35 愛
「確かに、私は恵まれています。多くの人から愛を受け取っています。勿体無いくらい。……ラインハッシュ様は私が持っているものを持っていないとおっしゃっていますが、果たして本当にそうなのでしょうか」
ミレーヌの言葉に、ラインハッシュが苛立ちを覚えた顔で睨みつける。
「どういう意味ですか」
「レンブランド様はあなたに裏切られていたと知ってもあなたを殺すことができませんでした。むしろ、殺せないと涙ながらに言っています。それは何よりも、レンブランド様がラインハッシュ様のことを愛していらっしゃることだとは思いませんか。」
ミレーヌはそう言いながらゆっくりとシャルドを見る。
「シャルド様も、あの場であなたを一思いに殺そうと思ば殺せたはずです。あなたはレンブランド様やアルフォンス様を脅かす存在、しかもお二人の中を引き裂こうとし、国を混乱させようとした張本人です。
第二王子の側近として許せないはず。ですが、あなたに生きて償えと言った。あなたの所業を聞いてなお、あなたを信じたい気持ちがあったからに違いありません。そして、アルフォンス様もそれを止めなかった」
ミレーヌのひとつひとつの言葉に、その場の一同がじっと耳を傾ける。
「あなたは、あなたが思っている以上に皆様に愛されているんです。そして、あなたも本当はそれをわかっているのではありませんか?」
「うるさい!!!」
ミレーヌの言葉を聞いて、ラインハッシュは思わず叫んだ。
「うるさいうるさいうるさいうるさい!お前に何がわかる!黙れ!」
「黙りません!あなたは死のうとしました。しかもあろうことか、レンブランド様に殺されようとしました。一体どういうおつもりなのですか。
殺されるのならレンブランド様に、とでも思ったのですか」
「うるさい!黙れって言っているだろう!」
「お前のことだ、国を脅かす存在を第一王子が暴き始末したという事実でレンブランド様を次期国王として揺るがないものにしようと思ったんだろ。
国王の隠し子という忌々しい自らの存在で今の国王が叱責した後は、レンブランド様がすんなりと国王になれるようにと。お前は今の国王の国政をあまりよく思っていなかったからな」
シャルドの言葉に、ラインハッシュが苦々しい顔をする。
「俺にお前のことがわからないなんて思うなよ。どれだけ長い年月一緒に過ごしてきたと思ってるんだ、馬鹿野郎」
腕を組み、ふん、と鼻を鳴らしながら気にくわないという顔のシャルドを、アルフォンスは微笑みながら見つめていた。
「ラインハッシュ。いや、ライ、そうなのか」
レンブランドがラインハッシュの目の前で、目線を合わせる。だが、ラインハッシュは目を合わせようとしない。
「俺は兄上の王位継承を邪魔するつもりは毛頭ない。むしろ第二王子として兄上を支えていくつもりだ。だが、どうしても派閥というものは存在する。それをラインハッシュは危惧していたのか。
自分の身を使ってまで兄上の立場を揺るがないものにしようとしたということか。ラインハッシュは本当に兄上のことが大好きなんだな」
ふっと微笑みながら言うアルフォンスに、ラインハッシュは思わずカッとなって顔を上げるが、そこには同じように優しく微笑むレンブランドの顔があった。




