6.the battle of glory/killer cell project―2
荒木がまとめた。
この一件には、制限時間があるという事。そのタイムリミットはわからない。つまり、急がねばならないという事である。
「面倒な事になってきたな。俺だって、数で押されりゃ負ける時は負けるぞ」
浩二が呆れた様に言う。浩二だって、出来ない事くらいはある。
「大丈夫だ。そのために俺が仲間になったんだろ?」
荒木が僅かに笑う。釣られるようにして浩二も笑った。
今、全てが動き出す準備が出来た。
61
「神代龍二。協会本部ないのデータを出して地図を作ってみました」
そう言って、何枚もの紙を龍二に渡した。シオンは自分の記憶を含めたデータをまとめて、協会本部内の地図を作り上げたらしい。リビングのソファーに腰駆けていた龍二はそれを受け取り、目を通す。龍二も協会本部の場所自体は知っていたが、野良である彼は中の状態を知らない。シオンやシーア、それに春風なんかは元々協会所属の殺し屋だ。中の様子を少しでも知っていてもおかしくないだろう。
紙一枚につき一フロアの詳細が書かれていた、が、扉から先の状態が書かれていない箇所も多かった。目を軽く通すだけで扉の数、つまりは部屋の数が相当なモノだと気づく。全ての扉に入っていないのは当然だろう。むしろここまで、作り上げられただけでもすごいと思えた。
「流石だ。ありがとう」
「いえいえ」
龍二はそのままニュース番組を映すテレビを消して、手書きだが精巧に書き上げられた地図を見始めた。何度も何度も紙をめくり、全ての階層を把握しようとした。今から覚えておいても問題はないだろう。実際に潜入するとなった場合、地図を見ながら行動できるはずもない。
龍二が地図を見ている。つまりこれは、『龍二が協会を潰しに掛かるという事』。
頭を潰せばとまりそうだな。その言葉と同様、龍二は協会の頭、グローリー・リッカを潰し、クロコダイルごとまとめて潰そうとしているのだ。
今回のこの一件は、知っている知識だけで推測すれば、グローリー・リッカが元凶だ。それも、全ての。グローリーさえ潰してしまえば、killer cell計画も含めて、全てを終える事ができる。そう、龍二は考えている。
協会に入り、最上階にいると思われるグローリーに到達するのはそう容易くないだろう。それどころか、今までしてきたどの仕事、殺しよりも難易度が高い殺しとなるだろう。そして、協会側が、龍二達、浩二達の調べに気づいていないとも思えない。何らかのトラップや待ち構えている刺客の配置があると考えておいても良いだろう。
そして、そのためには、
「武器が必要だな……」
龍二は呟く。シオンはそれを聞いて、そうですねぇ。日和ちゃん達はまだ帰ってきませんね、と呟いた。と、同時だった。
「たっだいまー」
元気の良い声が、玄関扉を開ける音と同時に、龍二の耳に届いた。聞きなれた声、すぐに、二人の声だと気づいた。彼女らがバタバタと廊下を歩いてくる足音も、聞きなれた音の様に思えた。
リビングに飛び込む様に入ってくる春風に日和。春風の右手に、見慣れない黒光りする大きめのアルミケースが持たれていた。
日和はリビングに入ったところで立ち止まって、シオンと何か話し始めた。思い出話に、それと、シーアの存在についてでも話しているのだろう。
春風はシーアを一瞥はするが、前を通り過ぎてすたすたと龍二の下へと歩いていき、地図を丁度見終えた龍二の前に来て、そのアルミケースを龍二の顔面に叩きつけるようにして、見せつけた。
「何それ」
わざとらしく龍二が言うと、春風は龍二の目の前からケースをどかし、その無邪気な笑顔を見せ、自信タップリに、言った。
「お待たせしました! 新しい武器ですよ!」
そう言った春風はそのまま、龍二の足元にケースを置いて、開く。龍二はそれを上から覗き込む。
中は三層になっていて、春風はそれを全て出した。一番上の層に銃が二丁。二番目の層にはナイフが複数入っていた。ククリナイフを始め、大型のボウイナイフ、ファイティングナイフ、ブッシュナイフと様々な種類のモノが一本ずつ、入っていた。そして最後の層には、様々な種類だが、一層に入っていた銃専用のモノと思われる弾丸が綺麗に並べられていた。
龍二はそれらを手に取り、じっくりと眺める。
「作ったのか」
問うと、春風は頷いた。
「うん。ある人に教えてもらいながらね」
そう言って、春風の視線はシオンと話していた日和を向いた。龍二も首だけで振り返って日和を見る。と、二人の視線に気付いた日和は、頷いた。そして、言う。
「神代美羽、さんにね」
その言葉に、龍二は固まった。数秒固まって、やっと出てきたのが、言葉。
「マジかよ」
その言葉に日和も春風も深く頷いた。
「そうだよ。美羽さん。元気だった」
「浩二さんには言うなって言われたけど、龍二に言うなとは言われてないからね」
春風、日和が言う。二人の言葉に龍二は手元の武器に視線を落として、嘆息した。生きていたんだ、と心中で思った。
「まぁ、生きててよかったわ」
そう呟いた龍二は手元にあるナイフを掲げるようにして持ち上げて、それよりも今は、と続ける。
「協会を潰す準備をしなきゃな」
「今まで使ってた武器もこれから、美羽さんから学んだ技術で随時修理するから。数日だけ頂戴」
春風達も今の状況を知っているようで、そう答えた。
数日、龍二は待ってられないと思った。手元、足元の武器を見て、これだけででも攻め入るべきか、と思いまでした。が、思い直して、すぐにいや、まだ待とう、と思い直した。
協会へ襲撃するのだ。それこそ、細心の注意を払い、できる準備を全てしておくべきだ。それくらいのミッションだ、と思い直して、確認した。
(協会とクロコダイルを潰して、その先、殺し屋の世界はどうなるのかね)
龍二は思った。




