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5.thunder storm.―14


 シーアを指差して、

「こいつもその医者ん所に連れて行ってやってくれないか? このままじゃ感染症か何かで死ぬだろ。俺が殺す前に」

 龍二は変わらぬ様子でそう言った。龍二のその発言にシオンはなんとも言えない表情を浮かべていた。自身も他から引き抜かれ、助けられた身であるが故、何も言えないのだろうが、今回は襲撃をかけてきた相手だ。助けを求め、仲間に入ったシオンからすれば何か納得がいかないのかもしれない。当然、春風は最初敵で、礼二をも殺そうとした事を知っているが、それでも、あまり乗り気にはならなかった。

 が、まだ、龍二がこのシーアを仲間にすると言った訳ではない。もしかすると、この女の身を何かに使うため、生かしておきたいのかもしれない。

 どちらにせよ、龍二を詮索するつもりはシオンにはない。シオンは「わかった。明日行きます。何度も往復するのもあれですし、見張りも兼ねてこの殺し屋が帰れるまでか、宮古ちゃんが何か変化を見せるまで病院に泊まろうかと」

「おう、済まないな。手間かけちゃって」

 龍二が申し訳なさそうにすると、シオンは「いえいえ、役に立てれば嬉しいですよ」と本心を吐露した。

 シーアは眼を丸くしていた。やはり、助けられるのか、という感情、疑問。ほうっておけば良いものを、と助けられる事はプラスだが、どうしてもそう思ってしまった。何故助けるのか、何故救うのか、考えても無駄だと分かっていながら、どうしても考えてしまっていた。

 が、やはり無駄だとわかっているので、シーアは何も言わない。




    52




「私は――『神代美羽』」

 その美人の発言に、春風は眼を丸くして驚愕した。思わず口を開けて間抜けな表情で固まってしまった。

 が、すぐに、硬直から解放され、抑えきれない興奮を顕にする。

「え、へあ? 神代美羽……って!」

 日和が頷く。

「そうだよ。龍二のお母さん」

 日和の紹介でどうも、と美羽は挨拶する。釣られるようにして、春風も大慌てで挨拶する。

「え、でも。浩二さんが美羽さんの消息はわからないって……?」

「あぁ、って事は浩二、生きてるんだね」

 どうやら、美羽も浩二の消息は知らなかったようだ。浩二のあの、互いに連絡を取らなかったという話しは本当だったらしい。

 が、疑問に思う事もある。

 どうして、日和は知っていたのか、という事。春風が意味深な視線を向けると、日和は察したのか、美羽と意味深なアイコンタクトをして、話し出す。

「まぁ、なんて言うんだろう。私は美羽さんにイロイロ教えてもらってた事があったからね。後援役として、ね」

「だから唯一連絡を取ってた。桃ちゃんなら、情報を漏らす事もないし、実際、桃ちゃんは殺しの世界にいる私なんかとは少しだけ違う存在だからね、情報漏れの可能性も最小限だったろうし、龍二の事も気になってたから、浩二にも黙って連絡をとってたの」

 日和の言葉に美羽が補足を入れた。が、春風にとっての疑問は、増える一方だった。

「え、桃ちゃんが殺し屋とは少し違うっていうのは……?」

 春風は気になる事を追求しようと純粋な欲求に従って問うが、

「まぁまぁ。立ち話もなんだし、中でお茶でもしながら話しましょうか」





 店内の裏へと案内された日和と春風。中に入るのは日和も初めてだったのか、辺りをきょろきょろと見回していた。当然、春風もそうしていた。二人のそんな仕草が面白く見えたのか、お茶菓子をトレーに乗せて持ってきた美羽が微笑ましげに見ていた。「何してるのさ、二人共。店がそんなに珍しい?」

 美羽が茶菓子を二人の前と自分の前に置いて、席に腰を下ろし、話しが始まった。

「で、桃ちゃんの件ね」

 と、美羽が視線を日和にやると、日和は頷き、日和が口を開いた。

「私は正確に言えば、『殺し屋じゃない』」

 その言葉一つで、遥えはすぐに察した。

「もしかして、実働役と組んでない?」

「そういう事」

 そもそも、この世界での殺し屋、というのは、実働役と後援役の二人以上の人間の事を指す。つまり、少なくとも今の春風は、『殺し屋』ではない。という事だ。ただの、武器職人とでも言おうか、ともかく、殺しの人間ではないのだ。

「いつから?」

「ずっと」

「なるほどね」

 ずっと、殺し屋ではない。そうとなれば当然疑問が出てくる。

「じゃあ、なんで武器作ってるの?」

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