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36 迷い(ラインハッシュ視点)

視点名を間違えました。大変申し訳ありません……!!!

 どいつもこいつもわかったような口で勝手なことばかり言う。俺が今までどんな思いで生きてきたか、どんな思いで一緒に過ごしてきたか誰もわかっていない。そう、そもそもわかるわけがない。



 物心ついた頃にはすでに母親はいなかったし、どこで育っていたのかもよくわからない。ただ、時折偉そうな連中が会いにきて、お前は国王の子供だとか第一王子がお生まれになったから側近として育てようとか勝手なことを言っていた。


 どこからともなく俺は国王の妾の子だという話が耳に入る。母親は国王か王妃に殺されたとか男の子だったから命拾いしたなとか色々なことを色々な人から聞かされた。それが本当のことならふざけるな、俺が母親の仇を取ってやると腹の底でずっと思っていた。


 10歳になって、第一王子だというレンブランドという少年に会うことになる。綺麗な薄い青色のかかった白髪にアメジスト色の瞳。その髪色は俺の実際の髪の毛に一部だけ入っている色。レンブランドは腹違いの弟ということになるんだろうな。ちょっと勝ち気そうな顔立ちだけど根は優しそうだ。


 第一王子の側近としてうまく立ち回っていれば、自然に国王や王妃にも近づくことができる。母親の死の真相もはっきりさせられる。


 俺は俺の本心を偽ってこれからずっと生きていくんだ。母親の復讐を果たすまで。



「なぁ、なんでお前ってそんなにぶっきらぼうなわけ?そろそろ心を開いてくれてもいいんじゃないの?」

 第二王子の側近、シャルドには幾度となく絡まれる。こいつは出会った頃から人の懐にずかずかと踏み込んでくるので苦手だ。


「……めんどくさいやつだな。誰もがお前みたいに社交的だと思うな」

「でもレンブランド様にはだいぶ懐いたようだし、そろそろ俺とアルフォンス様とも仲良くしてくれてもいいんじゃん」


 うらうら〜と肩肘で突かれる。本当にめんどくさいやつだな。

「俺は第一王子の側近だ。第二王子とその側近といちいち仲良しごっこするつもりはない」


「でもレンブランド様は俺にも優しいよ?アルフォンス様だってお前に優しいだろ?お前だけだぞまだぶっきらぼうなの」

 つまんね〜じゃん、4人で仲良くしよぜ〜とシャルドは言う。


 3人が皆思った以上に良い人間だとわかって、だからこそ必要以上には踏み込みたくない。俺の目的を遂行するには第一王子と第二王子をいずれ巻き込むことになるかもしれない。そして第二王子を巻き込めば必然的に側近であるシャルドも巻き込むことになる。


 情が移るのが一番困る。そう思ってしまっている時点でダメだったのかもしれない。

 第一王子の側近として日々暮らすようになってから、4人で過ごすうちに第一王子と第二王子の人柄と仲の良さ、シャルドの側近としての姿勢や好敵手として存在していることを強く実感するようになった。


 俺は生まれた時から母親がいないし国王からも父親として接してもらったことがない。周りの人間も皆腫物を扱うように接するか、国王の隠し子だからと変にゴマをするような奴らばかりで愛というものがなんなのかわからない。


 だから3人に対する感情も、3人から受ける感情も一体なんなのかわからないでいた。ただ大切で無くしたくない、そう思い始めてしまっていたことは間違いない。


 だからこそ決行すると決めた時、絶対に迷わない、誰かを悲しませてしまったとしても後悔などしないと誓ったはずなのに。

 


 


 目の前に悲しそうに、でも優しい笑顔をしたレンブランド様がいる。その顔を見てもなお、俺はこうするしかないのだ。

「……言うことは何もありません。早く牢獄へ連れて行ってください」


 俺は本心を伝えることすらすべきではないと、そう思っているのだから。




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