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5.thunder storm.―18


 そうだ。浩二は今、クロコダイルの連中を始末し始めていた。それも、相手と同様、場所と時を選ばずに。

 浩二はkiller cell計画を滅ぼすために動いていた。と、なればクロコダイルの反協会態勢には賛同のはずだが。

 ――理由は簡単だった。

 息子を狙う敵を、そのまま放置しておけない。

 それだけだった。いくら自分と同じ目的を持っている相手だとしても、自分の――大切な――息子を、息子の命を狙う相手を、敵を、ほうっておくこと等できうやしなかった。できるはずがなかった。

 が、相手もまた本物の殺し屋。それも、それなりの力を持った殺し屋だ。

 浩二が雨の中、立ち上がったと同時、その後方数メートル先、そこに、既に構えた人物がいた。カッパで雨を避けている人物。両手には一丁づつの銃。

 が、浩二がそれに気づいていないはずがなかった。

 次の瞬間には、浩二が首だけで振り返った時には、その人物の喉元を刃が穿つ。雨のせいで吹き出すことはないが、鮮血が雨に流される事が分かる。人影は、倒れる。雨に打たれるだけのモニュメントとなる。浩二はそのモニュメントを跨いで、この大雨の中の屋上から出て行った。




    56




 右手が、右手首が痛かった。

 龍二はソファーに転がって、隣で寝ているミクを肩で支えながら、龍二はまだ動く右手を眺めた。クロコダイルの襲撃があった際、銃の故障によって痛めてしまった。左腕の様に使えなくなる事はないだろうが、暫くは痛みそうだった。

 湿布は貼っている。その程度の応急処置しか出来なかったが、ないよりはましだろう。

 そんな時に限って、インターフォンの呼び鈴がなった。

「誰だよ……」

 ミクの体をソファーの背もたれに静かに動かして預け、立ち上がる。ミクは起きなかった。ミクを起こさないように静かに歩いて、龍二は玄関へと向かった。

 念のため、覗き穴から外の様子を伺う。

 そこには、久しぶりにその姿を見る、円の姿があった。龍二は大慌てで玄関を開ける。ドアノブをひねる際にもやはり右の手首が痛んだが、行動に無理はなかった。

「ど、どうしました!?」

 久々に見る円の顔は少しばかりしょんぼりとしていた。傘はさしていないが、この大雨の中でも、少し濡れる程度でこれる距離ではある。

「日和来てない?」

「いや、来ていないですが……」

 と、そこまで答えて龍二は気がついた。

(あいつ……、円さんに言わないで京都行きやがったな……)

 その事実に気付いた龍二は呆れの溜息を吐き出して、とりあえず、と円を家の中に案内する。が、した、途端、円が豹変した。一瞬にして、しょんぼりとした表情から、鋭い表情になった。気付いた龍二は警戒するが、遅い。

 円は手を伸ばし、龍二の肩を押して玄関横の壁に彼を押し付けた。鋭い眼光が龍二を睨み、捉える。

 龍二も強引に彼女を引き剥がす事に抵抗があった。円は睨むだけで、攻撃をしてくる様子はないため、龍二はそのまま、息をひそめて円を見下ろした。

「なんですか?」

 何かがある、という事がわかった。それが殺しの世界の事情だろうと予想もついた。そもそも、家庭があって、そこで暮らしているというのに、日和一人がこっちの世界にいる、というのはおかしな話しだった。

「日和はしっかり帰ってくるのよね? 龍二君」

「か、帰ってきますよ……」

 困惑しながら龍二が答えると、円はすぐに龍二の肩から手を話した、そして、すぐに表情を普段の柔らかい笑顔に戻して、そう、じゃあ大丈夫ね。龍二君がそういうなら。と囁く様に言った。

 そのまま、視線を龍二の左腕に下ろして、

「それ、動かないのね?」

 鋭い指摘に、龍二は頷くしかなかった。そもそも、隠す理由もない。

「はい。肩から先は、全然。感覚もないっす」

「そう、何があったの?」

 龍二はリビングにミクが寝ている事を知らせて、紹介もして、円を連れてリビングへと移動する。飲み物を出して、龍二は今の現状を含め、今までの事を話し始めた。それを訊く円の表情、見た目は普段の優しい日和の母親だったが、真剣な態度は普段とは違い、龍二を僅かに威圧していた。

 外の雨の音は龍二の長広舌が振るわれ終わってもまだ、止みやしなかった。

「クロコダイル、か」

 何かを思う様に、顎に手を据えて円がそう言った。龍二はその何かを思うという仕草を見逃さない。

「何か知ってるんですか?」

 聞くと、円は顔を上げて、答える。

「ついさっきの事なんだけど、新宿で、クロコダイルの男が一人、殺されたって話しが回って来てね」

「…………、」

 聞いた龍二はこのなんとも言えないタイミングで、殺し屋が殺される事に疑問を抱いた。そして、思う。はやり、自分以外にも、クロコダイルや、今のマナーを無視するという事に疑問を抱く殺し屋がいるのだろうな、と。

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