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6.the battle of glory/killer cell project





6.the battle of glory/killer cell project




「なるほどね」

 そう言って龍二は何度か頷いた。目の前のエッツァは「そうです」と頷き返す。

 外の雨はまだ止みそうにない。それどころか、酷くなる一方な様な気がした。雷も轟き続けている。水溜まりは川にでもなりそうだった。

 シオンとシーアは黙って二人の会話を聞いていた。

 龍二はエッツァから『現状』と、『ギデオン』の『居場所』についての話しを聞いた。浩二がクロコダイルを始末し始めているが、ギデオンの居場所までは知らないという事。そして、エッツァはその事を把握した上で、自身で『潜入調査』をし、ギデオンの居場所を掴んだという。潜入調査をしていたため、カメレオンの事は把握していたが、助けに来れなかったという。

 カメレオンは龍二が自身の手で始末した。目の前の男の話しを聞くと、敵ではないと思えた。だから、龍二は大人しく話しを聞いていた。ここまで話しを聞いて、エッツァは本当に浩二の知り合い、友人なのだと思えた。思っていた。

 シオンから、確認の視線を受けたシーアが、ぽつりと漏らす。

「確かに、ギデオンの居場所は『誰も知らない』。幹部も知らないと聞いていたけど」

「確かに、幹部の人間も、全員、ギデオンの居場所を知らなかった。ですが、知っている人間が一人だけ、いました。そもそも、誰とも関わらずに生き抜く事は不可能です」

「で、どうやったんだ?」

 龍二が眉を顰めてエッツァを見ると、エッツァはすぐに話しを本題へと向けた。

「『仲介人』を、辿りました」

 そのエッツァの言葉に、全員がわからないと言った様子で首を傾げた。当然と言えば当然だった。彼ら、殺し屋の世界の『仲介人』とは、殺し屋と依頼主を繋ぐクッションの役割を担う人物の事を差す。が、エッツァの口から、このタイミングで漏れた仲介人という言葉は、どうもそれとは違うモノを差すようで、龍二達の思考を一旦停止させてしまった。

 暫くする前に、龍二がひらめく。

「そうか。ギデオンは幹部格の連中にも正体っつーか、居場所共々隠したかったわけだ。って事は、その間に、『仲介者』を置いてるって事か」

 龍二のそのひらめきに、エッツァは満足げに頷いた。

「そうです。幹部格に連絡を直接取るのはギデオンではなく、別の人間だったって事です。私はその仲介人を探ったのです」

「その仲介人ってのは?」

 シオンの問いに、エッツァはすぐに答えた。話しの切り替えが早い男である。

「全く無名の仲介人でした。初めて訊く名前、というわけではなく、今までも、ギデオンと幹部格の間を取り持つ仲介を専属でしてきたためだと思います。きっと、仲介人の存在も周りには秘匿にしておきたかったのでしょうね。用心深い男だな、と」

 ふん、と何かを納得した龍二。シオンも同様。シーアはただ黙っていた。今まで、下っ端だとはいえ、所属していた身だ。なのに、知らない事が多すぎた。自分は何だったのだろうか、とでも思って、ショックでも受けているのだろう。

「その仲介人が誰か、を探り、あとは逆探知の要領です」

「連絡下を辿り辿りって事か。理屈は簡単でも難しいんだろうな」

「そうでしたね。技術的な中継点が多すぎて、面倒でした……が、掴みました」

 エッツァの目がギラリと輝いた。確信を得た、と表情に書いてあるようだった。

 龍二ので、どこだ? という質問が飛び出す前に、エッツァは進んで答えた。


「協会本部です」


 その言葉に、戦慄した。

「ちょっと待て。クロコダイルは協会反対勢力になってんじゃねぇのかよ?」

 龍二が早速突っ込んだ質問をする。そうだ。相手はクロコダイルのボス。そう、協会の体制に不満を持ち、同士あで集めて協会を潰そうとするクロコダイルのボスだ。そのボスが、協会にいるのだと、エッツァは言う。疑問を持たない方が不思議な話しだ。

「その通りです。敵陣の中です。ですが、一度身を隠してしまえば、最も見つかりにくい場所とも言えます」

「確かに……」

 シオンが納得した様に、うつむいて呟いた。

 敵に信頼さえされてしまえば、その敵は、敵でなくなる。当然見つかる驚異もあるが、これが、一番力を持った敵の無力化とも言えた。

「協会の、どこだ……」

 龍二が核心を突こうとする。嫌な、予感がした。聞いてしまえば、全てがくつがえってしまうかの様な、そんな答えが返される気がした。聞いてはいけないと分かっていたかもしれない。が、聞かずにはいられないと本能は動いた。

 その龍二の問いに、エッツァは一瞬、動きを止めた。そのせいか、龍二の嫌な予感は、更に強まった。

 そして、溜息。エッツァが溜息を吐き出す様な人間でないと思っていた龍二からすれば、この時点で、嫌な予感は的中したと思えた。


「協会のトップです。グローリー・リッカ。ギデオンはクロコダイルを束ねる際の偽名でしょう」


 またしても飛び出す驚愕の真実に、龍二は頭を抱えて叫びたくなる程、不満を覚えた。何かが心中で爆発してしまいそうな程、胸の中がムカムカとしてきていた。今すぐにでも、誰かを殺したいと思う程、苛立ち始めていた。

 おかしな話しである。

「それじゃさっきまでの話しも無駄なくらい滅茶苦茶じゃねぇか! 協会のトップがクロコダイルのトップだ!? それじゃ矛盾もいいところだ。なんで自分の組織を自分の組織で潰そうとするんだよ」

 龍二が声を荒げた。その様子に、慣れていないシーアは僅かに体を震わせた。龍二にあれだけ打ちのめされた彼女は、龍二に恐怖を覚えている。トラウマになっているのだろう。

 が、今龍二が声を荒げたのは当然、シーアにではない。そしてシオンにでもエッツァにでもない。グローリー・リッカ、ギデオンに対してだった。

「そうです。これでハッキリしたでしょうけども、」

 エッツァの言葉の途中で、龍二が遮った。

「killer cell計画も、グローリーが、協会が、クロコダイルが先導してたって事か」

 そう言った龍二は、シオンに視線をやる。シオンはその視線の意味が理解できないのか、キョトンとした表情で、何か? と無言で問うたが、龍二が視線を逸らしたため、今の流れはなかった事になった。

 龍二はまだ、シオンにミクの事実を教えていない。当人は今、二階にいる。

「その通りです。と、なると疑問はいくらでも湧いてきます。どうしてkiller cell計画を開始したのか。これについて私は、」

「抑止力だろ。マナー違反連中を抑えるための」

 途中で遮った龍二の言葉、推測にエッツァは頷く。「私もそう考えています。浩二さまも」

 続けて、

「では、その抑止力を振るう相手が、ギデオンの組織クロコダイル率いる協会反対勢力です。……が、実はkiller cell計画はそのクロコダイルが主権を握っていた。つまりこれは、」

「二つの意味を持つ」

 シオンが静かに答えると、龍二とエッツァが同時に頷いた。龍二が口を開き、シオンの考えと全く同じ事を吐き出す。

「抑止力ってのも事実なんだろうが、それはあくまで協会視点での話しだな。クロコダイル視点があるって事だ。そのクロコダイル視点でのkiller cell計画の目的が恐らく――『支配』」

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