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「そろそろ話してくれる気になったか」
薄暗い牢獄の前でシャルドが話しかける。牢獄の中にはラインハッシュがいた。拘束は解かれているが、牢獄自体に魔法発動を打ち消す魔法が施されており、逃げることはできない。
「特に言うことは何も無い。わかっているだろう」
ラインハッシュの言葉に、シャルドはやれやれとため息をついた。
「お前は今まさにこの瞬間にも仲間に狙われているだろうよ。話してしまった方が楽だぞ」
「別に。殺されようが構わない。目的を遂行できなかったんだ、生きている意味も特にない」
ラインハッシュがそう言うと、シャルドは明らかに怒りを孕んだ目をして見つめる。
「ミレーヌ様にあそこまで言われてまだそんなこと言ってるのか、この馬鹿」
シャルドの言葉に一瞬ラインハッシュの体が揺らぐ。
「ミレーヌ様は確かにお前とは状況が違う。あちらの方が恵まれているかもしれない。だが、彼女は育ての母ともすぐに死別し、継母には虐げられ続けてきたんだぞ。それでも自分の境遇を憂うことなくひたむきに生きてるんだ。少しは見習えよ。
それにあの方に言われたこと分かってないのか、馬鹿。お前も愛されてるだろ、レンブランド様に、アルフォンス様に、それに俺だって……」
「馬鹿馬鹿うるさいんだよ。それにお前にそんなこと言われても気持ち悪いだけだ」
「何だと、おま……」
シャルドが呆れたように言い返そうとすると、ラインハッシュはそれを遮る。
「それに今更もう遅い。俺はお前達を裏切った。裏切り続けていた。どれだけ俺がレンブランド様達に愛されていても、俺はそれを返すことができなかった。それが答えだろ」
「遅くねぇだろが!お前だってずっとちゃんとレンブランド様に忠誠を誓って生きてきたじゃないか。俺はちゃんと知ってる、ずっと側で見てきたんだ。節穴だなんて言わせないからな馬鹿」
シャルドが捲し立てると、ラインハッシュはゆっくりため息をついた。
「……そんなにすぐに切り替えられるわけがない。わかるんだろう、お前だったら俺のことが」
ラインハッシュにそう言われ、シャルドもまたため息をついた。
「すぐには無理でもいずれは言える日が来るかもしれないんだな。だったら俺はそれを待つ」
それに、とシャルドはラインハッシュを見据えて言う。
「待ってる間でもお前のことは有効活用させてもらうからな。待ってるだけは性に合わないんだ」
シャルドの発言にラインハッシュはフッと微笑む。
「好きにすればいいさ」
その場を後にしようとするシャルドに、ラインハッシュが静かに声をかけた。
「アルフォンス様とミレーヌ様の周辺には注意した方がいい。ミレーヌ様がアルフォンス様の婚約者候補になり得ると知ればどんな手を使ってくるかわからない連中がいる」
話を聞いて一瞬眉をしかめるが、シャルドはすぐ振り返ってニッと笑った。
「分かった。また来る」
「面倒臭いから当分もう来るな」
そう言うラインハッシュの顔は、ほんの少しだけ微笑んでいた。




