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6.the battle of glory/killer cell project―10


 が、荒木が走っている間に浩二は一人で起き上がり、銃をしまった後に服を払って眉をひそめていた。近づくと、汚れちまったじゃねぇか。これ高いんだぜ、という小言が聞こえてきた。

「大丈夫か?」

 一応に訊くと、大丈夫だという在り来たりな答えがすぐに帰ってきた。

 互いに無事だと確認すると、二人はすぐに足を進める。爆発の余韻として室温が上がっていた。死体の焦げ臭い臭もなくなってしまう程に、辺りは爆発の余韻を残していた。確かにまだ、熱いと感じる程の熱が残ってはいるが、足を進める事に抵抗はない。

 二人は周りの光景を警戒程度に見たまま、一番奥へと向かう。

 再度扉。先程のモノよりは僅かにスケールダウンした扉だ。この扉にはセキュリティはないようだったが、監視カメラは相変わらず存在する。が、無視をして扉を開く。既に暴れた後だ、今更姿を隠す必要はない。それに、この施設に入ったその時から姿を隠す気はなかった。殺し屋の任務として動いているのではない。私怨で、ここに復讐者として来ている。自分の才能、それに殺し屋としての技術を使って、攻撃をしに来ているのだ。姿を隠し、秘匿に人を殺す殺し屋ではない。

 扉を開けた先には、廊下が走っていた。海外の大きめのモーテルを連想させる様な、古臭く、湿っぽい雰囲気を持つ、薄暗い廊下だった。幅はあるし、天井も日本の一般的なそれと比べれば高いが、薄暗さのせいか狭く感じた。長く先まで伸びているが、そんなに長くは見えない。道中左右に扉がいくつかあり、その扉も古臭く見え、どうにも最先端の技術を誇る施設には思えなかった。協会がこの程度の技術力なはずがない。

 だが、こうなっている以上は理由があるはずだ。それが、単に上の趣味なのか、恐ろしい裏があるのかはわからないが。

「古臭いな。なんでこんな雰囲気なのか」

「さぁな。大した意味はねぇだろうが、警戒するには変わらない」

 浩二を筆頭に、二人は進む。浩二が道中の扉を無視して廊下の奥に進むため、荒木は扉を気にしながらもその先に進む事は出来なかった。

 廊下の突き当りにまで来て、浩二はその左右に見えた二つの扉のうちの一つ、右の扉に向かった。ドアノブに手を掛け、普通の動作で扉を開ける。と、その先はエレベーターとなっていた。業務量の、デパートにでもありそうな広めのエレベーターだった。乗り込み、ボタンを押してどんどん二人は下に落ちて行く。妙な事にボタンはいくつか並んでいたが、表示がなかった。一番下かと思われるボタンを押すと、反応がなかったため、下から順に押すとそれはやっと動き出した。表示がないためにどこに向かっているのか分からなかったが、体感で下りていると思っていた。

 暫くすると、扉は自動的に開かれる。

 先には通路。先程のモノとは違い、近未来チックな白を基調とした、SF映画にでも出てきそうな廊下だった。先のモノと比べれば幅は狭いが天井は僅かに高く、照明が壁の白に反射してやたらと明るい。あちこちに見える扉も近未来的なモノで、ドアノブがなく、触れただけで開ける事のできるモノだと見えた。

 今までの一本道とは違い、この通路は入り組んでいる。

 浩二は一度辺りを見回した後、先に進みだす。荒木も続く。

 浩二の手には銃とナイフが握られていた。それに気付いた荒木も装備をする。

 浩二の歩みが遅くなった。警戒を強めたのだろう。歩き方事態は余り変わってないが、足音は消え、周りの物音を伺っているように思えた。気付いた荒木も足音を殺し、警戒を強める。

 荒木も気づいていた。不思議だと思った。感じた。侵入はバレていて、どこにいるかまで把握されていてもおかしくない状態だ。なのに、何故か、敵襲がない。それどころか、人一人姿を見せない。先程、RPGまで室内で使って侵入を防ごうとしたというのに。深淵に潜り込み、近づいているのに防御が手薄になるという事もあるまい。

