47 命の使い道
ラインハッシュが夜中に医務室で狙われた経緯について、翌朝レンブランドとアルフォンスへシャルドが報告する。
そこにはラインハッシュとミレーヌの姿もあった。
「とにかく無事でよかった。シャルドにも礼を言う」
レンブランドが笑顔で言うと、シャルドは片手を胸に当て、深くお辞儀をする。レンブランドの変わらぬ笑顔に、ラインハッシュは拳を握りしめて俯いた。
「さて、お前はレンブランド様とアルフォンス様に何か言うことはないのかな」
顔をあげたシャルドがラインハッシュに向けてそう言うと、ラインハッシュは静かに息を吸う。
「レンブランド様、アルフォンス様。この度は本当に申し訳ありませんでした。お二人、そしてシャルドと隣国の御令嬢ミレーヌ様やその兄上にも多大なご迷惑をお掛けしてしまい、贖罪のしようもございません」
床に片膝を突き、片手を胸に当てて深々とお辞儀をするラインハッシュ。その姿を、レンブランドは辛そうな表情で見つめていた。
「お二人を罠にかけ国を混乱させようとしたこと、アルフォンス様の命を狙ったこと、その気持ちに嘘はありません」
迷いなくはっきりと言い切るラインハッシュに、レンブランドはさらに悲痛な表情をする。シャルドはラインハッシュの言葉をただただ静かに聞いていた。
「ですが、幼少期からずっと4人で時間を過ごし、その間に培ってきた信頼関係にもまた嘘はありません。あの時間は私にとってかけがえの無い大切な時間です。それは今でも変わりません。そして、レンブランド様への忠義にも嘘偽りはありません」
アルフォンスとミレーヌは手を繋ぎラインハッシュの言葉に耳を傾ける。時折ミレーヌが思わずアルフォンスの手を握りしめるが、それに応えるかのようにアルフォンスもまたミレーヌの手を握り返した。
「この命がどうなろうとかまいません。国に対しての反逆行為として処分されることも覚悟しています。ですが、このまま終わるわけにはいきません。どうか、黒幕である人物を失脚させるためにこの命をお使いいただけないでしょうか」
ラインハッシュが言い終わるか終わらないか、レンブランドがラインハッシュに抱きついた。レンブランドの肩は大きく震えている。
「……レンブランド様、泣いておられるのですか」
抱きしめられたラインハッシュが静かに聞くと、レンブランドはさらに力強く抱きしめた。
「お前のことは絶対に許せない。第一王子として、絶対に許してはならぬことだ。……だが、お前にとって、4人で過ごした日々も信頼も嘘ではないということが本当に嬉しい」
抱きしめる力を緩め、ラインハッシュの肩を掴んで顔を覗き込む。ラインハッシュの瞳には涙でぐしゃぐしゃになっているレンブランドの姿が映っていた。
「俺に対する忠誠心に嘘偽りがないというのなら、どうか俺たちに力を貸してくれ。その優秀な頭脳と能力を惜しみなく発揮してほしい。そして、俺もここにいる皆も、お前のことを心から愛している。それは絶対に忘れないでくれ」
涙を流し微笑みながら言うレンブランドの言葉に、今度はラインハッシュが号泣する番だった。




