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6.the battle of glory/killer cell project―9


 ビルの裏側に人を回す程まだ集まっていないのか、それとも、何か別の理由でそこにいないのかはわからなかったが、龍二達が地上の通路を使って堂々とこの場を離れる事には何の支障もなかった。

 一度現場を離れてから、また戻り、遠目に野次馬とその先の光景を眺める。

 野次馬が引く様子はなかった。いくら冷たい人間の集まる大都市新宿といえど、これだけの事があれば足を止めざるを得ないのだろう。まだ、煙が入口から吹き出していたが、大分落ち着いた様に見えた。入口に警察が数名いて、立ち入り禁止の黄色のテープが張り巡らされていて、一般人が表から中に入る事は出来そうにない。中に警察が入って原因やそれ以外のモノも調べているのだろう。地下の研究施設や、クローンにたどり着くモノもいると思えた。

 今回ばかりは、協会の情報操作も大変だろうな、と龍二は思った。

 数分の間その光景を眺めて、龍二の「帰るぞ」という合図で三人は踵を返した。

 だが、まだ、クローンを潰したとは思っていない。まだ、生産下を絶ったまでだ。それも、まだ一箇所。もしかすると、まだ他にも生産可能な場所、施設があるのかもしれない。

 だが、一歩前進だ。




    64




 協会というのは正式名称ではない。そもそも正式名称等存在しない。いつの間にか殺し屋の上に立ち、まとめ、その存在を強調してきた。故に、正確な形というモノを把握しきれやしない。だが、存在上に立たせる以上は、ある程度のモノが形として存在しなければならない。それに協会は、存在を全く持たないような、そんな有り得ない設定の存在にはなっていない。

 故に、浩二や荒木は、その『存在』の位置を把握していた。

 決して有り触れた場所ではない。確かに、よく隠匿したな、と思える様な場所であった。

 そもそも、日本、それも都内となれば、地上にて完全に姿を隠せる場所はない。殺し屋団体じゃないのだ。その上に立つ存在なのだ。建物、拠点も極力隠さなければならない。そうなれば、人間の目では追えない、地下にその存在を置くべきである。そして、置いた。協会は、地図上では絶対に有り得ない位置にその存在を隠していた。普通に見れば、地下鉄が張り巡らされているはずのその位置に、うまく地下鉄を避けながら通路や部屋を配置した、それが、協会の施設だった。

 施設がある以上、入口も存在するが、その入口も他の施設に比べれば隠してある方で、施設の位置からは大分離れた場所に存在した。が、浩二、荒木はそれすらをも把握していた。

 浩二、荒木、この二名だけだ。他には誰もいない。

 隣町の有り触れた建物の中のスタッフルームから潜入し、そこから薄暗い地下を歩いて歩いて、数十分を掛けてやっと、そこへとたどり着く。

 広い空間だった。港の物資倉庫のような巨大な廊下の一番奥に、巨大な砦の入口があった。真っ赤な、鳥居を連想させるような、壁を埋め尽くす程の大きさを誇る、扉だった。人間の力だけでは開けられそうにない程巨大で、見れば上部に監視カメラ、右の端に何かを操作するモジュールを確認した。

 監視カメラの視界内にはとっくに入っている。それを知った上で、浩二は監視カメラを見上げ、それに向かって右手で中指を立て、気づいた瞬間にはレンズのど真ん中を正確に銃で打ち抜いていた。

 そのあっという間の手際の良さに荒木は改めて感服した。

「モジュールを調べてみよう」

「頼んだ。多分番号式か指紋認証のセキュリティ装置だろ」

 荒木が僅かに足を早めて巨大扉の右にポツリと存在するモジュールへと向かった。浩二は扉の正面、少しだけ距離を取った場所で両手に銃を持ったまま腕を組み、荒木が扉を開けるのを待っていた。

 荒木がそのモジュールの仕組みを理解し、逆算したか何らかの操作をして扉のロックを解除し、開く指示まで出すには数分もかからなかった。電子機器のクラックや操作は彼の得意分野なのだ。

