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42 兄の矜恃(クリス視点)

「クリス!クリスはいるの!?」


 甲高い母上の声がする。帰って早々こうなることは予想していた。


「母上、ここにいます」

「クリス!またミレーヌの所へ行っていたの?いい加減やめなさいと言っているでしょう!」

 不機嫌そうに言われるのも予想済み、というよりもいつものことだ。


「申し訳ありません、ジェームスに屋敷内のことについて色々と相談を受けまして。あぁ、ですが解決しましたのでお気になさらず」

 ジェームスと口裏を合わせた嘘をペラペラと述べてみせる。ミレーヌが隣国の第二王子を拾って匿っていたことや隣国まで足をのばしていることなど口が裂けても言えるわけがない。


「あの屋敷のことを気にするわけないでしょう」


 母上は扇で顔を半分隠しながらふん、と鼻を鳴らす。本当にこの人はミレーヌのことも、ミレーヌの住む屋敷のことも気にくわないのだな。




 幼少の頃、ミレーヌと正式に出会うまではこの母親にミレーヌについてどれだけ汚らわしい子か、どれだけ卑しい子かということをさんざん叩き込まれていた。


 だから、実際にミレーヌに出会った時には驚いた。言われていたこととは正反対に、純粋で誰にでも優しい良い子だったのだから。


 母上は第一王妃の親戚に当たる。だからなのか、傲慢で高飛車で、自分よりも下に見た者への態度が本当に悪い。

 男性を自分にとって身分をいかに上げるか、生活を楽にすることができるかというだけの存在として見ている。


 母親もその周りもそんな人間ばかりだった。だからこそ、それとは正反対のミレーヌにひかれてしまうのかもしれない。



 立場上はもちろんのことだが、たとえそれがなくても母上は俺がミレーヌと一緒になることを絶対に許さないだろう。

 もしそんなことになろうものなら、恐らくミレーヌを陰で殺そうとするかもしれない。


 何よりもミレーヌは俺のことを兄としか見ていないことはよくわかっている。だからミレーヌと一緒になろうなどとは思わない。


 ただ、誰よりもミレーヌの幸せを願っているし、ミレーヌが幸せになれるのであればどんなことでもしてみせる。


 ミレーヌの幸せを奪おうとするのであれば、何人たりとも許さない。たとえそれが母上であっても、国王であったとしてもだ。


 母上が第一王妃の親戚だからなのか、伯爵家の令息だからなのか、他の貴族は俺に対しての接し方があらかさまだ。


 ごまをする者、わかりやすく贔屓してくる者、とにかくわかりやすい。

 それを今回は利用させてもらおうじゃないか。


 ミレーヌのために、有益な情報を得て見せる。それが兄として今の俺にできる唯一のことなのだから。






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