6.the battle of glory/killer cell project―8
数秒の銃声が止み、シオンは弾切れを起こした銃に弾を補充しながら、エレベーター内部を見た。浩二のクローンの死体が、風穴を無数に空け、仰向けに転がっていた。がエレベーターの扉に引っかかっていて、扉は締まりそうになかった。暫くすると普通のエレベーターであれば不具合として報告が管理会社にいくだろうが、この場合はどうかまではわからなかった。が、増援を送られても面倒だ、とそのままにしておく事にした。
弾を補充した銃を両手に持ったまま、シオンが振り返ると、
「心配する必要ななかった見たいだな」
いつの間にか、戻ってきていた龍二と春風が、そこに立っていた。シオンは彼らが何の功績もなしに戻ってこない事はわかっている。故に、何も聞かないで、「心配する必要なんて最初からないですよ。私だって成長します」と返した。銃をしまう。
「そうだな」
そう言って龍二は笑った。そのままエレベーター前まで進み、シオンが始末したクローンの死体の足を引っ張り、エレベーターの外に出し、龍二達は血まみれのエレベーターに乗り込んだ。ボタンを押し、一階には戻らず、三階に戻る。
エレベーターが稼働する中で、龍二がシオンの肩について問う。大丈夫なのか? と。龍二は、肩を、もしくは何処かを犠牲にしなければ勝てない相手と対峙していた事を知っている。ミスだとは思わなかった。事実、そうである。
「まぁ、うん」肩の傷を見て、「大丈夫。ともかく今は」
そう言う事しか出来なかった。
十数秒の後、エレベーターは三階、つまりは殺しの世界の関係ないフロアへと出た。やはり龍二達を迎えたのは廊下だった。横に伸びる廊下で、右側に二つ、左側に一つの扉が確認出来た。そしてその奥に階段を確認する。
まだ、警察が来ていないのか、それとも通り過ぎたのか、通路には警察の影はなかった。
エレベーターから降りて、左に進み始めた龍二。
「ここから降りるの?」
春風が問うと、龍二は頷いた。
「あぁ。地上にでなきゃ帰れないからな」
皮肉の聞いた答えだった。
龍二は階段へと向かう。向かう、所だったが、その前に、扉の前を通りすぎる前に、その扉が思いっきり、龍二達の行く手を遮るようにして外に開いた。そして、そこから影が飛び出してくる。
当然、相手はクローン。成人女性。美羽のクローンだ。見た目は二十過ぎ程で、実際の美羽よりは当然若い。右手にはナイフ。待ち受けていたのだとすぐに気づく。
「シッ、」
龍二は冷静な対応を取る。相手が出てくるよりも前、扉が開いた瞬間に構える事が出来ていたからだ。近距離武器、ナイフを手にして、向かってきていた美羽のクローンの額に、銃口を突きつけ、躊躇いなく放つ。
銃声が廊下に響いた。向かってきていた美羽のクローンは一瞬にして力を失い、龍二の横を通りすぎるように倒れ、春風の足元に落ちた。
が、その直後、後方から扉の開く音。エレベーターの向こうに見えた二つの扉が同時に開き、そこから――無数の影が飛び出して来た。数は、まだ、増える。
「ツッ!」
龍二は即座に床を蹴って、飛び出して来た影に接近した。ワンテンポ遅れて、春風もシオンも駆け出した。影は、視線の先でまだまだ増え続けている。距離があった。距離を詰めなければ、遠距離攻撃で負けてしまうとすぐにわかった。
龍二は駆けながら銃を乱射する。無数の弾丸は音速を超えて飛び、廊下へとあふれるようにして出てきた影の前衛を数人、撃ち殺す。
そこで、龍二は前進する足を急停止し、すぐに振り返って、道を戻るように駆け出した。春風とシオンも急転回して続く。どうしてそんな事をしたのか、問うまでもなかった。相手の数が、圧倒的すぎた。狭い廊下に、ゴキブリの大群でも現れたかのような光景、威圧間だった。
龍二は先程、美羽のクローンが飛び出して来た扉へと飛び込んだ。続いて、二人も飛び込む。そこから敵が迫ってくる事はなかったため、入っても安全だと判断したのだろう。出来れば階段に飛び込みたかったが、階段に到達する間に、背中を撃たれてしまう可能性があったため、出来なかった。それに、龍二のすぐ後ろにはシオンと春風が走っていた。撃たれるとしたらまず彼女達からだっただろう。龍二はそれを許しやしない。
三人が飛び込んだ時点で、扉を締める。締めたその直後に、敵が扉を開けようと引っ張り始める。が、必死に龍二、シオンがドアノブを引いて抵抗した。相手は数いようが、ドアノブを引っ張れる数は限られている。僅かだが抵抗はできるだろう。
「春風っ! 紐かなんかもってこい!」
龍二が叫ぶと、春風は既に動いていたようで、手に縄を持って龍二達の下へと駆け寄ってきた。そして、龍二達が引くドアノブに縄を結びつけ、反対側を窓の外の手の届く所にあった排水用の管へと結びつけた。確認すると、龍二達は手を離す。
ドアは相変わらず引っ張られていたが、いつ相手が扉を壊す作業に移るかわからない。開ける事ができなくても、壊されてしまえば最後。それを止める事は出来ない。
龍二達が入った部屋は何かのオフィスのようで、事務机と椅子が散乱していた。窓もいくつかあり、その内の一つに縄が伸びている。
三階。出口は、限られている。
「跳ぶぞ」
龍二の決断は早かった。二人の確認を取る前に、駆け出し、事務机を飛び越し、真っ直ぐに開いた窓へと向かっていった。二人もやはり続く。抵抗する事等できるはずがなかった。
そして、跳ぶ。窓枠に手を掛け、足を掛け、走った勢いを殺さず、龍二達は順番に窓の外へと飛んだ。目の前には隣のビルの壁があった。足元は、遠かった。
龍二達は殺し屋だ。運動神経も常人の何倍もある。三階から降りてただで済むとは思っていなかったが、目の前の隣のビルの壁や窓枠をうまく使い、衝撃を殺しながら落ちる事で、三人は無事に地上へと降りる事が出来たのだった。春風が僅かに表情を歪めたが、怪我をしている様子はなかった。シオンも片腕を無理に使う事が出来ないというのに、華麗に着地したようだった。そして、片腕が全く使えない龍二は、一番綺麗に衝撃を殺し、地上に降り立っていた。
頭上の方で、何かが壊される音がした気がした。
ビルの入口に回れば警察に見つかる可能性が高いため、龍二達はビルとビルの間の湿っぽい路地を、ビルの裏側に出るようにすぐに進み始めた。足元を鼠が張っていた。この光景だけは普段の街に思えた。




