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6.the battle of glory/killer cell project―3


 考えないわけには行かなかった。そもそも、グローリーは協会を解体する事を目的としている、と予想している。龍二達も、協会を潰す。目的っは違いど、結果は同じだ。もし、龍二が協会を潰し、グローリーを打倒したとして、協会という、今や形だけだが、抑止力を失った殺し屋連中は、どうなるのだろうか。もしかすると、グローリーが狙った通り、殺しの世界が表に滲み出て来てしまうのでは――。

「頼んだ。武器。早めに頼むぜ」

 龍二はそう言って、手元に取っていた武器をアルミケースへと戻し、閉め、右手に持ってリビングから出る。その際、右手首が痛まなかったため、龍二はリビングから出て階段を上っている間に何度か小さく手首を動かして痛むかどうか確認した。痛みが、引いている気がした。

 自室へと戻った龍二はアルミケースをベッドの上に放り投げ、壁に掛けておいたコートを取り、その横に並べた。今や日和も殺し屋の世界の事を知っている。この、装備を潜ませたコートを部屋に置いているのはそのためだ。

 龍二は右手で起用にコートをいじる。ありとあらゆるポケットや装備をぶら下げる紐をいじり、今まで使っていた装備を横に投げた。柔らかいベッドに銃は一度沈み、跳ねてまた戻る。

 そして、今春風から託された新しい装備をコートにしまい始める。当然、皆に内緒で協会に攻め込むなんて事はしないが、早めの準備を心がけて問題はない。

(触れてみてわかった。母さんは、母さんの技術もまた、進化しているんだ)

 龍二は感じていた。春風から受け取った武器の、軽さを。異常だとも思った。美羽、神代美羽だといえど、一個人。そんな個人が、企業でも作れないようなモノを作ってしまうだけの技術を持っているというのだから、信じられない。

 全てをコートに終い終えて、龍二はコートを戻し、今まで使っていた武器を上手いこと持って一階へと降りて、リビングへと戻った。

 リビングには日和、シオン、シーア、それといつの間にか二階から降りたのか、ミクがいた。シオンがシーアについての説明をしたようで、仲良く、とまではいかないが、普通に会話ができる程度にはなっていた。いきさつを聞いたか、日和は龍二を見て、やりすぎだよ、と言った様な表情をしていた気がした。

「春風は?」

「アトリエだよ」

 訊くと、表情を戻して、日和が答えた。

 龍二はアトリエへの道を開き、降りる。

 アトリエに着くと、デスクで何かをしている春風の姿が見えた。龍二は近づく。と、

「龍二?」

 デスクに着いた春風が、手元に集中したまま、聞いた。

「おう。コートにしまってた武器持ってきた」

 龍二がそう言って春風の隣に並び、彼女の手元を覗き込む。そこには分解された銃があった。武器の再調整、手入れを早速してくれているのだろう。

 龍二は持ってきた武器をデスクの端の、春風の作業の邪魔にならないところに置いた。

「左手はどう?」

 視線を手元に置いたまま、春風が問う。

「全然ダメだ。まだ全く動きゃしねぇ」

「そう……、」

 はぁ、と嘆息して、

「その状態で協会と戦うつもりなの?」

「やるしかねぇだろ」

「龍二がそう言うなら、私は止めないし、止める事なんて出来ないけど」

 春風の声色が僅かに暗くなった気がした。

 春風は思っていた。好調どころか、不調の状態で、協会なんていうどの殺し屋組織よりも大規模な組織を相手に、戦って欲しくなかった。

 春風は間近で神代家の力を見てきた。実感してきた。龍二の力を、だ。だが、それでも、神代家の力を持ってしても、今の龍二が、協会を相手に戦って『無事で済む』とは思えなかった。

「……でもさ、言いたい事は言うよ」

 春風はそう言ったところで手を止め、やっと振り返って龍二の視線と自分の視線を重ねた。真剣な眼差しに、龍二は思わず息を飲んだ。

「死んで欲しくない」

 春風はそう、たった一言、そうとだけ言って、沈黙し、龍二を見つめた。その瞳には、涙が浮かんでいたかもしれない。そんな瞳を龍二は直視出来なかった。すぐに視線を逸らし、恥ずかしげに、

「死なねぇよ」

 そう答えた。

「いや、分からないよ。今回ばかりは」

 だが、現実は厳しい。春風は突きつける。

「相手は協会全体って言っても過言じゃない。クロコダイル傘下の反協会態勢の連中も相手にしなくちゃいけないだろうしね。そんな数相手に、戦える人数がこっちにはいない」

「人数が足りないなら、人数が足りなくても戦えるように仕掛けるまでだ」

「そういうレベルじゃないでしょ?」

「大丈夫だ、分かってる」

 龍二の言葉は強かった。深く頷く動作が、見えた気がした。

 なにより、今の現状をわかっているのは、春風ではない。違う。龍二なのだ。左手なんかはその現れとも言えよう。実際に動かない、とわかるのは龍二以外にはいない。この戦いで、龍二の存在は必須だ。龍二もそれを自覚している。故に、龍二が一番危機を感じていた。この戦いで、自分含めた誰かが、犠牲になるのではないか、と。その考えのせいで、一人で特攻しようとも何度も思った。が、今回ばかりはそうはいかないという現状も分かっていた。

 皆の協力なくして、協会には勝てない。今まで神の代わりとまで呼ばれていた神代龍二は、そう思っていた。確信していた。

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