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39 企み

 ラインハッシュを拘束した翌日。ミレーヌの兄クリスは一度自国に戻り、何か情報がないか探りを入れてくると言い出した。


「隣国の内情はそうそう漏れることはないでしょうが、たまに情報通の貴族が嘘か真かわからないような情報を得ていることがあります。もしかすると今回のことも噂話か何かで知り得ている可能性がある」


 ただ、とクリスはミレーヌを見て心配そうな顔をする。

「ミレーヌのことを一人ここに置いていくのが心配でならない」

 ミレーヌの手を取るクリスに、アルフォンスの顔が一瞬だけ引き攣った。


「一緒に帰ろう、と言ってもどうせお前はここに残ると言ってきかないだろうな。わかっているよ」

「お兄様……」


「大丈夫です。ミレーヌ様のことはこちらで絶対にお守りします」

 ミレーヌの素性を知ってから、シャルドはミレーヌのことをミレーヌ嬢ではなくミレーヌ様と呼ぶようになった。ティムール王国第二王子の側近という立場上それは譲れないらしい。


「ミレーヌの身に何も起こらないようにすると、俺が第二王子の名にかけて誓いましょう」

 アルフォンスがミレーヌの肩を抱いてそういうと、クリスが明らかに嫌悪感を丸出しにする。


「あなたがこの国の第二王子だからと言って俺はあなたをミレーヌの相手として認めた訳じゃないからな」

 噛み付くように言うクリスに、シャルドはやれやれと呆れた顔をして笑う。

「だが、ミレーヌを任せられるのはあなたしかいないのはわかっている。だから」

 クリスが真剣な眼差しでアルフォンスを見つめ、ひざまづいた。


「どうか、ミレーヌをお守りください。アルフォンス王子」

 クリスの言葉に、アルフォンスだけでなくその場にいたシャルド、レンブランドも気を引き締める。

「お任せください、兄上」


 アルフォンスの言葉にミレーヌが顔を赤らめ、シャルドとレンブランドが思わず笑う。そしてクリスは絶叫した。

「だから!俺は、まだあなたを認めた訳じゃないからな〜!」





 ティムール王国、王城の一室。

「アルフォンス王子もラインハッシュも生きており、ラインハッシュは牢獄行きか。全く、面倒なことになったものだ。どうしてこう思い通りにいかない」

 やれやれ、と小太りの男が窓の外を見ながらつぶやく。

「さて、どうしたものか。ラインハッシュに全て任せていたがこうなってしまった以上、ラインハッシュは口封じのためにも早急に殺さねばならぬな……まぁどうせ最終的には殺すつもりではあったが」

 小太りの男の背後には、黒いローブを身に纏った男がいる。顔はフードに隠れて見えない。


「そういえば、アルフォンス様の側に見知らぬ女性がいると報告がありました。どうやら隣国に逃げた際に出会ったようで、アルフォンス様はひどく気に入っているようです」

 背後の男の言葉に、小太りの男は怪訝そうな顔をする。


「それはつまり、アルフォンス様の婚約者になり得る人物ということか?」

「あり得ないことでは無いと思われます。隣国の公爵家の御令嬢ということまではわかっていますが具体的なことはまだ何も」


「すぐに身元を割り出せ!アルフォンス様に婚約者候補が現れたとなれば、まだ婚約者候補のいないレンブランド様の立場が危うくなってしまう」

 ギリギリ、と小太りの男は歯軋りをする。


「隣国の御令嬢ともなれば安易に殺すわけにもいかぬか。とにかく二人を引き離す工作をせねばならんな。あぁ、そうだな、その際はあの令嬢を使って構わない、本人にとってもいい話になるだろうしな」

「御意」


 小太りの男の指示が終わったか終わらないかの間に、背後の男は姿を消した。






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