7.epilogue――お嬢様と執事様――
7.epilogue――お嬢様と執事様――
有り得ない光景を目の当たりにした。ディエナは自然と動きを止めてしまっていた。目を見開き、その光景を脳で認識する事が精一杯だった。嘘でしょ? と意図の外で漏らしていた。それほど、理解しがたい光景だった。
帰化細菌のパンデミックが起こってから、ディエナが南條と出会ってからもそれなりの時間が経過していた。ディエナは感染した南條の強さを知っている。どうしてか完全適合者なんてモノになってしまった南條が帰化細菌の力を使って戦う戦闘を今まで見てきた。時には共闘した。故に、一番に知っている。南條の力は、順位保持者に匹敵する程のモノであると。
だが、その事実を覆される光景が、ディエナの視線の先にあった。
冷静でいつつも、帰化細菌の力をフルに行使し、一切手を抜いていないその南條が、まだ十代程度の、少年に容易くいなされていた。
「来人!?」
南條が背負投の様な投げ技で投げられ、背中から地に落ちると、やっとディエナの声が発せられた。悲鳴に近い甲高い声だった。
「来るな!」
南條が飛び退くようにして態勢を立て直すと、同時、叫んだ。やっと動けるようになったディエナの足はまた、止まった。
南條はその驚異的身体能力を駆使し、俊敏な動きで相手のその男から距離を取った。相手と距離を取ったが、南條の表情は苦しげである。冷や汗が顔ににじみ出ていた。
南條は数メートル先に立つ少年に問う。
「お前……感染してねぇな?」
少年は、頷いた。
「あぁ、そうだ。俺は感染してねぇよ。幸いにもこの連中のそれは空気感染しねぇみたいだからな。血を口にいれねぇようにさえ気をつけとけばなんて事はないだろ」
少年は鼻で笑って南條を見た。その後、一度だけ離れた場所に立つ銃を持つが銃口を持ち上げないディエナを一瞥したが、すぐに南條に視線を戻した。そして、呟く様に、薄く口を開いて問い返す。
「アンタ……は、感染してるな。が、どうしてか『連中』のようにはならない。なんだぁ、その『左腕』?」
少年は南條の左腕に視線を落として問うた。が、南條は取り合わないで、問い返す。
「俺の状態よりも、生身で、感染者でもなくて、俺をここまでコケにするってお前の方が珍しいってんだ。――名前は?」
南條は少年に興味を持った。何も南條は帰化細菌の力だけでここまで生き残ってきたわけではない。コスタスの下で戦闘訓練をも積んで、実力も上げて、ここまで生き残ってきた。
常人にはない戦闘能力がある。だが、少年はそれを超えている。
南條の問いに少年は再度、鼻で笑ってから、答えた。
「神代龍二だ。で、アンタは?」
あとがきは更新報告にて




