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49 キスの行方

 クラリーゼとの二人きりのお茶が終わり、ミレーヌはその時に起こった出来事をレンブラントとラインハッシュ、アルフォンスとシャルドへすぐに報告した。


「なるほど、その様子だときっとすぐにでもクラリーゼ様は行動を起こすでしょうね。尾行をつけているので何があってもすぐに駆けつけ証拠を掴むことはできるでしょう」

 ニヤリ、と口の端をあげてシャルドが言うと、ラインハッシュも満足そうに頷いた。


「ミレーヌ、よくやってくれたね。怖かっただろう」

 レンブラントがそう言うと、アルフォンスも心配そうにミレーヌに寄り添う。


「本当に無事でよかった。何か嫌な目には合わなかったか?」

 アルフォンスがそう言うと、ミレーヌは一瞬動揺した。


(クラリーゼ様が言っていたことをアルフォンス様にお聞きしても良いのかしら。でも、それがもし本当のことだと言われたら、私は平気でいられるかどうか……)


 ミレーヌの不安げな様子に、アルフォンスだけではなくレンブラント達も不審に思う。


「ミレーヌ様、もしも気になることがあるならはっきりおっしゃってください。今回のことに関わらないことであってもです。アルフォンス様に関する個人的なことでも構いませんから」


 シャルドがきっぱりと言うと、アルフォンスも同意した。


「もし俺のことで何か言われて気になることがあるならば遠慮なく聞いてほしい。誤解されたままでは困ってしまう。もし二人きりで話がしたいのならそうするよ」


 ミレーヌをそっと覗きこみアルフォンスが言うと、ミレーヌは一瞬口を開き、すぐに閉じて周りを見渡す。そしてまたゆっくりと口を開いた。


「できれば、アルフォンス様と二人きりでお話させてください……」




 ミレーヌの二人きりで話がしたいという希望を組んで、アルフォンスは自室にミレーヌを連れてきた。


(一体クラリーゼに何を吹き込まれたのだろう。ミレーヌをこんなに不安がらせるなんてろくなことを言っていないのだろうな)


 アルフォンスはミレーヌの苦しそうな表情を見て胸が痛くなる。


「ここなら誰にも邪魔はされない。一体、何を言われたのか教えてほしい」


 そっとミレーヌの肩に触れながらアルフォンスが話しかけると、ミレーヌはほんの一瞬だけびくりと肩を震わせアルフォンスから離れようとした。


 その行動にアルフォンスはさらに胸が痛くなる。


「すみません……!」

「……いや、いいんだ」


 ミレーヌの肩に触れた手をゆっくりとおろすと、アルフォンスは寂しげに頬笑む。


(こんなことをしたいわけではないのに……!ちゃんと、アルフォンス様にお聞きしないと)


 ミレーヌは胸の前で片手を握りしめ、アルフォンスの目をじっと見つめた。


「実は、クラリーゼ様がアルフォンス様から、……キスされたことがあるとおっしゃっていて」


 震えそうになる声を必死に絞りだし、ミレーヌは言葉を続ける。


「どうしてもそれが心に引っ掛かってしまうのです」


 ミレーヌの必死の発言を聞いて、アルフォンスは目を丸くした。


「キス?誰と誰が?」

「アルフォンス様とクラリーゼ様がです」


 ミレーヌに言われて、アルフォンスは頭の上にはてなが浮かび上がっていた。


(俺とクラリーゼがキス?なぜ?なぜ俺がクラリーゼにキスしなければならない?)


 アルフォンスは片手を頭に当てて悩むが、すぐに顔をあげてミレーヌを見つめる。


「すまないがそんな事実は一度もない。どんなに記憶を遡っても思い出せることがなにもない。クラリーゼが嘘をついたとしか思えないのだが」


(でも、クラリーゼ様は自信満々におっしゃっていたわ、とても嘘とは思えないのだけれど……)


 ミレーヌは両手を胸の前で組んで目線を泳がせる。

そんなミレーヌの様子に、アルフォンスはほんの少しだけ苛立ちを覚えてしまった。


(クラリーゼのことだ、さも本当のことのように言ったのだろう。だとしても、どうしてミレーヌは俺のことを信じてくれないのだろう)


 アルフォンスがミレーヌをじっと見つめると、その目線に気づいたのかミレーヌもアルフォンスを見つめ返す。だが、まだその瞳には不安の色が浮かんでいた。


「……アルフォンス様とクラリーゼ様は幼少の頃からお知り合いですし、一度は婚約者候補になったくらいですからそういうことがあったとしてもおかしくはな……」


「そんなことは絶対にない!」

 アルフォンス思わず声をあげてしまい、その声にミレーヌは驚いてしまう。その様子にアルフォンスはやってはいけないことをしてしまったとすぐに後悔した。


「あぁ、大声をあげてしまい、本当にすまない。怖がらせてしまった、ごめん、本当に。でも、これだけどうかは言わせてくれ」


 ミレーヌを真剣に見つめるアルフォンスの瞳に、ミレーヌは目線をそらすことができない。


「俺が今までキスをしたいと思ったのもこれから先思うのも、ミレーヌただひとりなんだ」




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