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46 死の契約

「まさか一命をとりとめるとはな。あの毒にやられないとはどんな体質の持ち主だ」


 薄暗い医務室、ラインハッシュの眠るベッドの横に立つ黒づくめ人物が静かに呟く。


「だが別段構わん。とにかく目が覚める前に殺してしまえばいいだけだ」

 そう言って、短剣を両手に持ちラインハッシュへ向ける。


 振り下ろされた、その時。


「!?」

 ラインハッシュが飛び起きて剣を避け、そのまま黒づくめの人物の手を掴み捻る。


「殺せなくて残念だったな。俺をそんな簡単に殺せる相手だと思っていたのか」


「な、貴様!なぜ起きている!?」


「残念でした~!嵌められたのはお前の方だよバーカ」


 医務室内に明かりが灯って、そこにはニヤリとした顔のシャルドが腕を組み壁に寄りかかって立っていた。


「な、なぜ第二王子の側近がここにいる!ラインハッシュ、貴様まさかあの方を裏切ったのか?!」

「ふざけるな、裏切って俺をこうして殺そうとしてるのはそっちの方だろうが」


 ラインハッシュがそう言うと、シャルドが押さえつけられている黒づくめの人物のフードを取る。そこにはラインハッシュへ食事を持ってきた兵士の顔があった。


「刺客が兵士に紛れ込んで食事へ毒を仕込むとはね」

「どうして毒が効かない!確かにお前はあの時苦しんでいたはずだ!」


 刺客の怒鳴り声にシャルドは冷めた瞳を向ける。


「食事に毒を盛ろうとすることは簡単に予想がつく。いつ毒が仕込まれてもいいように毎回ラインハッシュへの食事は運ばれる前にこちらで用意したものに変えていたからな。万が一運んでいる最中に毒を仕込まれたとしても、すぐ解毒できるようラインハッシュには解毒剤も持たせていた」


「お前のあの発言で毒を仕込んだ食事を持ってきたつもりになっているのだろうとわかったからな。演技をして医務室に運ばれてしまえば、あと直接は殺しにくるだろうと思っていたさ」


 刺客をねじ伏せ見下ろした状態でラインハッシュは冷淡に笑う。


「なっ……!お前が倒れたと知らされた時、レンブラント様もお前達も驚いていたと聞かされていたぞ!」

「それも演技に決まってるだろ、馬鹿か」


 ふん、と鼻で笑いながらシャルドは冷ややかなな目線を崩さない。



「第一王子と第二王子の優秀な側近をなめてもらっちゃ困るな」

「お前には黒幕を失墜させるための証人になってもらう」


 シャルドとラインハッシュの言葉を聞いて、刺客は肩を落とした。が、突然笑い出す。


「ふ、ふふふ、ははは!証人になるなんてまっぴらごめんだ!それにどうせなれはしない!……うっ、ぐはっ」


 そう言った途端、刺客は突然呻き声をあげて絶命した。


「……死の契約か」

「貴族に雇われた刺客にはありがちな契約だな。仕事を全うできなければ即座に死ぬ魔法がかけられている」


 脱け殻となった刺客を離し、ラインハッシュはシャルドを見る。


「さて、どうする。こうなることは予想済みだったが」

「そうだな。こちらがダメとなるとあちらに懸けるしかないだろう。……ミレーヌ様には辛い思いをさせてしまうかもしれないが」


 苦虫を噛み潰したような顔でシャルドは呟いた。




 

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