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6.the battle of glory/killer cell project―12

「それにしても、このクローンの数……予想外ですね」

「そうだな。事前の情報じゃもっと少なかったよな」

「そうだな」

 少し居心地の悪さを感じる荒木だった。

 浩二が死体を踏みにじりながら部屋から出て行く。荒木も続いた。

 部屋から出た二人は、浩二を筆頭に廊下を歩く。歩いている道中も、様々な年齢の訓練過程を終えたクローンが二人を襲うが、相手になるはずがなかった。

 浩二に至っては、突如として視覚から出現したクローンを見もせずに銃口だけ向けて一撃で殺すという恐ろしい程の技を何度も見せていた。死体が生まれてからやっと、反応が追いつく荒木。仮に今、背後から浩二を襲っても、返り討ちに合うだろう。それほど、浩二には好きがなかった。

 進みながら、荒木が問う。

「グローリーを倒して、この世界はどう変わるんだろうな」

「さぁな。いい方へ転がる可能性もあるが、また逆もそうだな。仮にも協会は頭だ。頭を失った動体は意思とは関係なしに暴れるのが生き物の大部分を占める」

 浩二は振り返りもせずに答えた。考えはあるようだが、言いはしないと気付いた荒木は、それ以上の事は聞かないで置いた。

 二人が進んで行くと、また広い部屋へと出た。

 これが本当に地下なのか、と思える様な巨大な、体育館を連想させる様なフロアだった。天井は高く、幅も奥行もある。が、何もない。真っ白な一面で、照明を反射してやたらと明るく、思わず瞼を半分程とじたくもなった。

 数歩進んでそのフロアの中へと足を踏み入れた浩二は、辺りを見回した後、床を指差して、荒木に言う。

「よくみりゃ接合部っていうか、なんかが床下にしまってあるような跡がある。俺の予想だが、筋トレグッズ的な何かだろ」

 聞いた荒木は浩二の指を辿って床を見る。と、僅かにだが、真っ白な床に線が入っている事を確認した。目を凝らさなければ見えないような線だった。

 顔を上げ、浩二を見て問う。

「と、いう事はここはトレーニングルームか何かって事か?」

 その問いに浩二は頷く。

「ま、あくまで勘で、予想だが」

 辺りを再度見回して、

「こうやってそれぞれ設備をしまって更地に出来る所を見ると、」

『クローンの訓練場』

 浩二の言葉を遮って、このフロア全体に振動が響いた。

 浩二と荒木は声に反応して辺りを見回す。声の響き方から、それがスピーカーから出力されたモノだとはすぐに気付いたが、そのスピーカーがどこにあるのかは分からなかった。が、浩二は床の一点を注視している。もしかすると、見つけたのかもしれない。

 顔を上げ、辺りを見回して浩二が声を上げる。

「聞き覚えのある声だ」

 その浩二の返事から、スピーカーの音声は返ってこなくなった。

 浩二達はそのまま、その場で辺りを警戒したまま、待つ。

 数秒して、浩二達が入ってきた扉が開いた。そして、そこに一人の影が出現し、二人を迎えた。

 男だ。男はそのままゆっくりと歩いて浩二達の下へと向かってくる。その間、視線は浩二と重なりっぱなしだった。荒木もそれに気づく。

 男は浩二達から五メートル程離れた場所で足を止めた。

 スーツ姿に、両手はポケットに突っ込んである。若い男だった。が、その若いは浩二から見た若い、であり、龍二に比べれば十分大人な年齢、容姿である。

 男は不敵に笑み、そして、言った。

「さて、もうここまでにしてもらいますよ。神代浩二さん」

「ルキアか。やっぱりな」

 浩二は眉を顰めてその男、ルキアを睨む。過去の知り合いなのだろう。二人の間には敵意はあれど、わだかまりも存在する。

「で、どうやって俺達を止めるつもりだ?」

 浩二が両手を広げ、演技めいた仕草でやれやれと嘆息した。

 と、同時だった。

 天井から、音。無数の音だ。何かが開く様な音、そしてそこから何かが出てくるような音。そして、その何かを辿って何かが降りてくる音。

 気づけば、天井からは降下ロープの様なモノが複数垂れ下がってきていて、そこから、順番に、連続して装備をまとめたクローンが、降りてきた。

 一、二、三、四、五、一○、二○、五○、一○○。

 恐ろしい数だった。数秒しない内に降下は完了し、クローンが部屋を埋め尽くさんとばかりに降りてきて、浩二達を囲んだのだった。が、この広いフロアの御蔭で、ある程度動けるゆとりはあった。だが、そのゆとりが浩二達に味方をするとは、この状況では思えなかった。

 クローンの降下が完了すると、降下ロープはあっと言う間に天井の中に巻き戻され、空いた穴もあっという間に塞がれた。

 ここはクローンの訓練施設だ。様々な設備があってもおかしくない。

 辺りを見回すと、どこを見ても、クローンと目が合う。奇妙な、不気味な光景だった。だが、この状況にしてはおかしい姿もあった。クローンの誰もが、装備をしていながら、この時点で手には何も装備していないのだ。今すぐでも、銃をとれば浩二達の動きを大分制限出来るというのに。

「なんだ? 執行猶予?」

 荒木がおどけた様に言う。が、本心は最悪だった。ここで死ぬかもしれない、という考えと、こんな状況になってもなお、強気で出ている浩二の姿を見て、彼なら何か脱出すべく作戦を建てているかもしれない、という希望を入り混じらせて、混乱していた。その結果が、浩二を習っての強気だった。

「流石は神代の連れ添い。面白い事をいいますね」

 ルキアがいやらしく笑んだ。そして、右手を、肘を曲げて上へと上げていた。

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