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44 婚約者候補 ♢

主人公視点の話は題名に♢がついています。

 アルフォンス様とシャルド様と一緒に王城の中にある執務室へ通された。ここはアルフォンス様の自室とは別に、第二王子としての執務を行う場所だと言う。


「自室の机の上も酷かったが、ここも見るからに悲惨だな」

「不在にしていた期間が長かったですからね。むしろ無事に戻ってこれたことをありがたいと思うべきですよ」


 アルフォンス様とシャルド様が二人でため息をつく。その様子が何だかちょっとおかしくて、つい笑ってしまった。

それに気づいたアルフォンス様がこちらを向いて微笑む。笑っている所を見られてしまってとても恥ずかしい。


「さて、ミレーヌ。クラリーゼのことなんだが」

 クラリーゼ様。先ほど庭でお会いしたとても可愛らしいご令嬢。アルフォンス様の腕をとって体を寄せるくらいに近しい仲だろうと思われる女性。自分とは違い、アルフォンス様の隣にいても何ら問題ないほどの存在に見えてしまう。

 

「はい……」

 思わず小声で返事をすると、アルフォンス様が両肩を掴んでジッと見つめてくる。あぁ、こんな時でもそのお顔は美しくてクラクラしてしまいます……!


「クラリーゼは私が成人した際に懇意にしてる貴族から婚約者候補にと言われた令嬢だ。だが、俺にとっては妹のようにしか思えないし、兄上に婚約者がいないうちは婚約者を自分にもという気にはなれなかった。それでキッパリとお断りをしたんだ」


 アルフォンス様の両肩を掴む手に力が入っているようでとても痛い。

「あの、そんなに力強く掴まれてしまうと痛いです」

「あ、あぁ、すまない」

 思わず両手を離すアルフォンス様を見て、シャルド様がくつくつと笑っている。


「クラリーゼとは今までもこれからも一切何もない。ただの幼馴染、妹のようなものだ」

「まぁ、クラリーゼ様はそんな風には思ってないみたいですけどね」

 シャルド様が話に割って入ってきた。その顔は先ほどまで笑っていた顔とは違い、とても真剣。


「クラリーゼ様は小さい頃から自分がアルフォンス様と結婚する相手になるべきだとご両親から言われて育っているようで、本人もそれを疑っていません。そもそもアルフォンス様は文武両道、見た目もこれなので女性からは人気も高い。当然クラリーゼ様もアルフォンス様を異性として見ているはず」


 シャルドの言葉にアルフォンス様が苦々しい顔をする。


「クラリーゼ様はレンブランド様に婚約者ができることをずっと待っています。レンブランド様に婚約者さえできてしまえば、アルフォンス様だって自分を婚約者にせざるを得ないとたかを括っているのでしょう。ですが、ここにきてミレーヌ様という存在が現れてしまった」

 アルフォンス様とシャルド様からいっぺんに視線を向けられて、どうしましょう、どきりとしてしまうわ。


「おそらく、ラインハッシュを唆した人物が今回クラリーゼ様のことも唆したんだと思います。ただ、それが無かったとしてもクラリーゼ様はいずれミレーヌ様を排除しようとしたでしょうね」

 シャルド様の言葉に、クラリーゼ様の張り付いたような笑顔が思い出される。まるでお前がアルフォンス様の側にいるのはふさわしくないと言われているかのような圧を感じる笑顔。


「今後クラリーゼ様はミレーヌ様に頻繁に接触を図るでしょう。その時に何を言われても動じないでくださいね。アルフォンス様のことを信じてあげてください」

 アルフォンス様も大きく首を縦にふる。


「クラリーゼがおかしなことを言ったとしても、どうか俺のことを信じてほしい。俺がこの世で愛しているのはミレーヌ、君ただ一人だけだ」

 そっと頬に手を添えながら見つめられそんなことを言われると、あまりの破壊力に倒れてしまいそう。


「クラリーゼ様はアルフォンス様が女性嫌いになった原因の一つでもありますから。二人の仲が潔白なのは俺も証人になれますよ」

 だから安心してくださいね、とシャルド様に言われてほんの少しだけ安心した。でも、心のざわつきはまだ残っている。



「さて、クラリーゼ様が動き出したとなると、あちらも警戒を強めなければならないな」

 シャルド様が真剣な顔でポツリ、と呟いた。




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