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5.thunder storm.―20


 メアリはフードの下に覗く口下に笑みを浮かべた。龍二と向き合うベルトロもそうだ。その様子は、二人が、勝ちを確信している様に思えた。そして、龍二の動かない左腕の事も、把握している様に思えた。

 少数精鋭のクロコダイルの幹部が二人。負傷中の龍二と極普通の下っ端殺し屋のシオン。力の差は五分五分とは言えなかった。圧倒的とは言わないが、圧されていた。気圧されていた。

 生唾を呑み込む。龍二はナイフを握りなおす。雨に濡れて、手が滑りそうだった。滑り止めのついた手袋をしておけばよかったと思った。今の龍二では手袋を付けるのも一苦労だが。

「口だけは達者、で!」

 シオンの言葉にそう返したメアリが、雨にまみれた地を蹴った。水たまりが穿たれて水が跳ねる。正面から、向かって来た。同時、ベルトロも進んできた。

 正面から、正々堂々と向かってくるようだ。

 今更マナー云々を相手に求める気はないが、今、外は嵐の様な大雨に落雷。住宅街のこの道で戦っていても、目撃者は出ないだろう。それだけで、龍二は少し、気が軽くなった気がした。

 龍二、シオン共に構える。

 互とも、向かい来る敵の攻撃をどうにか流そうと考えた。流し、勢いを殺し、いなし、防御し、隙を産み出し、反撃し、極力早く殺して型をつけようと考えた。

 だが、相手もまた、殺し屋だ。それも、実力派の。

 互とも、敵の第一撃をナイフの刃で受ける事に成功した。その事自体には、敵も驚きやしない。距離があったからだ。距離を詰め、攻撃をした。距離を詰める時間が余裕となり、冷静さを生み出してしまうからだ。

 シオンは、そのまま、メアリの攻撃を弾いた。メアリの手は上に弾かれる。シオンはその間に逆手にまえていたナイフを正手に持ち直して、突き出す。ナイフの鋭利な刃が真っ直ぐ、メアリの喉元に伸びる。が、メアリは良い反射神経で体を横に捻り、それを避けていた。そのまま、シオンの首を断ち切るかの如く、横一線に振るう。シオンは察し、すぐにしゃがみ、それをなんとか、避けて、そのまま、ナイフを体を横に向けたメアリの腹部を狙って振るうが、メアリはそれを予期していたか、それとも反射神経が以上に早かったか、メアリはその軌道を先読みしたかの如く避けて、シオンの懐に入り込んでいた。

「ッ!!」

「アハ、」

 龍二のナイフの刃の側面と、ベルトロのナイフの正面がぶつかった。そして、龍二のナイフが僅かに傾く。その傾きは、相手のナイフの軌道をずらす傾き。相手が振り切る力を流し、相手の攻撃をいなした。

 ――が、その瞬間に、龍二の右手首がズキリと痛んだ。

 思わずナイフを持つ手の力を抜いてしまいそうになってしまったが、そこは、耐えた。龍二は思いっきり力み、歯を食いしばって耐えた。そのため、相手の攻撃を促す事に成功した。

「ラアッ!!」

 攻撃を受け流した動作を殺さず、龍二は相手の顔面に、ナイフを握った拳で、殴る。

「ッぶ、」

 龍二の右拳は確かに、ベルトロの顔面を捉えた。拳に確かな感触が残る。捉えた、と龍二は思った。左腕は使えないが、右手首を痛めているが、それでも、拳を振るう事に問題はない。確かに、右拳を相手に突き刺したと同時、右手首に痛みを感じたが、それでも、確かなダメージを与えたと確信した。

 ベルトロは、大きく状態を仰け反らせた。まさか、と言った感じなのだろう。龍二の左腕が使えない事は分かっていたはずだ。それが、まずかった。龍二は、龍二本人は、左腕を使わなければなんともない、と思って戦っていた。

(こいつ……!? 何が負傷中だ! 戦う相手としては最悪だぞ……!!)

 ベルトロは殴られ、圧された勢いを止め、態勢を立て直そうとする中で、そう心中の中で叫んだ。

 が、遅い。

 ベルトロが態勢を立て直すのと同時、その戻ってくる顔を穿つかの如く、龍二の跳び膝蹴りがベルトロの顔面を迎え撃った。塗れた地面でも、龍二はしっかり地を捉え、跳んでいた。その勢いは、向かってくるベルトロの顔面を確かに捉えた。今度こそ、致命傷。

 ベルトロは言葉にならない声を発して、大きく後ろに、吹き飛ぶ様に倒れた。

 雨で地が滑るか、ブッ倒れたベルトロは、背中を地につけると、滑って数メートル龍二から離れた。すぐに、立ち上がりはしなかった。

 フードが取れ、ベルトロの素顔が顕になる。

 思ったよりも老けた顔だな、と龍二は思った。雨に打たれて、地の水溜まりを吸って、髪型はすぐに変わってわからなくなるが、そんなに長くはないと見えた。皺がよっている表情が、経験を感じさせる。

 勝った、龍二はそう思った。

 が、

「動かないでね」

 と、背後から声。雨音に遮られないその甲高い声は、シオンのモノではない、とすぐに気づけた。

 首だけで振り返ると、現状が見えた。

「シオン……」

 メアリにとらわれる、シオンの姿。首元にはナイフが突きつけられている。そしてシオンの手にはナイフはない。

 シオンの綺麗な髪が雨でぐしゃぐしゃになっていた。

 シオンの目が訴える。私はいいからベルトロとメアリを殺せ、と。そんな演技めいた意思を龍二は受け取らない。

 チッ、と小さく舌打ちして、龍二は視線を倒れたベルトロに戻す。ベルトロは、今、なんとか起き上がろうと地に膝をつけたところだった。鼻血を吹き出しているところを見ると、鼻は折れたかもしれない。

 起き上がったベルトロは鼻を拭うが、血は止まらない。そして、龍二を睨む。

「やってくれたな……」

 静かに、だが、忌々しげにそう吐き出したベルトロは、そのまま龍二の正面までずかずかと歩いてきて、ナイフで斬りかかった。

 が、龍二はそれを右手一つでいなし、ベルトロを背負投げでもするかの如く、投げ飛ばした。どう投げたのかはわからないが、ベルトロは来た道を戻されるかの如く、跳ね返される様に、その身が投げ飛ばされた。

 まさかの反撃に、動くな、と言ったメアリも驚いたようで、大慌てで「動くなって言ったでしょうが!」と叫んだ。

 そんなメアリに対して首だけで振り返った龍二は、自分の足元を指差して、「一歩も動いてねぇだろ?」とわざとらしく笑った。その龍二の『余裕っぷり』に、思わず、メアリの手中に囚われているシオンは、笑った。龍二だ、と思った。

「そういう意味なわけないでしょう?」

 メアリは忌々しげに、糸切り歯をむき出しにして吐き出すと、シオンの首元に当てていたナイフを、僅かに、その白い肌に食い込ませた。シオンの表情が歪む。僅かだが、鮮血が首元から溢れ、雨に流されて行く。

 龍二は流石に、動きを止めた。――が、笑った。

「で、どうすんの? お前。メアリだったか? 仮にお前がシオンを殺したとして、その後どうなると思ってんだ? 俺は右腕一本で、お前ら二人を殺すぞ?」

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