 大きな扉が、浩二立ちを歓迎しないと言わんばかりに外に開く。扉の大きさがそれなりにあるため、扉が開く際の音は恐ろしく大きく、すぐ耳元を大型トラックが走っているのではと思う程の音が耳を塞いだ。廊下に反響して、相当奥にまで音は届いたのだろうと推測出来た。

 扉が開いたその瞬間だった。

 浩二達を迎えたのは、目立つ弾頭。構える十数人の協会直属の殺し屋の影。全員が横一列にならび、片膝を突き、それぞれがRPGを構えていた。

 荒木の表情が引きつった。これはまずい、と口には出来なかったが感じた。

 が、浩二は違った。ここで、この明らかに死を提示されたその瞬間でも、冷静に状況判断をしていた。それが、浩二と荒木、一般の殺し屋の違いなのかもしれない。

 扉の向こうも天井の高い、巨大な通路だった。明かりは付いているが、一番向こうは突き当りになっているのか、イマイチはっきりとした確認は出来なかった。扉の位置から大凡一○メートル後方に、一七人の殺し屋、いや、戦士達がジグザグに並んでいた。全員がRPGを構えていて、待ち構えられていた事がわかった。道中にも監視カメラが設置してあった。見つけた時点で構えていたのだろう。

 よく見ると、今浩二達が立っている今まで歩いてきた通路よりも、扉の向こう、敵のいる通路の方が僅かに幅が狭い事にも気付いた。が、それだけの事。

 相手がトリガーを引き、RPGの一七個の弾頭が放たれ、扉を超えて浩二達のすぐ側に着弾し、とても人間では耐えられない熱風と爆炎が一帯に放たれ、来た道も長い距離を潰してしまうだろう。

 咄嗟に踵を返しし、走ったとしても間に合うはずがない。僅かに向こうの通路が狭いからと言って、扉の脇に隠れても爆風や熱風から逃れる事は出来ない。荒木を盾にしても、無駄な事。

 ここまでが、浩二の一瞬だった。

 思考が加速していた。超高性能のコンピュータのようだった。全てを並列で処理し、予測まで立て、そして、立案までを終えていた。この時点でまだ、相手はトリガーを引いていなかった。

 更に、浩二の驚異的な動きの速さが判断にプラスされるが、それでもまだ、一瞬。

 いつの間にか浩二は銃を構えていて、弾丸を放っていった。が、相手がトリガーを引くまで、という時間制約があったため、浩二でも一発の銃弾を放つのが限界だった。

 が、その一発が、正確に真っ直ぐ一直線に飛び、浩二の正面に立っていた敵の構えていたRPGのむき出しの菱形の弾頭を、確かに、貫いた。瞬間、炸裂。

 恐ろしい程の大爆発が、浩二達の視線の先で起こった。一つの弾道が爆発すると、規則的に並んでいた他の敵が構えていたRPGの弾道、そして敵自身を爆風が巻き込み、更に爆発を連鎖させて、――大爆発。通路が崩壊してしまうのでは、と思う程の爆発が浩二達の視線の先で起こった。

 全部で一七の爆発は、浩二達にまで到達してしまった。流石に避けきれなかったのか、浩二は爆発の爆風に煽られて、大きく後方に吹き飛ばされた。熱風を肌で痛い程に感じながら一度も床に触れる事なく一○メートルは飛ばされただろう。やっと地面に落ちてからも、数メートルは勢いを殺せずに転がった。全身を強く打ち付けてはいたが、それでも浩二は銃を手放してはいなかった。

 荒木は扉の脇に位置していたため、爆風に吹き飛ばされたが浩二の様に後方に飛ばされず、横に飛ばされて横の壁に背中を打ち付け、床にあっと言う間に落ちた。が、すぐに起き上がって立ち上がった姿を見ると、熱風で肌を焼かれはしても、歩けなくなる程のダメージは受けなかったようだった。

「浩二!」

 荒木がすぐに浩二の方へと駆け出した。

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