56 幸せな結末 ♢
記憶を失ったアルフォンス様が私の馬車の前に現れてからどのくらい経っただろう。その間に色々なことがあった。アルフォンス様は記憶を取り戻し、レンブランド様と合流してラインハッシュ様と戦い、ラインハッシュ様の真意を知って共闘しサイオスを捕まえて……。
本当に全てが終わったのだ。終わったのだけれど、私はなぜかまだ隣国ティムール王国にいる。帰ってもいいはずなのだけれど、私自身アルフォンス様と離れ難いと思っているのは事実。そして何より……。
「ミレーヌ」
ドアがノックされ、アルフォンス様の声がする。
「はい、どうぞ」
ドアが開くと、礼服姿のアルフォンス様が入ってきた。アルフォンス様は私の姿を見て目を見張り、微笑んだ。
「ミレーヌ、とっても綺麗だ」
そんなに嬉しそうに微笑んで褒められると照れてしまう。何よりも礼服姿のアルフォンス様もとっても素敵。
「アルフォンス様もとても素敵です」
嬉しくて思わずそう言うと、アルフォンス様が不服そうな顔をする。
「二人きりの時はアルと呼ぶ約束だろう。何より、もう夫婦になるんだ。様はやめてくれないか」
そう、これから私たちは結婚するのです。
サイオスが捕まってから半年もの間、レンブランド様達は事後処理に追われていた。その業務が終わると、アルフォンス様は私の二人の父上、デイリンハイム国王とハイエンド伯爵に挨拶に行きたいと言い出したのです。
「ですが、レンブランド様に婚約者がいないうちに動き出すのはまずいのでは?」
「それは大丈夫だ、そろそろ皆に紹介したい人がいる」
シャルド様の質問にレンブランド様が笑顔で言った。そう、レンブランド様には実は隠れた思い人がいたのです……!
その御令嬢は公爵家の方でレンブランド様が幼少期にお茶会で一目惚れをしていたそう。大人になってからまたお茶会で再会し、意気投合した後は隠れて二人で何度もお会いしていたそうだ。
「俺の近くにいるだけで他の御令嬢からやっかみを受けたり、嫌がらせを受けるかもしれない。彼女にはそんな目には合わせたくなかった。しかもサイオスの件では俺の命まで狙われたりもしたし、余計に彼女に危険が及ぶんじゃないかと思って絶対に隠しておかねばと思ったんだ」
全てが滞りなく終わり、ようやく婚約者として皆に紹介できるとレンブランド様は喜んでいた。
「第一王子に婚約者がいるなら俺にも婚約者ができても何ら問題はない」
そう言って、アルフォンス様は私を嬉しそうに抱きしめた。あの、皆様が見てらっしゃるので恥ずかしいのですけど……!
そんなわけであれよあれよと言う間にレンブランド様は婚約者発表、そしてすぐに結婚式を済ませ、それを見届けてからアルフォンス様は私の2人の父上に挨拶をして婚約発表、さらに今こうして結婚式へ向かおうとしている。
「ミレーヌ、ようやくこうして君と一緒になれる」
何だかすごく駆け足だった気がするけれど、アルフォンス様はその位一刻も早く一緒になりたかったそうだ。
私の頬に手を当てて嬉しそうに微笑むお顔は素敵すぎて蕩けてしまいそう。
「俺もレンブランドも王族家に生まれあの父親を見て育ってきたから、政略的な恋愛や結婚には前向きではなかったんだ。だからこそもし結婚するなら本当に大切に思いあえる人と結婚したいと思っていた。二人ともそれが叶ったんだ、奇跡のようだよ」
ふんわりと優しく、アルフォンス様が抱きしめてくる。
「何があっても絶対に俺の全てで君を幸せにするよ、ミレーヌ」
そう言って、アルフォンス様はゆっくりと私に口つけた。




