6.the battle of glory/killer cell project―5
滅茶苦茶だった。殺し屋としても、最低の、テロまがいの行為とも言えた。だが、シオンも春風も、何もいいやしなかった。今のこれは、テロイズムではない。戦争なのだ。抑える事ができるか、出来ないかの。その間に発生する死者を厭う余裕等、存在価値を得ない。
それにシオンも春風も分かっていた。龍二が最優先に考えている事、そして、マナーの崩壊した世界の中で、守り続けるつもりがない、という事も。
「さて、行くか」
龍二は二人に言う様に、いや、独り言の様に、そう言って、この巨大なビルから、その屋上から、飛び降りた。
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自動扉が開いた事で、集中を集める事はなかった。人の出入り等当たり前だと言わんばかりの、当たり前の反応だった。龍二はそれでよい、と思った。背後で自動扉が締まる音がするまで、龍二は動かず、扉のセンサーが反応しない丁度の位置で屹立したままだった。
暫くそこに立っていると、やっと、人々の注目が、ぽつぽつとだが、龍二に集まり始めた。が、じっと見つめる人間は一人としていなかった。龍二はそんな、エントランスホール内を見回して、嘆息した。
内部構造は事前に調べたその通りだった。エレベーター三つも、受付の横、奥に確認した。どれが、地下研究所に繋がるモノかも見ればすぐにわかった。
十分だ、龍二はそう思って、――笑った。
コート後ろから、大量の手榴弾、爆薬を取り出した。
龍二、シオン、春風が見守る先で、入口のガラスを吹き飛ばし、ビルそのものを揺るがす程の大爆発が起きた。爆炎、爆風が入口だった狭い入口から吹き出して、目の前の大通りを横断し、上空に上り詰めた。道行く人を巻き込み、龍二が視認出来ただけで五人の人間が爆風に飲まれ、姿をその中に消した。
近くを通っていた人々や、近くの建物内にいた人間も辺りを揺るがす程の轟音、そして異常な程に煽る熱風に気づいて、集まり初めてきた。そして、あっと言う間に野次馬の波ができる。
悲鳴が上がった。あちこちから上がってはいるのだが、やはり現場に近い方から良く聞こえてきた気がした。
危険だ、というのは見れば容易く分かるのに、それでも人は集まる。どうしてなのか、と首を傾げても良いだろう。危険な場所に近づくな、と言われて近づきたくなるのは人間を進化させてきた好奇心がゆえ、仕方のない事なのかもしれないが。
龍二、シオン、春風はその人混みを押しのける様に、堂々と掻き分けながら進み、そして、皆が暗黙の了解として守っていた境界線をも堂々と超えて、周りの視線のほとんどを集めながら、龍二達はまだ熱い、熱と炎の余韻が残るエントランスホールへと足を踏み入れた。
中は地獄のようだった。
壁紙は焼け落ち、適度に場所を取っていた柱は大半を吹き飛ばし、モニュメントやインテリアは焼失。そこらじゅうに現在進行形で燃え盛る死体が落ちている。受付の綺麗だった女性も、今やカウンターに持たれて燃える燃料にしかなっていなかった。そんな光景にプラスして、肌を焼く様な熱気と、死体が燃える臭い等が合わさって、地獄の様な不快感を演出していた。
「エレベーターは無事だな。急ぐぞ」
龍二は言って、足を早める。シオンと春風も黙って続いた。
エレベーターを呼ぶと、普通に稼働して龍二達のいる一階へと到着した。乗り込み、龍二が階数選択のボタンを決まった順に押す。と、エレベーターは下降し始めた。成功だった。
「外は今頃すごい事になってるだろうね」
春風が言う。
「そうですね、警察を呼んでる人間も数名みました。もう、到着しているかもしれませんね」
シオンが言った。あれだけの野次馬を呼ぶ程の騒ぎを引き起こしたのだ。誰も通報しなかったとしても、警察は駆けつけただろう。
「警察は協会がどうにか片付けるだろう。それに、今回は、これから暫くは、」言い直して「警察も邪魔するなら殺す。これでいい」
龍二が冷淡な口調で吐き出した。二人共既に龍二が本気である事を把握している。今更、頷く必要もなかった。
「でも、流石に警察を殺すのは初めてだな」
「そうですね」
「俺だって流石にねぇよ」
そんな会話を続けていると、エレベーターはあっと言う間に目的の階へと到着した。地下一○階程度か、と龍二は体感で推測した。
エレベーターの扉が開く直前で、龍二達は構え、警戒した。ここから先が、本番だ。
龍二達の襲撃に気づいていないのか、それとも、相手は罠でも仕掛けているのか、とにかく、龍二達がその階に出たと同時の襲撃は全くなかった。それどころか、人影一つ見えやしない。下りた先は小さなエントランスホールと言った感じの僅かに開けた場所だった。病院の待合室の様な雰囲気で、事務的なソファーとカウンターが見えた。が、やはり人影はない。
奥に一つだけ扉がある。鉄製の、やたら重そうな扉だった。罠がないか警戒しつつ、龍二は進んで扉へと向かい、ドアノブに手を掛けた。




