45 刺客
事件から一週間が経ち、薄暗い牢獄では変わらずラインハッシュが一人でおとなしく座っていた。
優秀な第一王子の側近が牢獄に入れられたと最初の頃は兵士達も騒然としていたが、数日も経てばあっさりと落ち付きを取り戻していた。
「おい、晩飯だ」
ガシャン、と質素な食事の乗ったトレイが隙間から牢獄内へ入れられる。
「ラインハッシュ様、私はあなたの味方です。あの方からラインハッシュ様を助けるよう言われています。いずれここから出られるよう手配しますので、それまでどうかご辛抱ください。質素な食事ですがきちんと食べてくださいね。栄養素を強めに含めておきました。体が資本ですから」
トレイを持ってきた兵士が小声でラインハッシュへ話しかける。
兵士の中にはもちろんラインハッシュ側の人間が潜んでいたのだ。
ラインハッシュはチラリ、と兵士を見ると少しだけ口の端を上げた。
「さっさと食べろ」
兵士は怪しまれないように周りに聞こえる大きな声で言うと、その場を後にした。
ラインハッシュは食事の乗ったトレイを数秒間眺め、おもむろに食べ始める。
質素なスープを飲み、カラカラに干からびたパンを口にいれて租借し、飲み込む。
「!!!!」
カシャン!とスプーンが落ちる音が響き、その場にラインハッシュが倒れ込む。
「うっ、がはっ」
ラインハッシュは首を抑えながらうめき声をあげてのたうち回る。
ラインハッシュの体が牢獄に当たって、ガシャンガシャンと大きな音がした。
「なんだ!うるさいぞ……ど、どうしたんだ?!!」
異変に気づいた兵士の一人がラインハッシュの様子を見て驚く。
その兵士の後ろには、先ほど食事の乗ったトレイを運んできた兵士が真顔でラインハッシュを眺めていた。
ラインハッシュが牢獄内で倒れたという情報は、国王とレンブラント、アルフォンスとシャルド、商人サイオスが揃って話し合いをしている時にすぐさま届けられた。
「ラインハッシュが?!」
レンブラントが驚いた顔で叫ぶ。アルフォンスとシャルドは逼迫した顔でお互いに見合わせた。
「幸い、すぐに兵士が駆けつけたため命に別状は無かったようです。ただ、現在は意識が戻らないようで」
「今はどこに?」
「医務室で治療中です。意識が戻るとしても明日になるだろうと医者は言っていました」
「そうか……とりあえずは無事なんだな」
レンブラント達は安堵してお互いに笑顔を向けあった。
夜になった。
真っ暗な医務室のベッドにはラインハッシュが静かに寝息をたてている。
医務室のドアがゆっくりと開き、黒い影が音もなく入り込む。そして、ラインハッシュのベッドの横に静かに立った。




