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6.the battle of glory/killer cell project―19


 浩二は荒木を座らせて、すぐに立ち上がった。が、その背後に、影。この部屋で、今動けるのは浩二だけだったはずだが。

 戦慄した。思わず唖然と立ちすくんでしまう所だった。だが、体が反射的に動いて、振り返っていた。そこには当然、グローリーのその姿。だが、今までと何処か違う。瞳はぎこちない機械の如く振動しているし、口は開きっぱなしで、涎を落としている。見れば、確かに銃痕がある。浩二も確かに打ち抜いた記憶を持っている。

 常人なら致命傷どころか、既に死んでいなければおかしい状態だ。だが、目の前のそれは常人ではない。

「ッ!!」

 動きが、一瞬だけ、見えた気がした。

 が、次の瞬間には、衝撃。列車に正面から衝突されたかの様な、恐ろしすぎる、だが、畏怖する暇もない程の速さで、浩二の腹部に衝撃、打撃。

 拳だ。ただの、拳。だが、放つ相手がただ者ではない。

 浩二の体が浮き上がり、吹き飛び、荒木の頭上の、一メートルもない壁にその身を叩きつけられた。背中に恐ろしい衝撃が走る。

 浩二の体がどれだけの耐久力を持っているかはわからないが、壁のコンクリートが破片となって飛び散り、浩二が衝突した地点が隕石の落下地点の様に派手に穿たれているその光景を見れば、浩二もただでは済んでいない事はわかった。

 浩二は余りの衝撃で壁でバウンドし、壁に持たれる荒木の死体に触れる事なく、その僅かに前に、落ちた。が、浩二はなんとか踏ん張って、膝をついた形での着地に成功する。すぐに態勢を立て直そうとする意思だ。

 だが、相手はやはり化物。

 着地したその瞬間に、浩二の横っ腹に、グローリーの空間そのものを吹き飛ばすかと思える程の強力な、回し蹴りが到達した。

 浩二の防御は間に合わない。いや、仮に間に合ったとしても、無駄だっただろう。

 浩二の口から、鮮血が吹き出す。漏れる、なんて生易しい者ではなかった。吹き出した。内蔵を圧迫され、体の中に収まりきらなくなった血が無理矢理に押し出された状態だった。

 浩二の体が、ワイヤーアクションで強引に横に引っ張られる様にして、真横に跳んだ。そして、何メートルも離れた壁に衝突するまで、止まりもしなかったし、床に触れる事もなかった。

 浩二が小さく呻いて、床に俯せに落ちて、口から未だ流れる血が床に落ちてもまだ、グローリーは視線しか動かしていなかった。

 今の二撃。それだけで、追撃は必要ないと思ったのか、それとも、今、勝ちを確信したのか、それとも、殺したと思ったのか。とにかく、グローリーは視線で跳ぶ浩二を追うだけだった。

 浩二はついに、うつ伏せに落ちた。今度は立ち上がるまでに、時間を要した。

 どこが痛むのかも分からなかった。

 銃すらきかない。ナイフ等の近接武器も当たらない。攻撃を当てるチャンスはわかっている。だが、そのチャンスも滅多に来やしない。仲間はいない。

 今までにない、窮地だった。

 殺し屋であるが故、死を常に身近に置いてきた彼だが、今までで一番、死を身近に感じていた。

 どうする。どうすれば、攻撃を当て、殺せるのか。

 攻撃を当てる事は不可能ではない。現に当てた。数回当てた。弾丸を打ち込む事も出来た。だが、死なない。死ななかった。死んでいるはずなのに、しななかった。どうすれば、殺せるのか。

 が、それまでも後回しにしなければならない状況。相手の攻撃の手はやんでも、通常の戦いの中で見れば、一瞬。

 起き上がろうと手を床に突いて、血とカーペットの感触を確かめた瞬間だった。

 床から、棘が一本だけ、出現した。その棘は、床に着いた右の掌、甲を貫いて、そびえ立った。

「ッ、ぐ、ぁああああ!!」

 激痛が走った。気づけば、棘は消えていて、右手の甲に風穴が空いていた。

 血が吹き出していた。感触は確かめるまでもなく、嫌でも感じる事になった。

 最早、立ち上がる力はなかった。

 浩二のすぐ目の前に、グローリーが出現した。瞬間移動ではなく、恐ろしい速度だが、確かに移動したという証拠の様に、この完全密室の中で、風がそよいだ。

 浩二が顔を上げると、白目を向いたグローリーの不気味な表情を見つけた。

 意識はないのか、ここにきてやっとそう思った。

 グローリーの視線は、確かに眼下の浩二を捉えた。

 浩二でさえ、最早ここまでか、と思った。

 死を覚悟した。止められなかったと悔やんだ。

 

 が、終わらない。


 衝撃音。何かが吹き飛んだと理解するにはワンテンポ遅れた。

 次の瞬間には、視界の左から、何か巨大な物体がものすごい速度で回転しながら飛んで来て、浩二の目の前のグローリーをさらって壁に突き刺さっていた。

 その何かが、この部屋に入る際に手を掛けた扉だったと気付くには、更に時間を要した。

 コンクリート片、鉄片が散らばり、宙を舞い、落ちていた。

 浩二は、それらを確認すると、扉に巻き込まれ、吹き飛んで壁に、扉の角に腹部を貫かれ、壁に突き刺さっているグローリーよりも前に、吹き飛ばされた扉の方を見た。

 そこには、見覚えのある、大変心強い三人の影があった。

 中心に立つその人物が、まず、目に入った。

「龍二……」

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