37 疑惑
何も喋ろうとしないラインハッシュをひとまず兵士が牢獄に連れて行き、部屋にはアルフォンス、レンブランド、シャルド、クリス、ミレーヌの5人だけになった。
「……あいつはまだ何か隠していそうですね」
「シャルドもそう思うか。俺もまだあいつには何かある気がする」
シャルドとレンブランドの話に、ミレーヌは不安を覚えた。
「まだ、何か計画があるということでしょうか?」
「いや、それよりもあいつがこの行動に出た理由だ。復讐のために長年計画を温めていただろうが、なぜ今このタイミングで決行したか、何かのきっかけがあったに違いない」
ミレーヌの言葉にアルフォンスが答える。
「アルフォンス様を殺そうとまでしたことにも納得がいきません。あいつは復讐のためであってもそこまでするような奴じゃない。もっとうまい方法を実行するでしょう。何かしらの理由があるはずだ。例えば誰かに唆された、手引きされた、とか」
「冷静沈着、誰かを唆すことがあっても唆されることがライにあるだろうか?」
レンブランドは疑問を口にする。確かにラインハッシュが誰かに騙されるということは万が一でもなさそうである。
「例えば、母親の死について何らかの情報を得た、もしくは情報を与える代わりに、ということならあり得るのでは?貴族内での派閥争いなどでは情報操作や提供による対価はありがちですよ。特にラインハッシュ様のような生い立ち、そしてお立場であればそれを使おうとする輩はたくさんいるでしょうね」
クリスが冷静に告げると、その場の一同が納得する。
「その線で探りを入れてみよう。ライが捕まったとなれば相手も慌てて何かしらボロが出るかもしれない」
「むしろそこに漬け込むのも手かもしれませんね」
レンブランドとシャルドが真剣に話をしている横で、クリスがアルフォンスに話しかけた。
「アルフォンス様、申し訳ありませんが妹を何処か安全で安心できる場所に連れて行ってはくれませんか。この一連の騒ぎで疲れていると思います。ミレーヌのことが心配だ。できれば付き添っていてくださるとありがたいのですが」
クリスの言葉に、ミレーヌがハッとする。
「お兄様!それよりもアルフォンス様は第二王子としてレンブランド様達と今後の話をしなければなりませんでしょう。私は大丈夫ですから」
ニコッと微笑むが、クリスもアルフォンスも神妙な顔をしてミレーヌを見つめている。
(お二人でそんな顔をされてしまうと、正直言って怖さすら感じます……)
思わず震える手をぎゅっと握り締めると、その手をアルフォンスの手が優しく包んだ。
「強がらなくていい。怖い思いをさせてしまってすまなかった。それに、君にとって大事なこともよく勇気を振り絞って話してくれた」
アルフォンスがそう言うと、ミレーヌは思わず目頭が熱くなってしまう。
(違う、だめ、泣きたいわけじゃないのに)
「そうだよ、ミレーヌ嬢。こちらのことは心配しなくていい。もしかしたらまた君の力を借りる時が来るかもしれない。立場は違えど、ライの心に一番近いのは君かもしれないから。だからそれまではゆっくり休んでいてほしいんだ」
レンブランドがそう言うと、シャルドも大きく頷いた。
「……分かりました、お気遣い感謝いたします」
ミレーヌは静かにお辞儀をして顔を上げると、レンブランドもシャルドもクリスも、ホッとした様子だ。
「行こう、ミレーヌ」
アルフォンスに促されながら、ミレーヌはその場を後にした。




