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6.the battle of glory/killer cell project―15


 異質な、明るすぎる空間はまだ続いた。先程の施設と同じような光景が続いていた。協会本部に近い施設だとは思っていたが、もしかすると別の設備を備えた同じ本部だったのかもしれない。

 龍二達は再度、龍二の頭の中の地図を辿って、進む。

 が、先程の施設とは全然違う光景が広がり始め、龍二達はどうして、先程まで自分達の元に敵が来なかったのか、という理由に気づく事になった。

 白を上塗りする、どす黒い血の跡。それも、一斗缶のペンキを何個も何個もぶちまけたかの様な、大量の血。そして、死体。数は異常。足の踏み場も探さなければいけない程に転がっていた。

「龍二、これって……」

 春風の言葉に龍二はあぁ、と頷いた。

 血を見る。暫く時間が経過している事が色から分かった。そして、その死体の全てが、浩二、美羽のクローンである事は一見するだけで分かった。むしろ、視界の隅に置いておくだけでも分かったかもしれない。年齢は様々だが、顔は似たりよったりのモノばかりで、不気味だった。

「これだけの数のクローンを相手出来る人間が侵入している……?」

 シオンが首を傾げ、顎に手を置いて呟いた。その言葉が既に、答えを表していた。

「そんな事出来るのは世界中の現存してる人間全員把握してても一人しかいねぇって言えるだろ」

「そうだね。浩二さんしかいない」

 浩二の形跡。理由を知る必要はない。それに、浩二が協会を恨む理由はある。知っている。偶然重なったタイミング。龍二は好機だと思う他なかった。

「親父がいるってのは心強い。チャンスだ。それに敵が出てこないってなら尚更だろ。サクサク進んでとっととグローリーを打倒して終わりにしよう」

 とんだ夏休みだった、と呟いて、龍二は周りの光景を無視して、足元の死体も然程気にせずに突き進み始めた。

(親父が通ったって事は、その道には死体が転がってるはずだ。それに、トラップなんかも発動してるはずだ。親父の痕跡を辿れば、すぐにグローリーの下へと到達するな)

 龍二の右腕に力が入った。





 いかにも、な扉が浩二達の目の前にそびえていた。巨大で、高さは二五○センチはあろうかという両開きの扉で、金の縁取りと赤の扉の色が、この先に偉い人間がいます、と主張しているかの様な、そんな扉だった。

 浩二はその扉を見る。全体を、見える範囲を全て見る。罠がないか調べているのだ。

 その隣で、荒木は、呼吸を落ち着かせようと膝に手を付いていた。当然だ。ここに辿り着くまでに一○○○近い数のクローンを相手にしてきた。体力を失い、呼吸を乱すくらいは当然の事で、むしろこの場合は、顔色一つ変えない浩二の方が異常だと言える。実際、ここまでで殺してきたクローンの割合は、浩二の方が荒木を上回る。だというのに、この差がある。これが、神代家の実力なのか。

「どうだ?」

 呼吸を落ち着かせた荒木が問う。

「問題なさそうだな。恐らくこの先が最後だろ。歓迎の姿勢とは嬉しいねぇ」

 浩二は頷いてそう返した。そして、僅かに口角を釣り上げて笑んだ。

 そして、浩二が先導して扉のドアノブに手を掛ける。ゆっくりと扉が開かれ、そしてついに、その先の、光景が、見えてくる。

 広い部屋だった。それに、ここは地下だというのに窓があり、外の光景が見えた。床一面は真っ赤なカーペットが敷かれていて、壁際には様々な、高そうなオブジェクトを飾る棚が置かれていた。部屋の中央よりも僅かに奥に、高そうなデスクと、巨大な椅子が存在した。椅子は後ろを向いていたが、そこに誰かが座っている事は確かだった。漫画や映画で見るような、現実では有り得ない程度の社長室といった印象を持った。

 浩二達が数歩進んで部屋へ入ると、空気が重々しいそれと変わると同時、背後で扉が勝手にしまった。荒木が念のための退路として開けておいたのだが、それは許されないようだ。

 浩二は更に数歩進んで、立ち止まった。広い室内だ。それだけ進んでもまだ、部屋の中央の半分に到達しなかった。

「神代浩二のその姿を拝むのも久方ぶりだな」

 椅子の向こうから、声がした。同時、椅子がくるりと回転し、椅子に深く腰掛けていたその人物の姿が二人の前で顕になった。

 グローリー・リッカ。

 男だ。掘りの深さから外国人か、その血を持った人種だと思えた。短く、逆だったブロンドの髪がなおのことそれを印象づけるが、吐き出す言葉は流暢な日本語で、日本人だと言われても違和感がない。

「久しぶりだな。糞野郎」

 浩二が演技めいた口調で吐き出した。

 その言葉を受けたグローリーはふんと鼻で笑い飛ばし、椅子からゆっくりと立ち上がり、デスクの横に来た。

「荒木もか。裏切るとはな」

「協会にはもう、所属してない。転職だ」

「言っておけ」

 荒木に冷たい言葉を吐き出したグローリーは、浩二へと視線を移す。

「来る事は分かっていた」

「だろうな」

「手を打ってないと思うか?」

「思わないはずがないだろ」

 その浩二の言葉に、グローリーは僅かに口角を釣り上げて笑んだ。そして、両手を演技めいた仕草で広げて、言う。

「この広い部屋。ただ広いわけではない」

 その瞬間だった。

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