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6.the battle of glory/killer cell project―13


「この数のクローンか」

 浩二が呆れた様にそう言うと、ついに、ルキアが右手を振り下ろした。素早い判断だった。もう少し、浩二から見た悪役らしい、台詞を吐き出してもいいのではとも思えた。

 それほど早い決断は、浩二を殺しに来ただけ、という証拠だった。

 ルキアの合図でクローンが即座に銃を脇の下のホルスターから取り出し、右手に構えて銃口を浩二達へと向けた。

 ――が、浩二の姿がその一瞬で、その場から消えていた。

 荒木と浩二、二つの影がその場に合ったはずなのに、一つになってしまっていた事に、クローン達は驚愕した。思わず、動きを一瞬止めた。

 クローン達は自身が目の前にいたはずのその男のクローンだという事を把握している。自分達が神の代わりとまで言われた人間のコピーだという事を把握している。自覚している。だが、クローン、コピーが、模造品と呼ばれる全く別のモノだという事は自覚していない。

 驚いて目を見開いて、ある方向を見ていた荒木の視線を追って、クローン達はやっと、浩二の居場所に気付いた。

 ルキアの背後。ルキアの首元にナイフを当てて、羽交い絞めにしているその姿だった。

 それに気づいてしまったからこそ、クローン達は更に驚愕した。スペック上は全く同じ存在なはずなのに、自分達の理解を越えた、自分達では絶対に出来ない動きを目の前で見せた、自分達と細胞単位で同等の存在に、クローンは驚愕せざるを得なかった。

 そして、その瞬間に気づく。今、この圧倒的有利なはずの状況。この状況が実は、圧倒的有利ではない状況なのではないか、という事に。

「待て、待て! 待つんだ!」

 クローンに対しての指示か、それとも浩二に対しての懇願かはわからないルキアの声が響いて、クローン達は銃口を下へと向けた。が、ホルスターに戻しはしない。

 クローンの視線は浩二、ルキアを捉えている。今度こそは確実に動きを追おうとでも思っているのか、注視していた。

 ルキアを捉えていたまま、浩二は辺りを視線だけで見回した。幸いにも背後にはクローンはいない。ルキアがクローンで浩二を囲んだ時に勝ちを確信したのが間違いだった。クローンをルキアの位置や浩二の位置を関係なしに、部屋全体に配置しておくべきだった。

 手中で抵抗しようともがくルキアを無理矢理に引きずり、浩二は後退する。その間もクローンは動けない。ルキアが抵抗に集中してしまい、指示が出ていなかった事もあるが、今動いても、勝てる気がしなかったのだ。

 自分達は神代家のクローンで、圧倒的力を保有しているはずなのに、目の前のその自分達と細胞単位で同じ存在のはずの男が、圧倒的戦力差を持つ人間、バケモノかとまで思えた。畏怖していた。そんな感情は持っていないはずだった。だが、本能が気づいてしまっていた。

「離せ! お、おい! クローン! 撃て! 頭出てんだから撃てるんだろ!」

 ルキアが叫ぶ。暴れる、が、浩二は決して彼を放さない。逃れられない様に拘束している。方手でも、相手の動きを完全に制する技術は存在する。

「騒ぐのも、暴れるのも好きにしろ。だがクローンには撃てねぇぞ」

 浩二が静かに言うと、ルキアは更に暴れだした。一刻も早くこの状況から抜け出さなければならない、という事を本能で理解しているが、冷静な判断が出てきていなかった。

 ルキアはあっという間に上、現在の立場にまで上り詰めた人間だ。現在の日本の現状を一人で表しているとも言える。学歴という現場では全く持って役に立たないモノを振りかざして、現場で動く人間を飛び越して上に上り詰め、現場を全く知らず、技術を持たずして権力だけを振りかざす迷惑な存在。それが、ルキアだった。

 浩二もそれを把握していた。どちらにせよ選択肢はなかったが、ルキアのその性格、立場を知っていたからこそ、彼を人質に取れた。絶対に、自分の命は危険にさらさない。が、人質を盾にしている人間の僅かな露出部分を打ち抜く大変さを彼は知らない。現場を知らない。殺しを、大してしらないからだ。故に、今の様な間抜けな指示を曖昧に出した。出してしまった。

 浩二はその苦労を知っている。仮に、クローンと立場が逆だった場合、浩二は容易く人質を取る人間を打ち抜くだろうが、クローンは出来ない。

 たった今、畏怖という新たな感情を得たクローン。クローンだって人間なのだ。科学技術が発展し、表に出ていないソレをも使用している協会側でも、出来ない事がある。それが、人間の制御だ。クローンだってロボットではない。感情を持ち得る、人間なのだ。ある程度の事は生活の強制や訓練で押さえ込む事が出来る。だが、実戦の場に出てしまえば、最後。想定外の事が起きる。

「な、なぜだ。どうして撃たないィ!?」

 クローンが手を上げない事に、ルキアは不満を爆発させる。

 クローンは銃口を上げしやしない。当然だった。彼らは神代のクローンだ。例え、技術が本物に追いつかないとしても、判断力はある。この状況で、動く事は出来ないと判断している。ルキアを絶対的主人だと判断していて、見逃す事が出来ないのはわかっている。だが、動けないでいる。板挟み状態だった。

「教えてやるよ。例えこの状態で、撃てる部位が僅かでも露出していようがな、確実に撃てるなんて保証はねぇんだよ。あいつらの元の俺が言うんだ。あいつらだってそれに気づいて動けないに決まってる」

「何を……ッ!!」

 ルキアは分かっていない。だが、わかっている。自分を捉えるその人間が、人間であるという事を。そして、恐ろしい程の力、才能を持った殺し屋であるという事を。

 人間であって、人間でない。人間が故、出来ない事もある。人間を超越する技術を持つが故、常人では出来ない事をやってのける。そういう事があってこそ、神に変わる『人間』。

「いい話をしてやろう」

 浩二は言って、溜息を吐き出し、静かに、ルキアの耳元で言った。

「仮に今、俺がお前を殺しても、クローンはその後、俺を容赦なく殺す、なんて判断は取らねぇぞ」

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