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48 二人きりのお茶会 ♢

 私は今、城内の庭園にあるガゼボでクラリーゼ様と二人きりでお茶を飲んでいる。


 クラリーゼ様からはあれ以来、ことあるごとにお茶に誘われていた。


「二人でお茶するのは構いません。ですが、何を仕込まれているかわかりませんのでこの解毒剤は必ず持っていてください。おかしいと思ったらすぐに飲むように」


「本来であれば近くで護衛できればいいのですが、我々が近くにいるとなるとクラリーゼ様は肝心なことを何も話さないでしょう。遠くからしか見守ることができず心苦しいです。ですが何かあればすぐにかけつけますから」



 クラリーゼ様が私に近づくように唆した人物の情報を得るためにクラリーゼ様と二人きりで会うということは、自分の身を危険にさらすようなものだ。だからこそラインハッシュ様もシャルド様も気が気ではないらしい。


「君にこんなことを頼むのは本当は止めたいんだ。君に危険が及んでしまうかもしれない。でも、こうするしか今は方法がないんだ、すまない」


 私の両手をギュッと握りながら、アルフォンス様は辛そうなお顔でそう言っていた。


「君の身に何かあったら俺が正気ではいられない」


 そのまま抱きしめられてしまい、なかなか離してもらえなかった……思い出しても恥ずかしくなってしまう!


「ミレーヌ様?」

 いけないいけない、クラリーゼ様に不審がられてしまうわ。今は目の前のクラリーゼ様に集中しなくては。


 二人きりのお茶会では、アルフォンス様がいかに素敵な殿方かということや、幼少期のこと、今までどれだけアルフォンス様に優しくされてきたかということをクラリーゼ様から延々と聞かされていた。


「アルフォンスお兄様はお優しい方だからミレーヌ様を邪険にはできないのだと思うの。でも、それはミレーヌ様がアルフォンスお兄様を助けてあげたから。ただそれだけのことよ」


 お茶を一口飲んでから笑顔でそう言うクラリーゼ様。


「私はずーっとアルフォンスお兄様の隣で仲良く過ごしてきたのよ。それはこれからも変わらないわ。あなたは一過性のものかもしれないけれど」


 それに、とクラリーゼ様は意地悪く微笑んで言う。


「私、アルフォンスお兄様にキスしてもらったこともあるのよ!ミレーヌ様はあるのかしら?ないわよね、どうせないに決まっているわ!」


 うふふ、と嬉しそうに笑うクラリーゼ様。アルフォンス様とクラリーゼ様が、キ、キス……?!


 だめよ、今はショックを受けている場合ではないのだから。

 気持ちを落ち着かせるために、深呼吸。



「そんなにアルフォンス様を大事に思っていらっしゃるのに、なぜアルフォンス様の命を狙うような人物の味方をしているのですか?」


 私の言葉に、クラリーゼ様は眉間にシワを寄せる。


「何を言っているの?アルフォンスお兄様が命を狙われたのはシャルドが無能だからでしょう」


「いいえ、シャルド様はギリギリまで懸命にアルフォンス様をお守りしていたそうです。アルフォンス様もシャルド様も何者かに命を狙われ、国外へ逃げるしかなかった。記憶を失うほどに危うかったのです。そんなことをした人物が、今度はクラリーゼ様を使ってアルフォンス様を狙っている……」


 ガシャン!と大きな音を立ててクラリーゼ様がカップを置く。


「そんなはずはないわ!私は一言もそんなこと聞いていな……」


 途中までそう言うとしまった!という顔をする。かかった。


「と、とにかくアルフォンスお兄様の隣にふさわしいのはあなたではなく私ですから!用事を思い出したのでお茶会はこのくらいでお開きにしましょう!」


 バタバタと慌ててその場を後にするクラリーゼ様。なんとか私のやるべきことは果たせたみたい。


 ふうっ、と息を吐いて手に持ったカップを覗くと、そこには疲れ果てた自分の顔があった。


 ……クラリーゼ様が言っていたキスのこと、アルフォンス様に聞いたらなんておっしゃるかしら。




☆ガゼボとは洋風の東屋のことです。

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