「静かだな」

 浩二が囁く様に言う。

「そうだね」

 荒木も頷いた。

 二人共。おかしいと思っていた。

 静かすぎた。いくら秘匿な協会だといえど、この規模の施設があるのだ。それなりの人間が常時、動いていてもおかしくない。




「どうしたってんだ」

「恩義を感じてるわけじゃない。ただ、暇だったので。春風さんにパソコンの使用もさせてもらいましたし」

 龍自宅、リビングにて、龍二の手には数枚のプリントアウトした資料が。そして、ソファに腰駆けていたその龍二の目の前には、眼帯をし、顔の腫れもある程度引いたシーアがいた。シーアのその行動に、周りも驚いていた。

 今、彼女の立場は依然に比べて大分よくなっていた。当然。宮古を殺したその時は確かに、完全なる人質、いつ殺しても良いただのタンパク質。その程度だったが、霧男の判断ももらった今、少なくともこの『殺し屋だらけの家』の中では、許されてきていた。当然だ。この家の住人は、ミクを含めても綺麗事だけで生きている訳ではない。龍二だって、シオンだって、春風だって何人も殺して来ている。殺した相手が必ずしも命を失って当然な独り身の人間だった訳ではない。

 異常だと思うなら、それは一般の考えだ。龍二達の考えにはならない。

 シーアはあの日、龍二に散々ダメージを負わされてしまったため、もう、戦う事は出来ない。体が殺しの世界のレベルにはどうしてもついて行かない。故に、何かをしようと思えば必然的に後援役の仕事となる。幸いにも、この家には実働役でありながら、武器含め龍二の後援役を率先して実行している春風という存在があり、それに、日和という武器職人もいる。勉強するには十分すぎる環境だった。

 龍二がシーアから受け取ったそれは、協会本部についての資料。これは依然、春風達が出してくれた情報とも一致するが、一致しないモノが多かった。新規の情報の塊だ。龍二にとっては喜ばしい情報。

 目を通す。

 最近改修工事をした事も書いてあった。その業者名も書いてあった。部署移動の話しも書いてあった。

 どうすればここまで調べられるのか、と龍二は関心した。

「すげぇな」

 信憑性はある、と龍二は思っていた。今更、シーアがこの様な手段で龍二をはめようとしても意味がないからだ。例え私怨だとしても、意味はないだろう。

 資料をめくり、次々と情報を頭に叩き込みながら、そして、今後の、協会本部へと突入する時の事を想定しながら、龍二は顔を上げ、シーアを見つめて問う。

「ここまでできるんだ。今更だろうが、どうだ。俺の後援役になれ。春風一人が頑張ってくれてんだ。人手が合ってこまりゃしねぇ」

「……考えときます」

 シーアはそう言うと、龍二の隣に腰を下ろした。龍二はチラリと隣に落ち着いたシーアを見るが、シーアは龍二に見向きもせず、生き残った目はテレビに映るエンタメ番組を捉えていた。

 シーアの隣で龍二が資料に目を留めていると、その背後から、

「で、いつ、協会本部に攻め込むのかな?」

 春風が顔を覗かせた。ソファの背もたれと龍二の肩に寄りかかり、両手を龍二の首に回して抱きついてきた。

 龍二は首を僅かに動かし、視線を上げて春風のニヤニヤした笑顔を一瞥すると、すぐに視線を手元の資料へと落として「どうした?」と何もなかったかの如く、問うた。そんな二人をシーアは一瞥したが、見なかった事にするかの如く、すぐにテレビへと視線を戻していた。

「どうしたって、いつ、協会に突っ込むのか聴いてるんだよ?」

 春風は甘える様な声で問い直した。

 龍二は考えた。

 気づけば、カレンダーの経過した日付をかき消す斜線がカレンダーを埋め尽くしていた。夏休みも後、僅かしかない。

 龍二はあくまで学生でいるつもりだ。これからも、春風達もだ。

 故に、動くなら、自由がきく夏休み中である。

「明後日だ。明日までに準備を終わらせて、明後日朝から出る」

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