5.thunder storm.―9
その言葉に、龍二は眉を顰めて押し黙った。
killer cell計画。最強の殺し屋を作ろうと協会が企てた計画だ。それは、明治も真相までは知り得なかった協会の一部の人間だけが根本までを知り得る秘匿情報。
龍二はまず思った。目の前の金髪の男は、どこまで知っているのか、と。
「お前がkiller cell計画の何を知ってるってんだ?」
「恐らく、八割程」
「恐らく?」
「あぁ、恐らく」
「…………、」
この会話から、龍二は男が龍二と同じように、計画の参加者ではなくとも、それを知ろうとする立場の人間なのだ、と予測した。そもそも、協会に半期を翻そうとするような相手だ。協会の暗闇を探ろうとするのは何ら不思議ではないだろう。
そして、龍二の考えは次に向かった。そもそも、協会はなぜ、最強の殺し屋を作り上げようとしたのか、と。
そもそも協会には数多くの殺し屋団体が所属している。そして互いに共生の関係で支えあっていた。が、今やその関係は崩壊してきている。そして、その最中に起きている、現在進行形で動いているkiller cell計画。
――答えが見えてきた。
「そうか。killer cell計画ってのは抑止力なんだ」
「その通り」
金髪の男は満足げに頷いた。当たりだ、という表現だった。
「お前達……、神代家は有り得ない話しの様に聞こえるが、確かに、細胞単位で殺し屋だ。訓練だけでどうにでもなるなら人類に優劣は存在しなくなる。だから、お前達の、神代家の力が協会は欲しかった。協会どころか、殺し屋全員が神代家は死んでも協会所属にはならないと知っているからな」
「それで、俺達のクローンを作ろうなんて馬鹿げた考えに走ったと」
「そうだ。実際、表でも言われてはいるが、人間のクローンを作る技術自体は存在するからな。人道的でないと理由で実現していない様に思われているが――、人間の好奇心を止められるはずがない。科学はそうやって進化してきたからな。そうして、killer cell計画が始動した。そして神代浩二、神代美羽、二人のクローンが『数体』完成した」
その言葉に、龍二はストップをかけた。
「ちょっと、待て。数体だと……?」
龍二の驚いた様子に、金髪の男はすぐに頷いた。
龍二はしまった、と思った。美羽のクローンであるミクを驚異となる前に手中に収める事ができて、前に襲撃をかけてきた浩二のクローンを浩二とともに打倒し、これである程度の事が片付いたと思っていた。あの時点で、現存するクローンは今、いないと考えてしまっていた。
そうだ、クローンなのだ。金さえあれば、いくらでも作り出せる。この安全国家日本の裏で殺し屋という存在してはならない連中をまとめる程の権力を持っている存在。そんな存在がその程度の事が出来ないはずがない。
「確認してるだけで神代美羽のクローンが、三体。そして、神代浩二のクローンが、一三体」
「一三体だと!?」
龍二は驚愕した。思い出す。あの時、一対一での戦闘では、状況があったが、負けていた。確実に、浩二がいなければ負けていた。殺されていた。そんな恐ろしい戦闘兵器が、一三体もいるのか、と驚愕した。
神代家を止められるのは、神代家だけだ。そう言っても過言ではない。が、その神代家が、そんなにいるのか。
「そうだ。成長過程は様々だが、成人しているのも見た。ある程度成長している個体は確実に訓練を終えているだろうがな」
「で、そのkiller cell計画と今回のその頼みがどう関係してくる?」
核心に迫る。
「簡単だ。俺達は協会を潰す。つまりそれは、killer cell計画自体をも潰す、という事だ」
言って、金髪の男は笑って、「どうだ? 野良の神代家、お前には、いい話しだと思うが」
手を差し出し、眉を顰める龍二の返しを待った。が、龍二は悩んでいるのか、暫く黙ったままでいたため、金髪の男が更に押す。
「今の時点で参加団体が九○を超えているし、お前程ではないが名前を売っている野良も参加意思を出してくれている。仲介者も、俺みたいな掃除屋も、その他諸々が集まっている。だから神代龍二、お前が参加してくれれば最高の戦力となり、それだけで士気があがる。最高の待遇も用意してある。どうだ?」
今のこの勧誘で、龍二は気付いた。この目の前の男は、その協会に反発する団体の、上位の役職に付く人間なのだな、と。
――それだけで、十分だった。
「何か、勘違いしてんじゃねぇのか?」
龍二は嘆息と共に吐き出した。
金髪の男にとって、今の答えは予想外だったのか、押し黙って眼を見開いた。そして、警戒した。護衛はいない、武器もない。が、警戒せざるを得なかった。そうだ、男は龍二が確実に仲間になると勘違いしていたのだ。
だが、そもそも前提がおかしい。男の話しを聞くと、どうにも、龍二が今の協会に不満を持っているように聞こえる。だが、それは少しばかり違う。
「俺は確かに協会は好きじゃねぇよ。でもな、今問題になってるのは、マナーを守らない殺し屋なんだよ。お前はそれで仕事が大変だのと言ってたじゃねぇか。俺を誘うためのセリフとして構成を考えてて喋ってたんかは知らねぇけどな。俺が今、一番腹を立てているのはマナーを守らない殺し屋の方だ。協会じゃない。それに、言っておくが――、俺は正直、俺にさえ迷惑をかけなければkiller cell計画なんてどーでもいいんだっての!」




