きづらい態勢となったのだった。龍二がカメレオンを絞殺すると決めている証拠だった。このまま身動き一つ取らせず、そのまま呼吸を絶って殺すという事だった。

 数秒も過ぎなかったかもしれない。いや、もしかしたら数十秒、数分と過ぎ去ったかもしれない。カメレオンが動かなくなったのは、そんな気づいたら、な時だった。ぐったりと彼女の全身から完全に力が抜け、だらりと抵抗を失って落ちた。死んだふりなんて陳腐なモノではなかった。死んだふりならば龍二は気づく。いくら相手がカメレオンであろうが、死んでいなければ見て取れないモノもある。

 完全に力を失ったカメレオンの体から離れて立ち上がる龍二。まだ、表情は固い。が、思考は柔らかい。龍二はそのままカメレオンの死体を超えて唯一外の世界とつながっている窓の前まで行き、それを締めてカーテンまで閉めて完全に外の世界とこの部屋とを遮断した。そして、倒れたカメレオンのすぐ側で転がっていた自身の拳銃を拾い上げ、その銃口をカメレオンの額へと落として、

「よくやってくれたモンだ」

 一発の銃声が、室内に轟いた。

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